SF(スコシ・ファインド)

 僕はある事実に気づいた。

 そのとき僕は――僕らは――いつものようにストリートを行進していた。今日は10月5日、時刻は午後4時半頃。いわゆる帰宅――ラッシュとまではいかないが、僕らは駅の向こう側から運河の如く流れていく。流されていく。

 背後から自転車に跨った男子高校生が二人、僕を追い越した。一人が一瞬、僕の方を振り向いた気がしたが、思うことなく視界から姿を消した。僕らは行進を続ける。

 僕の先を一人の女子高校生が――他校の生徒だ――歩いていた。僕は彼女のスカートから伸びる、真珠母色しんじゅもいろの生脚に目を遣る。スカートの丈は膝より少し上だ。

 誤解される前に話しておくが、僕は決して彼女の生脚を、下心を持って眺めていたわけではない。そのとき僕の頭は有象無象で満ちていて、特に何も考えていなかった。特に何も――。


 何故?


 何故僕は彼女の生脚を眺めていたのだろう?


 何故僕は彼女の生脚に目を奪われていたのだろう?


 彼女が魅力的だったから?


 いや違う。


 そもそも、僕は彼女の事なんて見ていなかった。


 僕は気づいた。


 ストリートの中で唯一、彼女の生脚だけが生きていたのだ。

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