第5話:悪魔ソーリーの憂鬱

悪魔ソーリーが、デスリンボーを打ち破ってから数日後。

ソーリーと、元どおりに戻ったアイムは、リンボーヒール村を訪れていた。


村人の頭をわしづかみにして、更には鋭い爪を、村人の首筋に突き立てているソーリー。

彼女は不満げな表情をしながら、掴んだ村人の頭を締め付けていく。


「ひあ……たす、助けっ……がっ」村人

「どうした。助けてほしければ、怒ってみろ。こんな目に遭っているのだ。私が憎かろう?早く、怒りの感情を出すがいい」ソーリー

「あ……うげがっ!」村人


村人の腕がだらんと下がる。

ソーリーが力を入れ過ぎたため、頭が砕けてしまったのだ。


ソーリーは、村人を表通りに投げ捨てる。

通りには既に、いくつもの死体が転がっていた。

それら死体の全てが、恐怖の表情を浮かべており、怒りの感情など、微塵も感じさせない死に顔であった。


「中級悪魔になれば、人間どもに怒りを蔓延させることができると思っていたが。難しいものだな。これでは下級悪魔の頃と何も変わらない。……欲望の悪魔のやつは、よく村を、欲望だらけにできたものだ」ソーリー

「は……はいっ……」アイム

「村人を襲い、怒りを買うつもりだったが……。やめだ。この村の連中は、意地が悪い。私が直接手を下すと、怒りの感情を出さなくなってしまう」ソーリー


少しだけ口を尖らせ、上へ上へと浮かんでいくソーリー。

アイムも後を追って、リンボーヒール村の上空へと移動する。


「あ、あの……。島の上で一体何を」アイム

「そもそもの話だ。こんな空中に村があっては、争う機会もなく、怒りの感情を育みにくいというもの。……私がよりよい環境で、人間どもを鍛えなおしてやろう!」ソーリー


ソーリーの爪に、怒りのエネルギーが溜まっていく。

そして、ソーリーが爪を振りかざすと、怒りのエネルギーが刃となって、島の底面部を粉々に打ち砕いた!

支えを失った島は、重力に従い、海に向かって落下していった。


「あああ……!島がっ!」アイム

「この周辺は、国に属さない海賊や荒くれものが多い。怒りを心に戦わなければ、村はすぐに滅びるだろう。もし島が無法者に乗っ取られても、身内で争うような連中が集まるのならば、私は大歓迎だ」ソーリー

「ご、ご主人様っ、あれを!」アイム

「うん?」ソーリー


ソーリーに撃ち落された島は、すでに海との衝突を終えていた。

村一つを乗せた島は、大きな水しぶきを上げながら、海水を押しのけて、海面よりも深い位置に達している。

このまま孤島として機能すれば、ソーリーの計画は成就していたはずだ。


しかし、悪魔にも妖精にも予想だにしないことが起きた!

島が、浮かんでこないのだ!

海面よりも深くに沈んだ島は、そのまま海水に飲み込まれてしまった!

海中の村から、数えきれないほどの恐怖の感情が、空中にまで流れ出ている!


ソーリーの計画は、ものの見事に失敗してしまったのだ!


「……ちぃっ!島民以上に意地悪な、悪魔に優しくない島だ……っ!」ソーリー

「あ、あの、ご主人様。もうこの島は諦めて、ほ……他のところに移住した方がいい気が」アイム


アイムが言い終わる前に、ソーリーは、妖精の小さな体を片手の内側に収める。

その際、ソーリーの長い爪が、彼女自身の腕を傷つけていたが、全く意に介する様子はない。

ソーリーの握る力は弱まることなく、アイムを捉えた指は狭まっていく。


「それはできんっ。この星に存在するほとんどの地域には、既に、徒党を組んだ上級悪魔どもがナワバリを持っている。私が出向いてやったところで、私を王として迎える殊勝な悪魔などいないっ」ソーリー

「ひぃああぁ!ご、ご主……手がぁ……!」アイム

「それとも。この私に、たかが上級悪魔どもと肩を並べていろ、とでも言うつもりか?それは、許すわけにはいかない。他ならぬ、この私が許さん!」ソーリー


ばちゅん、という音とともに、妖精は弾けた。

紙のようになったアイムを頭上に掲げ、ソーリーは言葉を続ける。


「私は、このリンボーヒール村を諦めたわけではない。必ず、しぶとく生き残る村人がいるはずだ」ソーリー

「はい……」アイム

「村人どもを利用し、村に怒りをもたらす。どれだけの年月をかけようとも、必ずだ。そして私は、最上格である上級悪魔になってみせる」ソーリー

「はい」アイム

「アイムっ。貴様は、私の成功を見届けろ。海の中までついて来い、などという酷なことを言うつもりはない。だが、決して逃げずに見届けるがいい。逃げたら、地獄だと思え」ソーリー

「は、はい……」アイム


ソーリーは、紙状の妖精を放り捨てると、一人で、海中に沈んだリンボーヒールへと向かっていった。


悪魔ソーリーによる野望が、今まさに動き出したのでる!

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