第43話 次のターゲットが決まった

「なあ、最近お前の影に女子の気配がするんだが気のせいか?」


「え、そうなの?」


 とある昼休み、俺は「用事がある」と言って光輝を一人教室でハーレム状態にしていくと校舎裏の空きスペースにやって来ていた。


 丁度日当たりのいいその場所は俺達にとってベストスポット。

 もはや安息所と言っても過言ではない。


「まあ、な。と言っても、俺にとってはなんとも」


「それはどういう意味で?」


 そう聞いてきたのは俺の仲間である【渡良瀬 健】。別称「運び屋」である。

 主な仕事は男達に特殊ルートから入手したエロ本や同人誌を売ること。


 もちろん、その他にもゲームの攻略本とかよく売り切れる漫画とかの売買をしてるが、そっちの方が多い。


「実の所、俺は二人の女子から好かれてる」


「なんだ自慢か? すぐさま貴様との提携を破棄してもいいんだぞ?」


「ちょっと落ち着いて。でも、不思議だね。確か、がっくんは二次元にしか興味ないんだよね?」


 そう質問してきたのはさっぱりとしたがさつ男の健とは違い、小柄でなよっとして前髪が目もとまで隠れている【名撮 友梨亜】だ。別称を【記録屋】。


 友梨亜は名前と見た目に反して男である。

 明らか様に男装した女子にしか見えないが男である。


 それは本人も言っていることだが、一部の男子はそれでも「実は女子ではないか?」と儚い夢を見ているらしい。


「そうさ。俺の嫁は時雨ちゃんただ一人......なんだけど、それをしっかりとその女子二人にも言ってるにもかかわらず思いとどまる様子がない」


「そんな自殺を止めるような感じで言わなくても......」


「なんつー贅沢な悩みっ!

 つーか、お前って光輝で何か面白いことをしてるんだよな?」


「面白いとはなんだ失礼な! 超面白いだ! 間違えんな!」


「なんか理不尽なキレられ方されたんだけど」


 当たり前だ。

 俺は光輝のラブコメイベントに二度と戻らない三年間の青春を費やそうとしているんだぞ?

 それが超面白くなくてどうするんだ!


「ちなみに、そいつらって誰だ?」


「姫島縁と音無雪って二人」


「え!? その二人って確か一年のクールビューティ―と親指姫だよね!?」


 友梨亜が驚いたような様子を見せる。

 まあ、姫島に関しては驚いて当然だわな。

 つーか、音無さんっていつの間に「親指姫」って二つ名みたいなのついてたんだ?


「姫島に関しては中学の時になんかあってずっと好意を寄せていたらしい。

 んで、雪......音無に関してはちょっと関わる機会があって懐かれた」


「懐かれたって動物じゃないんだから......」


「死ね」


「シンプルな悪口。逆に一番心に来る奴」


 健から不俱戴天の仇みたいな目で見られる。

 もう少しその嫉妬心を抑えればいいものを。

 お前顔は悪くないから意外と好意的な女子はいるんだぜ? まあ、言わんけど。


 それから俺は二人の質問攻めにあった。

 デートをしたのかとか童貞は卒業したのかとか。

 いや、付き合ってねぇのに卒業したら不味いだろ。


 そんな興奮した二人の声を若干耳障りに思っていると俺達のベストスポットだと思っていた場所に思わぬ珍客が舞い込んできた。


「あら、影山君はこんな所にいたの?」


『び、ビックリです』


 姫島と雪であった。

 二人ともお弁当箱を持っていてどうやら昼食はこれからといった感じだ。

 いや、その前にこいつらもこの場所を知っていたのか。


 姫島は何食わぬ顔で近づき、雪は姫島の裾を掴みながら背に隠れるようにしてついていってる。

 その話題沸騰の二人の突然の登場に健と友梨亜は衝撃でビシッと石になるように固まってしまった。


 そんな二人をチラッと見ながら姫島は俺に声をかけてくる。


「この二人は?」


「俺の友達だよ。渡良瀬と名撮」


「となると、提供屋のあなたの同業者ってことかしら?」


 俺が提供屋であることを知っていたのか。

 ならまあ、別に隠す必要はないな。


「そうだ――――」


「お、俺、渡良瀬健と言います!

 学とは高校からですがこんなにも仲良しなんですよ、ははっ!」


 おい、突然仲良しアピールのために肩を組んでくるな。

 それになんだ最後の笑い。

 お前はミッ〇ーマウスか。


「あ、あの突然ですが、写真撮っていいですか? 撮らせてください! ええ、是非とも!」


 あ、友梨亜の撮影魂に火がついてしまった。

 手に持ったカメラを目に当てて返事をもらう前に撮影モードじゃねぇか。


 そんな二人に雪が「個性的なお二人さんですね」とスケッチブックで見せてくる。

 さすがに初対面の男二人じゃそれが精一杯か。

 まあ、少しずつ話せるようになればいいさ。


「にしても、二人は昼食でここに?」


「はい、そうです!」


 俺の質問に雪が元気よく返事した。

 その瞬間、健と友梨亜の視線がギュルンと俺に向く。


 違う! 雪のはしゃべれないんじゃない! 意図的にしゃべっていないだ!

 俺だけとは口でしゃべるという特別感を出すためのある種のマーキングをしてやがる!?


 お前、いつの間にそんなにしたたかになってたんだ?

 いや、雪というより姫島の戦略に近いな。

 くっ、悪い影響を受けやがって。


 俺は友人二人の意味ありげな視線を無視しながら姫島と雪に言葉を返していく。


「そっか。まあ、それじゃあ俺達はもうほぼ昼食は済んで雑談だけだし。二人でゆっくり食えよ」


 そう告げながら颯爽とその場から逃げようとすると両肩に酷く重い手が乗せられる。

 その背後から感じる重圧に目を向けてみると姫島と健が俺の肩を掴んでこう告げた。


「「もっと楽しくお話ししよう」」


 そのにこやかな笑みの裏に潜む悪鬼のような怒り顔と悪魔のような悪だくみした顔に俺は苦笑いを浮かばせることしかできなかった。


―――――数分後


「―――――へぇ、そんなことがあったのね」


 俺をそっちのけで姫島と健が楽しく話している。

 いや、正確には鼻の下を伸ばしてプライバシーもクソもなく俺の情報をバラしている健の話を姫島が楽しそうに聞いてるだけだが。


 なんだろうな、あの笑み。めちゃくちゃ企んでそう。


 また、俺を挟むようにして小柄同士が話している。

 小柄であるが故に意気投合する部分があったのだろう。

 加えて、友梨亜が女子っぽいってところも雪的には大きかったんだろうな。


 とはいえ、俺を逃がさないように雪ががっちり腕を掴んでいるのはいただけない。

 もっといただけないのは小柄であっても僅かにあるふくらみを感じてしまっていることだが。


 俺の腕に神経が集中してしまってる。

 ずっと時雨ちゃんのことを考えながら気を紛らわせているが、前に姫島の濡れ透けをまじまじと見てしまったこともそうだが、やっぱり俺も男なんだなぁ。


 とはいえ、やはりいつまでもこの状態はいかんので、この和気あいあいとした空気を断ち切るように俺は健と友梨亜に尋ねた。


「なあ、健、友梨亜。ここ最近で起きた何か面白い情報ないか?」


「情報って言ったらお前の分野だろ」


「それもそうだが、まあ色々あってな。まだ情報を集めてないんだ」


 そう言いながらそっと俺は雪から腕を放させる。

 すると、雪が妙にしゅんとした顔をするので、頭をぽんぽんと軽く触れてやる。


 それだけで雪はパァっと機嫌が良くなるので助かるが、それによって起こる周りからの視線の強さは計り知れない。

 一人は怒り、一人は嫉妬、一人は羨望......って友梨亜なんで?


 そんな様々な視線を無視しながら改めて聞く。


「で、何かないか?」


「何かって言われてもお前の興味を引きそうなのは......あ、そういえば!」


「あったのか?」


「おう。確か、この学校で有名な3ギャルが何か悪だくみしてるだかの情報をどっかで聞いたな。

 なんでも、特定の男子を惚れさせるゲームをしてるとか」


「ほう......」


 その俺の反応に姫島と雪がビクッと反応した。

 それはきっと俺の興味がものすごく引かれたような、悪だくみしたような顔を見たからだろう。


 よし、その3ギャルについては俺が直々に調べてやろうじゃないか。

 もしかしたら光輝のラブコメに一波乱起こせるかもしれないからな。


 そんな俺の悪魔のようなにやけ面には「この感じ、すごく嫌な予感がする......」と呟く姫島と雪の声が聞こえた。

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