第5話 歪んだ真実(もう一つの真相)

(あー、せいせいした。


俺の人生をこんな風にした鬱憤は少しは晴らせたわ。)


とは言え、今の俺の状況が変わる訳でもないがな。



言っておくが、俺は嘘はついていない。


「そう言えばあの日、ビルの屋上から「ぶっ殺す」みたいな不穏な声が聞こえたような・・・」


警察から当時のことを聞かれ、そう答えたのは事実だ。


だが、二つだけ警察には言っていないことがある。


一つは「事件があったちょうどその日に、大声が聞こえたかは定かではない」事。


そしてもう一つは、「重要参考人のことを俺は知っていた」と言う事だ。



「演劇の練習」とやらが一回で終わる訳では、普通ないだろう?

そう、ちょうど事件があったあの頃、あの男は「毎日のように屋上で練習していた」のだ。

だから誰か、- つまり俺 -が、「不穏な声を聴いた気がする」と言えば、警察もおそらく本人も「事件当時に別の者が屋上にいた」と思い込むのではと考えた。

実際、その男はテレビとかは見ていなかったわけだから、曜日、日付感覚があやふやだったろう?


・・・最初から「自殺」とかで終わり、再調査が無かったら、わざわざ言う気はなかったさ・・・これは俺にとっても、霹靂的な憂さ晴らしだった。


もう一つの「重要参考人のことを俺は知っていた」は、俺と関わりの全くない故人はもちろん、参考人の個人、会社関係を洗いだしても出てこないだろうな。

・・・当然だろう。俺はこの男たちと会話したことすらない。

 では何故、俺は重要参考人のことを知っていたかというと、「男が以前勤めていた会社に入社しようと考えていた」からだ。具体的に言えば就職活動の際の会社訪問で、この男の顔は見ていた。平では無かった印象だ。


俺は楽をして生きたい。


廃ビルに以前あった会社は、地元では比較的安定した優良企業だった。

福利厚生充実、労働環境ホワイト、ここに入れば適当にやってても露頭には迷わずにすむ!

そういう触れ込みがあったはずだ。・・少なくとも昔は。


しかし、この会社はあえなく潰れた。理由など知らない。


・・・ただ一つ言えることは、俺の人生設計が大きく狂ったことだ。


他の会社もいくつか入っては見たが、だいたい黒、良くてグレー。

俺の理想の会社には出会えず、気づけば日雇いのバイトの日々。


そんな中、俺をこうした元会社の奴が、のうのうと新たなところで活躍してると知ると、嫌がらせもしたくなるだろう?


だから俺は嘘ではないかも知れないが、事件と関わりあいがあるかは微妙な証言をした。

・・別に何もなくてもどうとも思わないが、結果的にこうなったらしいので少しは溜飲が下がったってものさ。



ちっ、もうくだらねぇバイトの時間だ。じゃあな。

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自殺? 事故? 他殺? Syu.n. @bunb3

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