第45話 今回の俺は強気でいきます

「で、あんた誰?」


「自己紹介したはずなんだが......まぁいい、俺は影山学。陽神光輝という男を一番知る男だ」


 光輝と生野の告白イベントが終わり、時はそのまま放課後の空き教室だ。

 傷心モードだったのか生野は大人しく俺の後をついてきてくれた。

 なんとも順調な滑り出しだな。


「陽神君を一番に知る男? なにそれ、本気で言ってるわけ?」


「随分と熱心に観察していた生野莉乃だったらすぐ横にいたよくつるんでる男子のことぐらいも知ってると思ったけどな。

 まあ、それほどまでにご執心という意味だったらむしろ好都合でもあるのか」


「何を言ってるのかわからないけど、あんたみたいな男が何の用?

 もしかして私の噂を聞いて傷心中の私だったらイケるとでも思ったの?」


「あー、ビッチ的な話か。男の誰かと付き合ってはDT狩りをしてるという」


「そ。んで、それを真に受けるバカな男子がいるのよ。あんたみたいな――――」


「安心しろ、お前は所詮処女ビッチであるということは知ってるし、何なら今のお前には一切の欲情もしない」


「あっそう......っては? 何その言い草!?」


 む? しっかり腹を割るつもりで本音をしゃべったらキレられた。


 コイツは光輝にご執心のはずで俺の言葉なんざ戯言と思って聞き流す程度だと思っていたが......まあ別にいいか。


「ちょっと、私の魅力がわからないって――――」


「お前の魅力なんて俺にとってはどうでもいいだろ。

 お前が振り向かせたいのは光輝のはずだ。

 むしろ、そいつにだけ知ってもらえれば満足なはずだ。

 それとも俺の言ってる言葉は違うか?」


 今回の俺は強気で言って基本的には嘘をつかないスタイルだ。

 こういうギャルというタイプは基本的に自分に自信がある。

 まあ、当然だよな。

 自分に自信がなければ校則違反になるように服を着かざしたりしないし。


 加えて、基本的に初対面のしかも自分の眼中にない相手には上から目線のことが多い。

 まあ、そいつらにとってモデルか俳優ぐらいのイケメン以外は全てブ男に見えるんだろうが。


 とはいえ、実際こいつらが恋する相手って実は案外フツーだったりするんだよな。

 むしろ、雪のようなタイプの方が意外性がある。


 つーわけで、俺はこういう自信家ギャルに舐められないようにむしろ積極的に上から行くことにした。

 むしろ、ガンガン煽っていく感じで。


 そういうわけで俺が生野の言葉を遮りつつ、先のように伝えた。

 すると、生野はやや顔を赤らめた表情でコクリと頷くではないか。


 上々っ! こいつはすでに出来上がってるじゃねぇか!

 さすが、うちに大看板の光輝さんだ!

 やることがちげぜぇ!


「まあ、突然俺の言葉に疑いや戸惑いもあるだろうが、一先ず聞いてくれ。

 生野、お前は光輝と乾さんが付き合ってるように思ってるが、実は違うぞ?

 あれは付き合ってるフリだ」


「ちょっと、あんたに『お前』って言われる筋合い......って、待って今の話本当なの?」


「こんな状況で嘘ついたって俺にメリットないだろう」


「知らないわよ。そんなこと」


 さすがに俺の言葉には動揺してる様子だな。まあ、無理はない。

 もともと付き合ってる前提の玉砕覚悟で告白して、そしてその付き合ってる理由で振られたんだからな。


 しかし、俺の言葉でその付き合ってると思われた二人は付き合ってないと聞かされた。

 じゃあ、「どうして付き合ってるフリをしてるの?」と思ってるはずだろうな。


 んで、俺もこれを言うのはぶっちゃけ賭けに近い。

 どうしてこんなことをさせたかというと、生野にもう一度恋のエンジンをかけさせるためだ。


 生野が振られた理由は光輝が付き合ってるから。

 となれば、所詮こいつじゃいくら本気で恋してようと二度目のアプローチをかけるには時間がかかる。


 本気で恋したことがないからこそ、時間が増えるほどに「その恋は本当に本気だったのか?」と思い始めてもおかしくないだろう。


 それは遊びで付き合ってた回数がその感覚をバグらせている。

 伊達に付き合った経験だけはいっちょ前なこいつらは自分が付き合った男子がどれほどまでに恋してるかなんて気にしたことないだろうな。


 それでいざ自分が恋する番となれば、どのようにしたらいいかわからない。

 好意を受け取ることにはなれているが、与えることは慣れていない。


 それが今回の狙い目......ではあるが、その前にこいつらにはもう一度ちゃんと恋していいという状況を整えなければならない。


 それが俺があえて光輝達の秘密を言った理由。

 コイツを第3ヒロインに昇格させるためにも、もう一度心を震え立たせないといけないからな。


 加えて、こいつは結弦とは違って光輝とはあまりにも接点がないからな。

 「略奪愛」とか恋の盲目バーストで色々やっていたが、あんなもんじゃさすがに積み重ねてた時間が違う。


 だから、今回は速度重視であえて伝えたのだ。

 とはいえ、その秘密を安易にバラされても困るので、釘は刺しておこう。


「生野が考えてることは大体わかる。

 しかし、それを逆手にバラそうとするんじゃねぇぞ?

 あいつらはあいつらで理由があってそういうフリをしているんだ。

 それをバラしたらお前は光輝に嫌われるし――――俺もただじゃおかない」


「陽神君に嫌われるぐらいだったらやらないわよ。

 っていうか、あんたに制裁を受ける筋合いもないんだけど」


「それは大いにある。

 俺は光輝の幸せの守護者となりたいからな。

 光輝自身が選択したこと以外で他者から不幸にさせられようものなら、俺は悪意を持ってそいつに制裁を加えるだけだ」


 おっと、顔に力が入ってしまった。

 さすがの生野も若干ビビってる。

 しかし、伊達にプライドはいっちょ前だな。

 こっちにビビってることを悟らせないように表情を作りながら聞いてきた。


「それで、どうしてあんたはそこまでするの?」


「まあ、簡単に言えば俺は主人公×ギャルってシチュが嫌いじゃないんだ」


「......は?」


「俺は日陰者であるが、光輝は違う。

 あいつはどこまでも俺の太陽で、俺の人生の主人公である。

 そんな光輝に幸せな道をいくつも用意させて、それを光輝が思う最善な選択をしてもらう。

 そして、お前はその選択肢の一つということだ」


「え、何それ? つまり、今陽神君には付き合ってるフリをしている乾さんがいて、さらに好意を寄せている相葉さんがいる状況で私もそれに参加するってこと?」


「ザッツライト!」


「ばっっっっかじゃないの?」


 随分と溜めた上に真顔でバカにされた。


「そんなの出来るわけないじゃん」


「なんで?」


「だって、陽神君には二人も......その可愛い子がいて」


 ほー、あの二人を可愛い認定してるんだな。

 プライドだけ高いと思っていたが、案外認めるところは認めるんだな。


「相葉さんは言わずもがなだけど、乾さんも意外と脈ありそうな気がして......そんな中に新参者の私が行ったって」


「ふむ、つまりは『私、自信がなくて負けそうな気がするんですぅ~パオン』ってところか」


「何今の顔、すっごく殴りたい気分なんだけど」


「だが、俺の言ったことは実際間違っていない。

 お前が光輝がだってわかったにもかかわらず、動かないであるならお前の恋もそこまでなんだろうな」


「くっ、なんですって......っ!」


 ククク、釣れたな。だが、まだイケる。


「まあお前には無理なんだろうな。散々あんな自信満々に言っておきながら」


「何のことよ?」


 そう生野が聞いてきたので俺はそっとポケットからボイスレコーダーを取り出すとその音声を再生した。


「『次は学校公認カップルになってる陽神光輝って男子を落としてみる』」


「な、なんで私の声が......っ!?」


「壁に耳あり障子に目あり。そして、その全てには俺がいる。

 さぁて、ここまで俺にバカにされておめおめと逃げるようなじゃないよなー?」


「このっ悪魔め! 上等よ!

 私が陽神君を落とした暁には土下座した所を動画に撮ってネットに晒してやるわ!」


「お~怖い怖い。ま、これにて交渉成立ってことで」


 そうにこやかな笑みを浮かべて手を差し出すとその手をバチンと生野に叩かれた。

 ちっとばかしギスギスしてしまったが、俺の計画に狂いはない。

 さて、ここからが勝負だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る