第6話

 ――ジリリリリ

 突然頭に響いたのは、設定しておいた携帯のアラームだった。屋上で昼休み終了のチャイムが聞こえるか定かではなかったことから設定していたものが、運良く俺の眠りを覚醒させた。

 が、結局眠ってしまっていたのか。

「随分とお寝むようでして」

 覚醒後の視界には、マリアがいた。よく見ると、羽織っていたはずのカーディガンがなくなっていた。

「でも、じっくり観察したおかげで、よく分かったことがある。ゆうちゃんは、インドア派に見えて、実は体は結構実用的。芸術性は低いけど。後はもう一つ、私とゆうちゃんは、似てる」

「どこかですか」

 それには思わず突っ込みを入れてしまった。

「そのうち分かるよ」

「分かんないと思いますよ」

「ゆうちゃんに脳みそがあればね」

「またそれですか」

 無駄な問いかけなのだろう。そう察し、俺は荷物をまとめて、そしてこの逃した勉強時間をどこで補填するか計算しながら、屋上を去ろうと立ち上がった。

 肩に掛かっていたカーディガンは、そのとき落ちた。そして初めてそれに気づいた。俺のものではない。さっきまでマリアがしていたものだった。

 地面を見ると、影は移動し、日向だった場所が消えていた。

「これって、中野先輩のものですか」

 俺がそれを拾い上げると、マリアは黙って取った。再び羽織れば、まさしくマリアのものだと証明した。

「……中野先輩って、何者なんですか」

 ふとした質問が出ていた。

「マリアはマリアだよ」

「いや、そうじゃなくて。いや、それもそうなんですけど。マリアって自称したり、屋上の鍵を持っていたり、男子一人軽く捻る力があると思えば、それで脅迫したり。なんでそんなことができるんですか」

「したいから、してるの」

 マリアは笑っていった。

「ゆうちゃんだって、私と似てるんだから同じことができるはずだよ」

「俺はそんなことするつもりはないです」

「しようとしないからでしょ」

「ないものを、どうやってやれと?」

「なんでそんなこと聞くの? そんなの、ゆうちゃんが自分で見つけるべきことでしょ。ゆうちゃんのやりたくないものを、自由勝手にやる方法なんだから」

 マリアはそれだけ言って、屋上を去ろうとした。

「あ、上着、ありがとうございました」

 俺は、その一言を添えた。

 マリアは振り返った。

「私がしたくてしたことだから。あと、もう一つ、いいことを教えてあげる。他人が勝手にしたことに対して、ありがとうなんていうもんじゃないよ」

「……言いたいことを言っただけです、中野先輩」

「あ、そう。なら別にいいや。ただ、その名前、嫌いだから呼ばないで。マリア先輩って呼んで。呼ばなかったら、折るからね」

「……じゃあ俺も、ゆうちゃんって呼ばれるの、いやなので、立川くんって呼んでください、マリア先輩」

「やだよ、ゆうちゃん」

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