第3話:蟻蜜
俺様が本気を出してエルフの痕跡を探したのに、全く何も見つからなかった。
美少女エルフの魔力痕も、ある場所でプツッリと途切れていた。
この世界の魔術はまだよくわからないが、前世の知識から考えれば、自ら転移で魔境にやって来たか、罠で無理矢理飛ばされたかだろう。
まさか神に無理矢理別世界から転移させられたという事はあるまい。
そんな事があるとしたら、もれなく神の思惑もついてきてしまう。
そんな恐ろしい事はごめんこうむりたい。
「おい、われ、蟻蜜はまだか?!」
おい、おい、おい、可愛い初孫をワレと呼ぶんじゃない。
ナルサスちゃんと呼べとまでは言わないが、普通にナルサスと名前で呼んでくれ。
明日になってから持ってくればいいと思っていたが、今日中に食べたいのだな。
まあ、確かに少し酸味がある蟻蜜は、蜂蜜レモンのような味がする。
しかもレモンと蜜の両方の効果があって、疲れをとってくれる。
前世で言えば、疲労回復剤や栄養ドリンクに相当するだろう。
女達ばかりか、男も欲しがる甘味と言っていい。
「分かったよ、おばあちゃん、直ぐに獲ってくるよ」
普通の開拓村なら、大蟻が現れたと聞けば、急いで村を捨てて逃げ出してしまう。
大蟻の群れとは、それほど恐ろしい存在なのだ。
単体では勝てない魔獣であろうと、圧倒的な数の力で、場合によれば亜竜種くらいなら喰ってしまう。
それくらい恐ろしい力を持っているのが大蟻だ。
まあ、亜竜種を斃すほどの群れならば、数万の大軍で、魔境の地下に巨大な巣を作っていてるけれどね。
「楽しみに待ってるぞ、われ」
祖母が満面の笑みを浮かべているが、よほど甘味に飢えていたのだろうか?
果物を干したドライフルーツはまだ大量にあったはずだ。
柿やリンゴ、梨やイチジク、ブドウやキュウイのドライフルーツは、とても甘くて美味しいから、それほど甘味に飢えているとは思えないのだが?
まあ、女は甘いモノは別腹というくらいだから、どれほどドライフルーツが美味しくても、蟻蜜は別だという事かもしれない。
「任してくれ、魔法袋一杯獲ってくるよ」
今回の大蟻は人間と同じくらいの大きさだから、蟻蜜の量も半端なく多い。
保存も魔法袋に入れれば問題ない。
魔法袋の作り方を書いた魔術書を行商人から手に入れるまでは、生鮮食料の保存には本当に苦労したよ。
今では汎用魔法袋の作り方も行商人から手に入れたので、俺個人の主力輸出商品となっている。
汎用魔法袋を最初に売ろうと思った時は、行商人に資金力がなくて買い取る事ができないし、だからといって価値が高過ぎて委託するのも心配で、村の男の半数が行商人と一緒に街に出掛ける大騒動だった。
おっと、思い出している間に大蟻の巣についた。
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