第2話:エルフ少女

 私は気を失ったエルフの少女を、母と祖母に預けることにした。

 私と同じくらいの年齢に見えるが、相手はエルフだ。

 見た目と年齢が同じとは限らないのだ。

 見た目は七歳八歳でも、実年齢が数百歳という可能性もある。

 多くのファンタジーは、子供時代は人間と同じように年を重ねるとあったが、この世界も同じだとは限らない。


 小説によれば、エナジードレインを喰らって、数千歳数万歳のエルフや吸血鬼が、ほとんどの魔力を失い、幼女になってしまうものもあった。

 もし数千歳数万歳のエルフが、自分が恐怖のあまり粗相している事を知ったら、恥ずかしくて自殺したくなるかもしれない。

 しかもそれを男の子に見られていたとしたら、恥ずかし過ぎる。


「お母さん、おばあちゃん、この子の事を頼みます」


「まかせておけ、われ」


 お母さんがこの地方の方言で答えてくれる。

 アヤーナは行商人に標準語を教わっているが、他の村人は方言がきつい。

 母親が自分の息子の事を「われ」や「おんどれ」というのはいかがなものか。

 

「安心して、うちに任しとかんかい」


 祖母が自信満々に請け負ってくれる。

 これでも何の心配もなくなった。

 表向き家族で一番強いのは祖父という事になっている。

 家長は祖父という事になってるのだが、実は家族で一番気丈なのが祖母なのだ。

 影のドンといえるのが祖母だという事は、村中の人間が知っている。

 まあ、祖父は対人戦も対獣戦も強いのだが、人間関係の根回しなどは祖母が行っているから、村の中の事は祖母が仕切っている。


「じゃあ後は頼んだよ、おばあちゃん」


 エルフ少女、七歳くらいの子を少女と言うべきか、それとも童女と言うべきか、俺には分からないが、そんな事は俺の疑問でしかなく、どうでもいい事だ。

 とは思いつつも、容姿で使い分けしたくなってしまうのだよ。

 などと思いながら、魔力の力技で複数の鳥を支配する。

 行商人を通して手に入る魔術書など、低級のモノだけだ。

 俺がやれることは、有り余る魔力とイメージで、効率の悪い魔法を使うだけだ。


「無理するんじゃないよ、われ」


 祖母の応援の言葉を背中に受けて、鳥の目でエルフの痕跡を探す、

 何一つ見落とさないように、徹底的に探す。

 森の中に紛れた木葉一つ見逃さないように、慎重真剣に探す。

 まあ、エルフの痕跡を探すついでに、美味しそうな獣や魔獣、高値に買い取ってもらえそうな獣や魔獣をチェックしているが、それはあくまでもついでである。


「あっ、でかい大蟻の巣があった」


 迂闊にも思わずつぶやいてしまった。

 蟻蜜の虜になっている母と祖母の目がきらりと光っている。

 明日は森の中に入らなければいけないな……

 

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