第42話 ちょ、止まって、俺が悪かったからさーーーーー!

「これでお前らの意思は改めて受け取った。

 不本意であるが、そうであるならお前らの意見を真摯に受け止めなければならないと思う」


「そらならさっさと答えを出してほしいものね」


「ただまあ、今の状態では答えはわかりきってますので、今はこのままでいいです」


 姫島と音無さんはまるで示し合わせたように顔を合わせると「ねー♪」と笑顔で声を合わせた。


 いや、そうなるとお前ら恋敵ライバル同士になるんだが、その仲の良さは後で禍根を残さないか実に心配なんだけど。


 そうなる前には、俺という人物への興味を薄れさせたいところである。

 まあ、今はきっと恋に盲目状態なので仕掛けた所で意味はないが。


 だけど、こうして俺のもとで俺という人物がどういう行動をしていればきっと心変わりするはず!

 そう、きっと......おそらく......たぶん。


 ごほん、ここで弱気になってはダメだな。

 今無理ならその話は後回し。

 それと音無さんには最終確認をしなければいけない。


「音無さん、ここに残るということは俺の手伝いをするということになるけど、しかもそれは決定事項になるけどそれでもこっち側につくんだな?」


「それについて思ったんですけど、影山さんがやってることは要するに主人公と推しをカップリングさせようって感じですよね?」


「まあ、そうなるな。

 丁度二人に増えたことだし、俺は光輝に、姫島は結弦に、音無さんは乾さんからそれぞれそういった情報をなんでもいいから聞き出して欲しいと思ってる。

 そして、定期的にこうして集まってそれぞれの意見を聞いて、数々のギャルゲーをやって来た俺がそれをパラメータに換算して全員が平均的に高くなるように調整しようと考えてる」


「かなりガチね」


「これはもともと考えてたわけじゃない。

 さすがの俺も女子に恋愛事情聴けるほどメンタル強くねぇし。

 だけどまあ、お前らがどうせ近くにいるんだったら存分に利用してやろうと思っただけだ。

 悪く思うなよ? 俺の近くにいるってことはそう言うことだ」


 俺はあえて悪役ヒーラーぽく振舞って二人の好感度を少しでも下げようと仕向けた。

 すると、二人の反応は......


「まあ、仕方ないわね」


「惚れるが負けってこういうことを言うんですね」


 この二人には効果がないようだ。

 ちょっとー? 姫島は仕方ないとしても、音無さんは乾さんという友達がいるでしょう?

  もう少し渋ろうよ、そこはさぁ?


 クソ、やはり二人の恋の無敵盲目時間に攻撃した所で意味がないか。

 なら、その効果が切れるまで様子見ということだな。


 はぁ、俺のやりたいことに対するメリットはあるのに、それに対するデメリットもまた大きいな。

 少しの間、これについて考えるのやめよ。

 どうせ堂々巡りになるし。


 そして、これで俺の整理したい事は終わった。

 グラフボードを片付けている俺に音無さんが声をかけてくる。


「あ、あの! 協力する代わり......というと変になりますが、一つお願いしてもいいですか?」


 小動物のような下から目線はやめい。

 庇護欲が出てなんでも叶えてあげたくなっちゃうからさ。


「それはどんな?」


「え、えーっと、その......呼び捨てで名前を呼んで欲しいです!」


 音無さんは緊張した様子で声を張り上げながらそう告げた。

 ふむ、そんなことか。

 まあ、人と会話がほとんどなかった音無さんにとっては大きなことなのだろう。


「いいぞ。音無、これでいいか? それとも――――雪、これか?」


「こ、ここ、コウシャデオネガイシマス」


「雪ちゃんがショートしちゃった。それなら、私もゆ、縁って――――」


「姫島、お前は俺にそこまでさせるための経験値が足りない。修行して出直してこい」


「私にだけ冷たくない!? あ、でもいい♡」


 そういうとこだぞ姫島。

 もはやそれポンコツ以前にただのMじゃねぇか。

 お前もうすでに属性過多なんだからそれ以上増やすんじゃねぇ。


 顔を赤くして口をパクパクとして固まっている雪と同じく顔を赤らめながら体をクネクネさせている姫島。


 同じ変態なのにこうも違うとそれはそれで面白いものだな。

 とはいえ、さすがにもう一人ぐらいツッコみが欲しい。

 意外としんどい。


 俺は途中で作業を止めていたグラフボードをトートバッグにしまっていくとそれを教卓の上に置いて、さらに一眼レフカメラを取り出した。


 すると、目聡い姫島がすぐにそれについて尋ねてくる。


「そのカメラはどうしたの?」


「まあ、いわゆるコネを作るための手伝いってやつだよ。

 俺が情報を欲しい代わりに仕事を頼まれた。

 そうだ、姫島。お前、制服の着こなしのしっかりしてるし、写真のモデルになってくれよ」


「学校のパンフレットに乗る感じの?」


「まあ、そんな感じだな。

 あくまで姫島は候補の一人だから気軽にやってくれると助かる」


「そう、ついに私も恥ずかしい姿を撮られるのね」


「ツッコまんぞ」


 雪にも手伝ってもらって教室の机をはけて円形状の即席フォトスタジオを作り上げる。


「んじゃ、俺の指示通りに動いてくれ」


「わかったわ」


「まず床にお姉さん座りをしてもらって、右手を床に触れてちょっと体重をかける感じ」


「こうかしら?」


「そうそう。そしたら、左手の甲で目元を隠して......OK。撮るぞー」


――――パシャリ


「よし、もういいぞ」


「ちょっと待ちなさい。これ絶対違うでしょ?」


 姫島が言われた通りのポージングのまますぐさま俺に突っかかってきた。


「いや、大丈夫だって。制服撮れてるし」


「制服以前の問題よ!

 これってもはやに援助交際で身売りしてる女子高生が顔だけ隠した写真じゃない!」


「もはや以前に完全ですよ」


 お、音無さんがツッコんできた。

 珍しいこともあるんだな。


「大丈夫だって。

 俺は言われた通り正しい着こなしをした女子を写真に収めただけだし、もし使われなくても別の用途で使われるだろうし」


「え、今なんか不穏なこと言わなかった?

 ちょっとそれ詳しく聞かせてくれない!?」


 姫島はさっと立ち上がるとズズッと俺に顔を近づけてくる。

 言えねぇ、実は人気女子のスナップ写真が男子の間で売買されてるなんて。


 あ、もちろん、更衣室とか女子便を撮ったものじゃない健全なやつだよ?

 それやってるの俺でもないからね?


 姫島は俺からカメラを奪うと撮った写真を見てプルプルと震えだした。

 あ、さすがにふざけ過ぎたか。

 うむ、怒られることを覚悟しよう。

 そして、静かに覚悟を決めていると姫島は震えた声と赤らめた顔で告げた。


「こ......これなら自主的にバニースーツ着た方が数倍恥ずかしくないっ!」


「お前の羞恥心バグってんの?」


 確かに悪意のある写真の撮り方したけど、さすがにその斜め上の回答にはついていけんわ。

 完全に置いてけぼりくらってる......いや、俺よりも置いてけぼり食らってる人いたわ。


 そうして、雪を見てみると「え、援助交際.....」と言葉を呟いたまま固まっていた。

 おーい、それもう過ぎた話題だぞー。戻ってこーい。


「雪、落ち着け。もうその話の旬は終わった」


「あっ! 今はバニーガールの話ですよね?」


「いや、そうでもないけど......」


「バニーガールと言えばウサギさんですけど、ウサギさんがトレドマークになっているアメリカ成人向けの雑誌のプ〇イボーイでウサギさんを起用してるのはウサギさんが性欲強いかららしいですよ」


「え、今その雑学いる?」


 しかもこの子、何良い笑顔でそんな邪な雑学披露しちゃってんの?

 つーか、なんでそんなこと知ってんの?

 つーか、バニーガールは別に話題に上がってないからね?

 姫島が例えで言っただけだからね?


「影山君、私がバニーガールを着ても恥ずかしくないことを証明してあげるから家に来て!」


「お前はもうバニーガールから離れろ!」


「それでですね、ウサギさんがどうして性欲が強い象徴をしてるかというとウサギさんのオスがメスに対してずっと――――」


「雪もウサギさんから離れてー!

 っていうか、いい加減二人とも止まれええええ!

 俺が原因作ったの謝るからさあああああ!」


 それから、興奮した二人の収集が尽くまでに30分もの時間を要した。

 その間、俺の削られる精神と体力の代わりにツッコみスキルが上がったような気がした。

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