第27話 マリア~~~~ジュ!

――――姫路縁 視点――――


――――シャアーーーーー


 静かな自室に僅かにシャワーの音が聞こえてくる。その度に心臓のドキドキ音が大音量で溢れ出すように止まらない。


 い、今、お風呂場に影山君がシャワーを浴びてるのよね? どうしよう......すごくドキドキする。本当はこんなはずじゃなかったのに。


 別にここまでは望んでなかった。ただメールよりも直で影山君の声を聞きたかった。それを少しでも長く楽しむために、家に送ってもらうだけ.......だったのに。


 ど、どどどどうしてこんなとことに!? あわわわ、私男の子を家に上げるのも初めてなのに!? しかも、好きな人を家に上げちゃうなんて!?


 これはさすがに想定外よ。しかもこういう時に限って、家に両親も不在だし......これって影山君で言ういわゆるラブコメイベントよね?


 もしかして.......神は啓示しているのかしら――――既成事実を作れと


 .......さ、さすがにそれは違うわよね。あああああ、私の良心も不在なの~~~~! どうしよう、そう考えたら邪なことしか考えられなくなってきた。


 そりゃあ、私だって健全な女子高校生ですもの。好きな人とイチャイチャしたいと考えるのは普通よ。

 普通よね......? 家にたまたま好きな人が来て、しかも家のシャワーを浴びてることぐらい。


 うん、どこも普通じゃないわ。緊急事態よ! あああああ、どうしましょう! これから私が取るべき行動は――――


⑴影山君のシャワーの突入する

⑵こっそり服のニオイを嗅ぎに行く

⑶早急に着替えを持っていく。


 パッと思いついた選択肢のうち二つが完全にアウト.......もはや選択肢は一つしかないわね。

 それじゃあ、いち......いやいやいや、このままじゃラブコメじゃなくて完全にR18に突入するエロコメになっちゃうわよ!


 落ち着け私......ステイ.......ステイヒア.......ふぅ、ああああ悶々とするぅ~~~~~~!

 ともかく、今は絶対的なチャンスであることは確か、だから既成じ......じゃなくて、影山君の信頼を勝ち取るためにも、あえてここは何もしない!


 ともかく、シャワーを浴びてるうちに着替えを用意してあげないと。そう、仕事をこなすことで邪な考えを払拭するのよ。


 .......なんというか、これって普通逆じゃない? 私もラブコメは読むけど、こういうのって男の子が女子がシャワーを浴びてる姿を想像して――――っと、これ以上考えてはいけないわ。戻って来られなくなる。


 とにもかくにも、影山君の着替えを用意しないと。でも、それが意外と問題なのよね。

 ここが影山君の家で、立場が逆であれば裸ワイシャツでも全然大丈夫なんだけど......さすがに私のワイシャツだと見えてはいけないものが見えてしまうわよね.......ごくり。


 なら、私のパジャマでも渡しましょうか? いや、そもそもサイズが合わないか。こういう時はジャージよね。


 えーっと、バッグはどっこだ~っとベッドの上に置いてあったのか。そういえば、影山君がお風呂場に入ってからベッドに座って微動だにしてなかったわね。


 灯台下暗しってやつね。いや、考え事に没頭していて視界が狭くなっていたと言うべきかしら。ともあれ、この中にジャージが。確か、体育あった.......はず。


 そうじゃん、体育あったんじゃん! どうしましょ......このジャージに私に汗のニオイが染み込んでいるのを着てもらうの?


 私が影山君のを着るんじゃなくて? 影山君が私のを着てニオイをクンカクンカしてしまうの? なにそれ、ちょっと興奮......ゲフンゲフン、大変不味い事態じゃない!


 むしろ嗅ぎたいのはこっちの方であって、嗅がれるのはその......やっぱり女の子だし恥ずかしいじゃない。それにどんな羞恥プレイってね。


 加えて、帰りにちょっと傘替わりにしてたからバッグの中も濡れてしまって、ジャージも若干濡れちゃってる。


 これは割に不味い事態になったわね。本格的に着てもらう服が見つからない。こうなったら、お父さんのを......でも、なんとなく私のを着てもらいたいという願望が!


 とりあえず、着れればいいものを。となると、私にとってぶかぶかの服を選べばいいってことになるけど、そんなものあったかしら......あ、そう言えば昔お母さんと一緒に来たあのパジャマがあったわね。


「それは確か、クローゼットにっと」


 クローゼットを開くとハンガーにかかった服を見ていく。う~ん、ここじゃない。でも、そろそろこっちの服の衣替えもしないとなぁー。


 そして、クローゼットの下の引き出しを開けていく。一段目はなし。二段目は~っとここは冬服ゾーンね。となると、もう着ないと思ってたからきっと奥の方に......これよこれ。


「サイズ確認しないとね」


 そのパジャマを掲げて姿見鏡の前で自信に合わせてみる。うん、やっぱり今の私でも十分に大きいわね。


 影山君の身長は確か173センチだったはずだから、まあ多少裾が足りないぐらいだけど大丈夫そうね。それにさすがの影山君も文句は言わないだろうし。


 でもまあ、これを影山君が着るのよね......これしか私物の中で着れるものがなかったから仕方ないとしても、これは......ワンチャン、某か〇や様も言っていた奇跡的相性マリアージュが見れるかもしれない。


 う~ん、でもでも、私は影山君からもっとしっかりと親密になりたいわけで、これをやってしまうと文句は言われなくても距離を置かれそうな。


 いや、むしろ文句が言われないのならこっちの好きなようにしてもいいのでは? あ~でも、う~ん、私の中の良心の天秤が揺れるぅ~!


「よし、こういう場合は一度真っ白な気持ちになってどっちを選ぶか決めよう」


 私は一度深呼吸して頭の中が真っ白になっていくのをイメージする。そして、その世界で立つのは心を擬人化した私。


 私の前には二つの世界が対立するように存在している。

 白い霧がかかった私がただ影山君に風邪を引いてもらいたくないという親身なる思い。

 もう一つが、黒い霧がかかった私が欲望のままに奇跡的相性マリアージュを見たいがためという邪なる思い。


 その二つの世界のどちらかを影山君がシャワーを浴び終わるまでに決めなければならない。私の本当の想いは―――――


*****


――――主人公 視点――――


「......」


「......」


 俺は今、ベッドに座っておりながら非常に遺憾である。とてつもなく文句を言いたい気分である。しかし、借りてる身としては文句は筋違いだろう。


 ただ言いたい。俺はなぜ今――――つなぎのような“動物パジャマ”を着てるのかということ。

 動物の種類はキツネであった。いや、そこはどうでもいい。問題なのは普通着替えとしてそれが渡される?ってことだ。


 なんでもあっただろう。まあ、本来立場が逆であるからこそなのだろうが、別に父親のでも良かったのだぞ? むしろ、個人的にはそっちの方がありがたかった。


 しかし、こうなってしまった以上は仕方がない。俺の制服を急いで乾かしてもらってる以上は俺も恩を仇で返すような馬鹿じゃない。


「なぁ、聞いていいか?」


「なぁに?」


 けど、どうしてだろう。今、あいつのものすっごくでニマニマした表情を見ているのとてもつなく腹が立ってくるのは。


「どうしてこの服なのかと」


奇跡的相性マリアージュが見たかったからよ」


「は?」


奇跡的相性マリアージュが見たかったからよ」


「いや、聞こえてるが......」


 え、まさかそれだけ......?


「でも、これでも迷ったのよ? どうしようかと」


「何秒?」


「0.2秒ぐらい」


 まさかのコンマセカンド! 想定よりはるかに速すぎる!


「はぁ、結婚したいマリアージュ


「......」


 とりあえず、俺は全力ではっ倒したい気分に駆られた。

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