第3話 呆然自失の2人
まさか、ここが異世界? 僕の思考は、ちょっと迷走中。
「柚希! 異世界転移だよ! チート無双キタコレ!」
お馬鹿な幼馴染は、つないだ手をブンブン振り回して興奮してるけど、頼むからちょっと落ち着いて。
「あのさ…もしも異世界転移が間違いなかったとして、この後僕たちはどうなるの?」
僕の質問に、お馬鹿な幼馴染は、
「冒険者ギルドで登録がテンプレだけど…あれ? 私達チートは?」
やっと気づいたか。
「柚夏は、神様とかに会った?」
「会ってない…」
「何か特別な力ある様に感じる?」
「感じない…」
「それで、どんな無双するの?」
「……」
あ、何か柚夏が泣きそう…
「柚希…どうしよ…」
チートねえ。何故か周囲のどう見ても外人さんの言葉が分かるだけでも、十分にチートだと思うけど。
何となくポケットを漁ってみた。出てきたのは、スマホと財布。
まあ、柚夏の持ってるトートバッグの中身だって、似た様なもんだろう。
現状の自分を俯瞰して、やけに冷静な自分がいる事に驚くという、妙な感覚。
僕はまあ男だから野宿でもいい…いや、何のサバイバル術も持たない現代っ子に野宿が出来るのか?
せいぜい、学校で行った自然学校のキャンプしか経験ないぞ? あ、あれは野宿とは言わないか。
あの時のカレーって美味かったよなあ。うん、思い出した。飯も食えないじゃん、僕たち金ないし!
僕をうるうるした目で見つめる柚夏だけは、何とか安全な宿泊施設に放り込みたい。実は、結構かわいいんだよ。野宿なんかしてたら、絶対に襲われる。
僕が助けるとか言いたいけど、僕ははっきりいって非力だから、護りきれる自信が無い。だって、歩いてる人の体格が、みんなプロレスラー? ってぐらいの人ばっかだぞ! 勝てるわけ無いじゃん!
柚夏じゃないけど、チートでも無けりゃ、こんな世界で生き抜く自身ないよ……
2人は手を繋いだまま、次の行動に移せず、ただぼ~っとしてた。
「…ちょっと…ち、…か…?」
時間が解決してくれる問題でもないのに、無為に時間を使ってしまった。
「…てる…どう…い? …だい…?」
もう、太陽がかなり傾いてる。つまり夜が近いって事だ。
「…か…の…だれか…えいへ…れよ!」
どうしよ……
「あんたたち、大丈夫かい!? 聞こえてるの? 言葉通じないのかい?」
ん?
「あんた達だよ! そこで手を繋いでぼ~っとしてる黒い髪の子!」
僕たちの事? 柚夏も頭にクエスチョンマークをくっ付けてる。
「えっと…僕たちの事でしょうか?」
声の方を向くと、大体20年前ぐらいは、お姉さんと呼んでもおかしくなかっただろう、ちょっとふくよかな女性が居た。
早い話が、太ったおばさんだ。
「そうだよ! あんた達、昼過ぎからずっとそこで突っ立ってるけど、何かあったのかい?」
気の良さそうな、赤毛のおばちゃんは、コッチャコイコイと手招きをしてた。
頼る人もいない現状で、優しい言葉を掛けてくれたからだろうか、ついつい2人ともおばちゃんの元へ歩を進めていた。
これが吊り橋効果って言うんだっけ? 違う様な…まあ、いいや。
「いえ、僕たち2人共、遠くからいきなり連れてこられて、ここに放り出されて、どうしたらいいのか…」
「何だい!? 人さらいにでも遭ったのかい! すぐに衛兵に届けなきゃ!」
すぐに衛兵? に通報しそうなおばさんを引き留めつつ、
「いえ、違うんです。どうやってここまで連れてこられたのかも分からないんです。でも人さらいじゃないと思います」
神様にさらわれたのかも知れないけど、それは言わない方が良いだろうな。
「そうなのかい? それで2人は行くあてとかあるのかい? 王都に知り合いは?」
めちゃくちゃ心配してくれてる…
「いえ、全く行くあてなんて無いです。これからどうやって生きて行けば良いのか分からず、呆然としてました」
うん、嘘は言ってないと思う。
「う~~~~~ん…ちょっと待ってな!」
そう言っておばさんは、目の前の建物の中に入って行った。
建物の入り口の上には、【NOTTO NO MISE】と、看板らしきものがあった。
「柚希…どうしよう…私、どうしよう…」
柚夏は、ただいま絶賛錯乱中。
「どうしようねえ…」
僕だって、こんな時の対処マニュアルんなんて持ってないんだから、分かるはずない。
そもそも、アニメや漫画に詳しい柚夏の方が、異世界に関する知識は多いはずなんだが。
とは言っても、所詮は異世界を知らない人間が書いた本だもんな。
実際に体験しないで書いたんだもん、こんな事態に遭遇した時の有効な手だてなんてある訳ないか。
そんな、この事態を何一つ好転させる手段も思いつかないまま、僕はただ柚夏の手を強く握っていた。
決して離さない様に。
すると、ドタドタと足音が聞こえて来たかと思うと、バーン! と勢い良く建物の扉が開いて、おばさんが飛び出して来た。
「あんたら、行くあてが無いんだろ! 部屋片付けてきたから、うちに泊まんな!」
この瞬間、僕にはこのおばさんが女神に見えた……気がしただけだった。
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