第46話 同志よ!
「それじゃ、これからのお前の方針について話し合っていくぞ。
お前は現状で遅れてるんだからな」
「いや、その前にさあんたのことを教えてよ」
「は?」
急にそんなことを言ってきた。
何言ってんだコイツ?
「その『何言ってんだコイツ』みたいな顔止めてよ。
案外心に来るし、別に何か言ったつもりもないわよ?」
「顔に出てたか。けどまあ、そう俺は思うぞ。
だって、お前に必要なのは光輝の情報であって、俺の情報ではないはずだからな」
「何言ってんの? 別にあんたの思惑に乗ってやるつもりでいるけど、あんたのことを信用したわけじゃないし。
それに相手のことを知るのは大切な事じゃないの? “提供屋”さん?」
「俺のことを知ってるのか」
こいつからその話をしてくるとはな。
まあ、俺の根伸ばし作業も順調ということか。
とはいえ、思わぬ所でバレてしまったが、まあ支障はないか。
「知ってるわよ。あんた一部では有名人だし。
それにあたしの知り合いであんたの悪評を言いふらしていた子がある日突然ピタリというのやめて、そのわけを聞いてみたら『あいつには関わるな』とか言ってたし」
「心外だな。俺は悪評について止めただけだと思うんだが」
「それでさらにちょっと聞きまわっみたら周りも『その子が悪いからそうなっても仕方ない』みたいな言い方してるし。
しかも、それを知ってるのは生徒だけ。
なに、あんたこの学校の生徒を洗脳でもするつもり?」
「どういう結論からそう至ったんだ」
こいつ、変な所で調査をしてるな。
それにさっきの発言といい、妙な所で聡いことを言ってる。
こいつの成績はポンコツなのに。
ってことは、これが成績の評価以外で得られる情報ってことか。
実際話してみると印象変わるとよく聞くがこいつはその話のいい例だな。
それにこいつは俺が提供屋であると知りながら、それを俺の前でわざわざ聞いて来るその胆力。
こういう図太い精神力の持ち主は光輝のラブコメに嵐を呼ぶからかなり美味しい。
とはいえ、そう考えて俺のヒロイン計画は二回続けて失敗してるけどな。
いや、あれらは失敗じゃない。そう失敗じゃないのだ。
姫島のは中学からすでに好意を持ってたのだとしても、雪の場合は依存を恋心と誤認してるだけだ。
まだチャンスはある。
だから、これが三度目の正直なのは確かだ。
二度あることは三度あるとも言うが......いかんいかん、そんな弱気になっては。強気でいけ、俺。
「それで、お前は俺のどんな情報を知りたいんだ?
一般公開向けのやつだったら好きなだけ答えてやるよ」
「ってことは、シークレットがあるんだ」
「誰にだって秘密の一つや二つ、百や千はあるだろ」
「それは明らかに多すぎじゃない?」
まあ、シークレットと言うなら既にお前が関わってること自体が一部の協力者しかしらないシークレットなんだけどな。
灯台下暗し、木を隠すなら森の中.......まあ、とにかくこいつはすでに関わってるわけで、それがバレるのはおそらくこいつが光輝から完全に手を引いた時かな。
その場合はあいつは強制的にこちらの作戦に引き込む。
俺の秘密を好きに言いふらされたら困るしな。
「で、改めて聞くけど俺に対して知りたい事ってあんの?
そういうのって好きな人でもない限り微塵も興味湧かないだろ」
「そうね~。あ、そういえば、あんた甘い物食べ過ぎじゃない?」
「は? なんだ藪からスティックに」
「陽神君の観察をしてる時に大抵そばにいた男子はあんただったじゃん。
それで休み時間で本読んでる時以外は大抵ポッチーとか小包のチョコ食べてるし、お昼だって菓子パンだったし」
あー、あの光輝観察期間もといストーカー期間ね。
っていうか、こいつそんなこと思いながら俺まで観察してたの?
「いいんだよ。俺は割に頭使って動いているから糖分が欲しくなるの」
「だからって、あれだけ食べてたら体壊すわよ? もう少し控えなさいよ」
うっ、なんだこの母親に怒られてる感覚は。見た目ギャルなのに。
それにそんなことつい最近妹にも同じこと言われたわ。
「休日だからってお菓子ばっか食べ過ぎー!」って。
「別に俺の勝手だろ?」
「は? せっかく人が心配してやってるのに!」
「俺の心配はどうでもいいだろ。お前は光輝のことだけ考えてろよ」
「別に心配するのに好きな人とかそういうの関係ないと思うんだけど」
こいつ、また妙なところで真面目になりやがって。見た目ギャルのくせに。
こいつが姫島みたいに黒髪ストレートだったらちょっとキツめな物言いの委員長キャラじゃんか!
そのせいでこいつの発言のキャラブレ感が凄い。
しかし、それ故に納得する。
こいつが処女ビッチであるということを。
「まあ、甘い物はわかるけどね。私もスターライトのチョコケーキ好きだし」
「ああ、あの駅前にある店か。だったら、俺はスフレチーズケーキの方がいいけどな」
「え、あんたも知ってるの?」
なんだその「意外」みたいな顔しやがって。
確かに、その店は女性客が多いからって男性客がいないわけじゃないんだぞ。
すると、そんな俺の発言に生野が少しだけ目を輝かせて聞いて来る。
「MITUHASHIは?」
おいおい、それって一つ隣の町にあるめっちゃ美味いケーキ屋の名前......こいつ、もしや
「知ってる隣町の。パルメは?」
「ここから遠いけど北の方にある店よね!? え、あんたまさか......ティンクルは?」
これは試されてる。俺が生野と同じ甘党であるかどうかを。
しかも、生粋の甘党であるかどうかを。
ここは同じ甘党として受けてやらねばならない。
それに共通の趣味はこいつとの距離感をある程度構築しやすいからな。
「知ってる。南西にあるここから近い所。カポネーゼ」
「アルガリア!」
「SUBARU!」
「リッチマン!!」
「カナーン!!」
俺と生野の声は段々ヒートアップしてきた体温とともに大きくなる。
そして、俺達はある種の仲間であると互いの目を見てわかるとそのまま長年親友をしてきたように熱い握手を交わした。
「「
俺も生野も椅子に座っていたはずなのに思わず立ち上がってしまっている。
それだけ生粋の甘党同志を見つけるのは至難なのだ。
しかし、まさかこんなところで出会えるとは......これもまた運命の巡り合わせというやつか。
「なんだろう......あたし、あんたと仲良くなれるかもしれない」
「奇遇だな。俺も同じ気持ちだ。あーっと、それからさっきは悪かった」
「何よ急に」
「いや、同じ
「いいわよ別に。でも、あんたもそこまでの甘党であるなら少しは控えなさいよ?」
「善処する。ぐっ、でも、食いたくなっちゃう」
「それはすごくわかる」
生野はその言葉を表情として露わにしながら大きく頷いた。
おっ、わかってくれるのか同志!
すると、生野は突然あごに手を置いて何かを考え始めた。
そして、覚悟を決めて告げる。
「よし、決めた。今ダイエット中だけど、一回なら大丈夫でしょ。
ねぇ、今からちょっと喫茶店寄っていかない?」
「マジか。それなら俺に任せておけ。
俺の全情報を駆使して前にめっちゃ美味いのにローカロリーなケーキ屋見つけてるから」
「マジ神なんだけど!」
そして、俺達はさっきのギスギスした空気はどこへやら甘いもの好きという話題で一気に仲良くなってしまった。
生野は光輝が好きで、俺はこいつと趣味が合って。うむ、なんともwin-winな関係だな!
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