第3話 他殺?(問題編(3/3))
「Q.自殺しようとした屋上に、乗り越えられる高さのフェンスがあればどうするか?」
「A.乗り越える」
他の解も多くあるだろうが、普通に考えたらこうなるだろう。
実際、フェンスには乗り越えた際にできたのであろう故人の指紋も検出された。
・・・が、ただ乗り越えたにしては妙にフェンスが曲がっている。
実際、故人に近い身長、体重の警察で再現してみたが、曲がりすぎてそこから乗り越えるのは困難とわかった。
つまり、故人が寄っかかって落ちた「事故」の可能性と、他の人物に背後から押された「他殺」の可能性も出てきたのである。
勿論、元からこうだったとも考えられ、「自殺」の可能性も無くなった訳ではない。
よくありがちな「飛び降り自殺」と思われた案件が、ここにきて「事故」、「他殺」の可能性も大きくなったのである。
担当関係者は頭を抱えたい気持ちであろう。
(さあ、どうなる?)
ここで急転直下の事態が起こる。
「事故」「他殺」の可能性も大きく踏まえた上で再度、死亡推定日時に関する周辺の聞き込みを念入りに行ったところ、気になる証言が得られたのだ。
「そう言えばあの日、ビルの屋上から「ぶっ殺す」みたいな不穏な声が聞こえたような・・・」
その証言を元に調査を進めた結果、一人の男が重要参考人として警察に任意で事情聴取されることとなった。
30代男性、独身。職業は劇団員・・・は以前、現場が廃ビルとなる前に存在していた会社に勤めていたという。
「・・・確かにその日は、そのビルの屋上にいました」
「その日、「ぶっ殺す」みたいな不穏な声が聞こえたという聞き込み結果があるのですが、心当たりはありますか?」
男は持っていた台本らしきものを開き、指し示して言った。
「演劇の練習です!信じてください、刑事さん!!」
確かにそのようなセリフが書いてある。後日、所属する劇団に警察が問い合わせた所、参考人が演じた役で間違いないとの答えが来た。
「・・・その時、自分以外に人がいたことに気づかなかったのですか?」
「・・・・・。稽古に集中してたから、気づかなかったんだと思います。」
「何故、今まで我々警察に教えてくれなかったのですか?」
「・・・舞台が終わるまで演劇に集中するため、ニュースとか見ないようにしていたんです。」
「終わった後テレビを見てたら、心当たりがあるところで死んだ人がいるって知って、怖くて言い出せなかったんです。すみません・・・」
刑事は頭を抱えた。
この参考人の言っていることが本当だとすれば、彼は無関係だ。
実際、彼と故人の関係を示すものは今のところ全く見当たらない。
だが、「できすぎている」と言うのも否めないのだ。
「他殺」かも知れない現場に「たまたま」居合わせて、「たまたま」不穏な発言を聞かれた。
これを偶然と片づけるのは、早計だろう。
発言が真であれ偽であれ、参考人もそれは承知しているようだ。
「・・・申し訳ありませんが、今すぐ家に帰すことはできません。しばらく拘留させていただきます。」
重要参考人はうなだれながら、うなずいた。
(どうしてこうなった・・・?)
(・・・しめしめ)
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