第23話 今回は俺は悪くないはず
さて、音無さんと交流を持ち始めてから2日目になった。今日も今日とて放課後の図書室で会話をしていく。
隣にいる音無さんは相変わらず机に山積みに置かれた本に囲まれながら、一冊の本を真剣な様子で読んでいる。
そんな真面目な感じで読まれちゃ声かけづらいのだが。まあ、最初は相手のペースを図るぐらいでいいか。
ちなみに、俺が音無さんの隣に座っているのはあえてである。心理学で横並びに座ると連帯感が生まれて会話が進みやすいだとか。
とはいえ、何もないだったら早く撮り溜めしたアニメを見たいのだが。
それに放課後という人気が少なくなる時間はやっぱり主人公達の行動が気になる! 一応、姫島を派遣して様子を伺わせているが、その度に借りが増えるのは嫌なんだよなぁ。
俺にも俺の事情があるし、ちょっとぐらいゴリ押しでもいいだろ。ある程度の会話が出来れば、光輝や姫島に紹介できるし、そうなればコミュスキル高めの二人に任せておけば勝手に友達にもなれる。
「なあ、それって何読んでるんだ?」
まずは相手の好みから会話を増やしていく。本好きなのは火を見るよりも明らかだ。使わない手はない......とも思ったが、そもそも反応してくれないな。う~む。
「ちょっと、借りるぞ」
そう一声かけて、机に積まれている本を一冊手に取る。そして、ザッと内容に目を通してみる。
これは前に読んだことあるな。有名な作家のシリーズ物の一冊だ。
内容はミステリーとラブロマンス。その独特な展開が興味をそそって、普段ラノベしか読まない俺でも楽しめた本だ。
チラッと他に山積みにされている本のタイトルと作者を眺めていく。
知らない作家もいるが、割に俺でも知ってる有名な作家の本が多い。しかも、その本のタイトルから見る限りラブロマンスと思える。いくつかブックカバーで隠れてるのもあるが。
「恋」だの「愛しの」とかそんな感じのが割についている。もちろん、正確に内容を知ってるわけじゃないので、本当にそういうジャンルかわからんが.......もしかして、恋愛に興味があるのか?
これはこれは.......上手くいけば光輝の第3ヒロインとして確立できる可能性があるな。
となれば、ここは是が非でも俺と対人でも会話できる練習をしてもらって、光輝に押し付けたい。
そんなことを思いながら気持ち悪くニヤニヤしてるとふいに肩にちょんちょんと突かれたような感触を覚えた。
その感じた方向を見てみると音無さんが俺の方を向いてスケッチブックを掲げている。
『すみません、今気づきました。それって、私が借りた本ですよね? 良かったらお貸ししますよ?』
「いや、そうじゃない。たまたま中学の時に読んだことある本のタイトルが目に映って、どんな内容だっけってチラッと覗いてみたくなっただけだ。
それに声をかけたけど、集中して読んでたみたいだからただ静かにしてただけだ」
『そうでしたか。なら、次からは意識がちゃんと向くような感じで声掛けしてください』
「いいのか? 感情移入して読むタイプじゃない?」
『今読んでるのは全て目を通したものですから』
え、この山積みの本全部!? なんかアニメにいそうだな、図書館の魔女って感じで。
『それでどんな話をしましょうか?』
「そうだなぁ、まあそのまま本繋がりで.......今読んでる本ってどんなジャンル?」
『恋愛系が多いですね。いろんなジャンルも読みますが、官......観光地に出かけた主人公が事件に巻き込まれたりとかですかね!?』
「あぁ、推理ものか」
そう答えつつも、俺は今の音無さんのスケッチブックを見て無視するわけにはいかなかった。
そのスケッチブックには「官」と書かれたところにぐちゃぐちゃと文字が見えないように書きつぶされているのだ。そして、その後の文章は妙に強調するように文字が太い。
「官」と読めたのは焦って塗り潰そうとしたが、俺に対して不審な行動になるために書き間違えた程度にしたかったのだろう。
だが、俺はこう見えても目ざとい。その「官」という言葉には何か意味があると見た。
まあ、そう思うのは明らかに顔を赤くして目を泳がして動揺している音無さんの姿があるからなのだが。
それがどういう意味を表しているかは定かじゃないが、恐らく音無さんの秘密に関係するものじゃないだろうか。
中学の時に同じような反応をした男子がいたが、その反応に酷似している。できればバレたくない何かがある。ちなみに、その男子の場合はエロ本というしょうもないオチだったが。
とはいえ、特に証拠もなく下手に暴こうとすれば大抵の場合、はぐらかされてそれらに対するセキュリティが強化される。
ここは慎重にさらに相手に自分が無意識だと装ってそこら辺を刺激していく。そのためにはもっと相手を知らなければいけない。うむ、こういう人の裏を暴く時のハラハラ感たまらないよな!
「それじゃあ、そのブックカバーのついている本も推理ものなのか?」
そう聞いてみると音無さんはわかりやすいようにぎょっとした様子で山積みの本からその本だけを回収していく。そして、それを急いで自身のスクールバッグにいれていく。
そして、冷や汗を浮かべながら「お気になさらず」とでも言いたげな表情で、スケッチブックに「か、陰山さんはどんなジャンルが好きですか?」と聞いてくる。
その顔に俺は思わずにっこり。いたずら心がくすぐられてしまうではないか。影山の「影」の部分を「陰」って書くぐらい動揺してるのが見て取れるぞ。
「実は奇遇で俺も推理ものが好きなんだ。だから、もしよかったらさっき回収した本を読ましてくれると嬉しいかな」
『......ちょっと汚れてますから』
「全然気にしないよ(爽やか)」
『た、確かに、影山さんは良い人じゃないです......』
「はっはっは、事前に申告していた甲斐があって痛くもかゆくもないや。けどまあ、二回も断れたらさすがにやめておくわ。これ以上はさすがにな」
『良かったです。私もこれ以上突っ込まれると......突っ込まれると.......』
「どうした?」
隣で書いているが故にスケッチブックの内容がチラ見できてしまうのだが、なぜか同じ文章を書いたまま止まってしまっている。
ペンを持つ右手はプルプルと小刻みに震わせていて、なぜか俺がちょっかいだした時よりも顔がリンゴのように真っ赤に染まっていて、耳まで赤い。
そして、そんな不自然な状態で俺の声掛けにも気づいてない様子で、そのまま怪訝な目で音無さんを眺めているとチラッとこっちを見た音無さんと不意に目が合う。
「ひゃぁっ!」
「音無さん!?」
すると突然、ひな鳥が鳴いたように高い声を出して驚くとそのまま椅子と一緒にバタン。
いくら背もたれがないタイプの椅子だからって驚いて倒れるか普通......一先ず起こすか。
「なんかよくわからんが、“立たせて”やるよ」
「!?」
音無さんは俺の差し出した手からサッと距離を取って荷物を抱えると足がグルグルにでもなるかのような勢いで去っていた。
その様子を見ながら思わず眉をしかめる俺。なんか変なこと言ったか? いや、今回はそんな変なこと言ってない......はず。
そして、よくわからんまま音無さんが残した
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