第2話  僕たちが落ちて来くるまで

 その日の僕は、ちょっと浮かれてた。

 

 柚夏とは、小さいころからずっと一緒だった。

 具体的には、幼稚園から小中学校と一緒で、しかもクラスもずっと同じ。

 出席番号も男女の違いは有るけど近いんで、席も隣同士って事も多かった。

 お互いに家を行き来するし、朝起こしに行ったりもしてるもんで、私服姿だって…寝間着姿もだけど…結構、見慣れてる。

 というか、あいつはだらしないから、ジャージでゴロゴロしつつ漫画読みながらポテチをコーラで流し込むと言う、典型的なダメ人間なんだけどね。

 

 でもさ、やる時はやる人間だと信じてる! …信じたい…無理かもしれないけど。

 中学校までは義務教育だし、ご近所だから、当然ながら学区が同じなんで同じ学校だけど、高校は違う。

 僕の偏差値は、平均よりちょっと良かったんで、ちょっと背伸びして私立の良い高校を受験するつもりだった。

 柚夏は…まあ、想像通りの成績なんで、公立で無理せずに入れる学校に行くはずだった。

 だから、一緒に通学ももう終わりだと思ってたんだけど、何を考えてるのか中三の二学期の初日に、

「私も柚希と同じ学校行く! だから勉強教えて!」

 いきなりだった。でも、偏差値が違い過ぎるから無理だと思うんだけど…と思いながら、理由を聞いてみた。

「何で僕と同じところに行こうと思ったの?」

 答えはシンプルだった。

「柚希と一緒にいたいから!」

 その時、今まで心の奥底で朧げに、もやっと感じていた何かをはっきりと意識した。

 僕は、柚夏が好きなんだ…と。


 その後の、柚夏の頑張りは驚くほどだった。

 毎日、僕が柚夏の部屋で夜遅くまで勉強を見たんだけど、偏差値はあっという間に上がった。

 二学期末の定期考査では、なんと過去最高の平均点を叩きだしたらしい。

 担任の先生からも、僕と同じ高校の受験の許可がもらえたそうだ。


 冬休みもクリスマスも関係なく、2人でひたすら勉強に励んだ。

 両家の…特に柚夏の両親が、驚くほどに。

 ただただ勉強を続け、模試でも希望校の偏差値を大きく超えるまでになった。


 そして受験。

 僕は、十分に満足できる手ごたえを感じていた。

 柚夏は、「あの問題が…もしかしたら…でも…いやいや…でも…」と、不安たっぷりだったみたいだけど。 

 

 ドキドキで迎えた合格発表の日、一緒に結果を見に行った。

 張り出された合格者の受験番号に、2人の番号がちゃんとあった。

 2人共、見事に合格していた。

 柚夏は泣きながら僕に飛びついて抱きつき、

「これから3年間、毎日起こしてね!よろしく~!」 

 相変わらずだったけど、何だかちょっと嬉しかった。

 また、これで3年間一緒なんだ…きっと、大学も…いつか生活も…。


 そして中学の卒業式を終え、入学日までの束の間の休みに、

「高校生になるんだから、ちょっとおしゃれな文房具が欲しいなあ~。買に行かない?」

 そう柚夏に誘われて、今日は何故か最寄り駅の前で待ち合わせた。

 いや、家に迎えに行くけど…? え、待ち合わせしてみたい? なんで? デートみたいだから!?


 普段、お互いの家を行き来しているから、外で待ち合わせなんてした事ない。

 やぱっり、慣れない事をすると緊張するし、ちょっとドキドキする。


 約束の時間になってやってきた柚夏は、特におしゃれをしている訳でもないし、今までにも見た事のある服を着ているんだけど、なぜか普段の3割増しで可愛く見えた。

 そして2人で改札を通り抜け、平日で誰もいないホームの隅で電車を待っていた。

 各駅停車の電車が到着して、2人で横並びでシートに座って……

 


 ここまでが、僕が覚えている日本の記憶。

 後で確認したら、柚夏も同じだった。

 あ、僕の心情は話してません。だって恥ずかしいから。


 そして、2人が気付いた時、そこは知らない街並みだった。

 なぜか、僕と柚夏はしっかりと手を握り、ただ呆然と道端で立ちすくんでいた。

 

 鎧を着て、槍を持った兵隊さんが歩いていて、馬車がガタゴトすぐ横を通り過ぎる。

 みんなの話しているのが日本語なんだけど、髪の毛と顔立ちから、どう見ても西洋人っぽい。

 ぼ~っと、建物を見ていると、英語が書いてある…と思ったら、ローマ字だった。

「ねえ、柚希…ここ、どこ?」

「どこだろ…駅のホームじゃないよな…」

「ドッキリ?」 

「いやいや、それは無いだろ。どうやって瞬時にこんなセットを造るんだよ」

 しばらく柚夏は考え込み、キョロキョロと辺りを見回し、何度か「う~ん、う~ん」と唸り、そしてぽつりと呟いた。


「ここ…異世界だ…」   

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