第5話:行商人

「ナルサス様、ご注文の処女奴隷、連れてこれるだけでございます」


 ウチの開拓村が貧乏でどうしようもない頃から、損得抜きで生活必需品を届けてくれていた行商人のトルケルが、俺の注文通りの女の子を連れて来てくれた。

 一番幼い子で七歳、年上の子で十三歳だそうだ。

 貧民の子は十二歳くらいから身体を売らされるので、これ以上年上の子は助けられなかったそうだ。


「分かった、代価に見合う商品を持って行ってくれていいよ」


 俺がそう言うと、トルケルは今回俺が売る許可を出した商品を確かめている。

 鮮やかな青や赤に染められた麻布と葛布に、一番先に眼が行っている。

 大量に並べられている、大蟻の外骨格を見て息を飲んでいる。

 いつも通りの普通の品、毛皮や生薬にも興味はあるようだが、まずは大きく儲けられそうな贅沢品を確保したいのだろう。

 以前の染めていない麻布や葛布で、貴族との関係ができたといっていたからな。


「まずはお前達が目利きして、値付けの練習をしてみなさい。

 私はナルサス様と奴隷代金の交渉をします」


 トルケルが弟子にした八人の少年達に声をかける。

 トルケルもウチとの取引で豊かになったから、困窮する家の、下手をしたら口減らしで捨てられる少年を弟子にしている。

 あまり幼いと足手纏いになるから、最低限徒歩での行商についてこれる、十代前半の少年からになってしまうけれど。


「どうでしょうか、ナルサス様、とびきりの美少女ぞろいですが?」


 値段交渉を有利にしようと、トルケルが容姿の美しさ強調する。

 確かに俺のハーレムに迎え入れるのなら、美少女に限る。

 しかし今回は、村の労働力を増やすのが一番の目的だから、美醜は二の次になる。

 普通の村なら、力のある男を求めるのだろうが、機織りを主力産業にしようとしている俺には、村を乗っ取ろうとするかもしれない男は不用なのだ。


「買取の際の領収書を見せてもらう、それにここまでの運搬費を上乗せしよう。

 当然だが、護衛に必要だった費用も上乗せさせてもらうよ」


 俺はそう言いながら、欲望に眼をぎらつかせた護衛役達の視線を向けた。

 莫大な金になる村の噂、その村を独占しているトルケルの事を耳にしたのだろう。

 護衛に応募するフリをして、トルケルに村まで案内させて、無事にたどり着いたら暴力に任せて村を支配する心算だったのだろうが、そうはいかないのだよ外道共。

 お前らのような連中が現れるのは、今日が初めてではないのだよ。

 これまでも何十何百という害獣が現れては、全員死んでいったのだ。

 俺の殺意を感じたのだろう、トルケルがニンマリと笑う。

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