第5話  どや!

 侯爵様の使用人選抜試験!それは実に倍率20倍だという。

 今、僕たちは試験会場である家事使用人ギルドのホールの机に座って、開始の合図を待っていた。

 なんだか他人事の様だけど、あんまり緊張していない。柚夏も緊張してないみたい。

  

 この国には、この世界に転移して来た時に、柚夏が言った様にギルドがあった。

 僕が、柚夏に付き合って読んだラノベのギルドとはちょっと違って、なんていうか…互助会っぽい感じだった?

 リーズさんとノットさんに連れて来てもらった家事使用人ギルドでは、侯爵様の使用人選抜試験への申し込みと、過去問題を貰えた。まさか、異世界に来て受験勉強をするとは思わなかった。

 過去問をもらった僕たちは、思わず目を見合わせた。

 計算って、小学校1年生レベル。ちょっと難しい問題でも、せいぜい小学生レベルの域を出ない。

 超難問がどうも鶴亀算っぽい。解き方が書かれてるけど、連立方程式を知ってる僕たちだと、あっという間に解けちゃうよ?

 50問で100点満点。合格ラインは、50点って、低すぎだろ! 制限時間60分もあるんだよ?

 30問は2桁までの足し算引き算なんだよ? 乗除算も無いのに、なんでそんなに低い点数なんだろ?

 2人共、過去問は100点でした。

「どや! どや! どやー!」

 顔と態度だけじゃなく、声でまでドヤってる柚夏には悪いけど、一応高校…は入学前だから、僕たち中学卒だからね?

 礼儀作法も、一通り目を通したら全部覚えた。だって、あまりにも簡単なんだもん。

 ノックの回数なんて知らなかったけど、正しい入室は3回以上って言われたらその通りにしたらいいだけじゃん。

 しかし、2回はトイレで「入ってますか?」って時か、夫婦とか仲のよい人にだけって、本当に初めて知ったよ。  

 

 試験までの1週間で、ほぼどんな問題でも解ける様になったけど、面接だけは行き当たりばったり。

 元々、侯爵様っていう国のトップレベルに偉い人のお屋敷の使用人選抜試験。

 当たって砕けろだな。いや、砕けたくはないけど。


 そして、試験が開始された。

 もうね、結論を言います。2人共、筆記試験は余裕でした。

 柚夏ですら、同じ感想。

 結果は、即日発表。全科目満点は、僕と柚夏だけでした。

 というか、第三位の平均点は60点。その他は、ずらっと50点以下。

 合格者は、面接に進めるらしいので、このまま面接会場へ。

 こっちも結果だけ言いましょう、合格でした。

 だって面接内容が、

「試験の成績は素晴らしい! 是非とも侯爵家に来てください! 研修がありますが、いつから来れますか? 住み込みですが、大丈夫ですか? あ、後で服のサイズを測りますので残ってくださいね。では、本日はお疲れさまでした」

 すでに採用前提の説明だけでした。

 柚夏も僕とほぼ同じ内容の面接だったけど、一つだけ違うのは、

「ご主人様にボディータッチをされたからと言って、怒ったり騒いだりしてはいけません。不愉快であれば、執事長である私に報告してください。それとなくご主人様に伝える様にいたします。大丈夫ですか?」

 うん、セクハラもあるみたいだね。この辺だけは、思い描いた異世界貴族だ。

 柚夏も、苦情を言う先が有るのなら…と、渋々だったみたいだけど、了承したようだった。


 実は後で知ったんだけど、新しい侯爵様って事しか知らなかったけど、この侯爵様って、実はとんでもない人だった。いや、一家揃ってとんでも無かった!

 大戦の英雄にして、騎士から実力でのしあがり、侯爵昇爵が内定している現アルテアン伯爵。

 その嫡子は、11歳で聖なる女神の使徒として隣国との戦に参戦し、たった一人で死者ゼロで戦を収めた英雄。

 しかも王国史上最年少で独立した貴族家を立ち上げ、伯爵昇爵が内定している、現アルテアン子爵。

 さらには、子爵様には、第四王女様に、隣国の姫巫女、幼い時から彼を支えてきた平民の美少女、という3人の婚約者。

 この英雄一家を支える美しい女傑、伯爵夫人。

 さらに妹は、聖なる女神ネス様に巫女に指名されたらしい。

 

 いや、そんな凄い一家の使用人が、柚夏でいいのか? 本当に出来るの? 間違いなく何か粗相したら物理的に首が飛ぶよ? 日本であんなにグータラだった柚夏に勤まる? 何だったら僕が1人で仕えるから。大丈夫、ちゃんと柚夏は養うから!

「養う…永久就職…」

 まあそれは、いずれね。

 いや、それよりも就職だよ! 侯爵家の使用人! え? 任せろ、ばっちこい?

 すごく不安…。  


 そして、僕たちが研修を終え、現伯爵家の皆さんのお屋敷内覧会で、初顔合わせをする事になった。

 ここで運命的な出会いをするなんて、本当に夢にも思わなかったよ。


 え? 柚夏とは運命じゃないのかって? 私は運命だと思ってるのにって? う~~~ん…ノーコメントで。

 うるさい! ヘタレって言うな!

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る