第14.5話 個人ミッション
――――姫島縁 視点――――
――――時刻は遡り、丁度主人公が光輝と結弦に接触した頃、一人の少女が自室である目的に燃えていた。
「髪型よし。服装よし。メイクよし。肌ツヤよし。いざゆかん、ショッピングモールへ!」
姿見鏡で自分の格好に不備がない。なら、ここからは別任務に移させてもらうわ。
もちろん、影山君のお願いはしっかりと叶えるけど、影山君がモールにいて途中からフリーになるとなれば、もはやチャンスでしかないでしょ。
名付けて「偶然モールで会ったんだからどうせなら一緒に遊びましょ作戦」。略して“デート”!
勘のいい影山君のことだから金曜日の電話のことで察せられてしまうかと心配したけど、どうやら天は私に味方したようね。
もっとも、どうして気づかれなかったということに「私以上に興味があることがあったから」という理由が真っ先に思いついてしまうあたりが悲しいのだけど。
まあ、そもそもそれが影山君の目的だったわけだし、今更とやかく言ってる場合じゃないわ。会って一緒に行動すれば即ちデート! 既成事実と同じ理論ね。
「さて、そろそろ行きましょうか」
きっと今頃は影山君は私の存在なんて気にも止めずに悪役みたいな立ち位置で引っ掻き回してるんでしょうね。
私は家を出ると影山君のいるショッピングモールへと直行していく。思わず足取りが軽くなってしまうのはきっと仕方ないことよね。
にしても、影山君もおかしか事を始めるものよ。普通友達の恋を応援するとはいえそこまでする? ってところまでやる姿勢。
ラブコメの鉄則に従って現実に再現しようとするのそあくなき攻めの姿勢は正直感心するぐらいだわ。ちょっとS気がある辺りがポイント高いわね。
とはいえ、傍から見れば変人極まりない影山君にこうでもして惚れてしまったのは惚れた人間の弱みというやつなのだろうけど、そもそもどうして好きになったにかしら?
なにぶん中学の時の頃だからあまりハッキリとは覚えてないけど、会話から興味を持ったのは覚えているわ。
あの時の影山君は妙に明るかった。今ほど悪人面はしておらず、まさしく人当たりの良さそうな人畜無害生物である光輝君の真似をした感じだったわね。
そして、影山君はその明るかった時の影山君に私が惚れたと思っているけれど、それは大きな間違いね。
私はどちらかというと冷めたような目になった影山君の読書姿に......そうね、やはり私はその時から影山君の本質を見えてたらしいわ。
だって、今そのシーンを思い出すだけで少し体が火照ってくるもの。
そう、キッカケは会話だったかもしれない。でも、それは知り合って仲良くなるためのキッカケで、恋のキッカケは全く違う人物のようにも見える
自分ながら恋の目覚めが特殊よね。だって、思い出したけど、その時の目で自分が見られた時に思わずドキッとしてしまって、それからずっと目で追っかけるようになってしまったもの。
その目をもう一度見たいって思った時からおかしくなったような気がする。
芋っぽかったし、内気な私は自分から声をかける勇気がなかったから、でも見たさはすごくあったからバレないように追っかけた。
その過程で影山君の好きな食べ物、趣味、誕生日から交友関係、住所、家族構成まで見つけてしまったけど、きっと些細なことよね。
その努力の全てはきっとこの時のためにあるのだわ! もう甘さは捨てるのよ! 好きな人の前で素直に! 「情緒イカレポンコツ女」から「恋人」に転職してやる!
とまあ、そんなことを考えてるといつの間にかショッピングモールについてしまったわ。
やはり好きな人のことを考えると時間は飛ぶものね。そこそこ距離があったはずなのに体感は2、3分ぐらいだわ。
さて、ここからは私の観察眼の勝負になるわね。きっと影山君のことだから――――
――――ピロリン、ピロリン、ピロリロリン
手提げバックから着信音が聞こえてくる。スマホの画面に電源を入れると案の定影山君からのレイソだった。
どうやらそっち順調に事を進めたようね。にしても、私を介さずとも適当に隠しながら電話すればいいものを。
まあ、念には念を入れても間違いじゃないわ。なにより、私と電話をするという時点で間違いじゃない。
「もしもし、影山く――――」
『はあ? 家に甥っ子が来るから面倒見ろって!?』
甥っ子? いや、影山君の親戚に甥っ子はいなかったはず......ああ、今いる陽神君と結弦ちゃんからどうにか理由をつけて離脱を図ってるのね。
『いや、家空けるからって妹に......ああ、ああ、はあ......わかった』
中々に技巧派な演技ね。聞いてるだけだとまずバレない。
それに影山君と陽神君、結弦ちゃんが小学校から馴染みだとしても親戚関係を知る場合には家族ぐるみで付き合いが必要。上手い手ね。
でも、聞き惚れてしまっているような私じゃないわ。私が中学時代、影山君の会話の内容を必死に聞き取ろうとして編み出したスキル――――
電話越しから僅かに聞こえた人の声。「夏物セールを実施中です。良かったらどうぞ」という言葉。
その言葉で「物」という単語から食品関係ではないとわかる。加えて、季節のセールがつきにくい本屋や百円ショップでもないとわかる。声掛けもしないだろうしね。
となれば、わざわざそう言うということは季節に敏感なお店ということ。チョイスを上げれば恐らくお洋服店か靴屋。
だけど、結弦ちゃんがいるという時点で靴屋はないでしょうね。女の子を連れて行くとすれば、まず向かうのはお洋服店しかないわ。
となれば......お洋服店があるのはショッピングモールの二階!
「警戒が甘いわね、影山君。私が高校デビューを果たすためにどれだけここに通い詰めて研究したか。待っていなさい」
ふふ、ふふふふふ......む、思わずはしたない笑いが漏れてしまったわ。まあ、私がこうなったのも影山君のせいということで、今行くわ!
私は目的地のショッピングモール二階へと行きよりもさらに軽い足取りで進んでいく。
そして、エスカレーターに乗って、二階へ到着。さて、影山君はどこかな。とりあず、適当に歩きつつ目星をつけましょうか。
きっと影山君のことだからどこかで出歯亀するために変装してそうね。
どこまでの変装の徹底ぶりかはわからないけど、恐らく目元を隠すためにサングラスはつけてそうね。
加えて、徐々に暑さが増してきている今だとマスクなんて選択肢は取らない。他の人に怪しまれるだろうし。
つけていたとしても付け髭辺りかしら。それに、目立たない地味な色の服装になっているはず。もともと少し派手めな服装にしているとしたら、その真逆の大人しい服装。
普段服装に気を遣わない人だから無理に周りのおしゃれ上級者に合わせようとして、逆に若干浮いてる可能性すらありそう。
それは考えすぎ? でも、影山君の場合、服は着れればいいだし、靴は履ければいいでめったに服装にお金を使わない人。
それに使うぐらいだったらソシャゲに使う人だからきっと何着たらいいかわからなくて浮いてそうね。
そうそう例えば、物陰にコッソリといるサングラスにちょび髭をつけた、白黒のボーダー半袖に薄だいだい色のデニムパンツを履いて、肩からフードなしの薄い上着を羽織ってる変人とか......
「うん、確定ね」
なぜなら、その少し離れた所に陽神君と結弦ちゃんの姿が見える。しかし、あまりいい雰囲気とは言い難い。
むしろ、思いっきりこじれてるようにも見える。あれで大丈夫なのかしら?
どう考えても影山君が考えている結弦ちゃん離脱防止作戦とは真逆の結果と言えるけど。一先ず声をかけましょうか。
「そこの変人さん、場所を尋ねてもよろしいですか?」
「いや、変人じゃないです!......って、なぜお前がいる!?」
驚いたその表情は貴重ね。脳内影山君フォルダに保存しておきましょう。
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