第14話 悪役の時間#3
結弦の提案で俺達はモール二階を散策している。結弦は自ら提案したことで俺が考えてることを阻止する気もあったんだろうが......残念、もう仕込み自体は完了している。
後はやり過ぎず、かといってやらなさ過ぎずに刺激を与えていく。
残りは俺がいなくなったタイミングで勝手に起爆してこじれる。知ってるか? あくまで空気を読んでいないだけであると。
「何か服でも買いたかったのか? 女子の皆様は相変わらず気苦労されますな~」
「単純に学君が気にしないだけだと思うけど」
「まあ、こいつは服にお金かけるより課金するタイプだし」
正解。付き合うこと自体俺の人生では非効率だ。自分の時間は自分のために使うのが一番であろう? とはいえ、それだけじゃ生きにくい世の中だから他にもいろいろやってますがな。
「ゲームは人生に華を添えてくれる。特に二次元なんて癒しだ! どこぞの陽キャにバカにされる覚えはない」
「それは同意する。ヲタク=陰キャはもはや今時じゃないしな。そういう比率が多いだけで」
まあ、俺はその大多数の一人ですけどね。悔しくないよ? 全然。むしろ、毎日お金かけるよりある一定でお金かける俺達の方が金遣いはまだ上手いと思うし。
「まあまあ、二人とも。ちゃんと理解してくれる人もいるからね?」
「例えば
「も、もう、何言ってるのかな!」
まんざらでもなく顔を赤くしやがって。背中を叩くな。意外と力強いんだぞお前。
とはいえ、これでご機嫌取りは終了。思ったより扱いやすくて助かる。後は何か刺激できる材料は.....っと。
ついついアニ〇イトに目が吸い寄せられてしまう自分を抑えつつ、結弦を煽れる何かを探していく。
するとその時、俺よりも先に結弦が「わぁ、派手......」と呟いて見つめたものがあった。
「水着か......黒と白のゼブラカラーのビキニ。意外とエロイチョイスするんだな」
「ち、違うよ! ちょっと目に入ったっていうか......気になったというか......着てみたらどういう反応するとか思ったというか.......」
小さい小さい。声が小さい。だんだんと尻すぼみすんな。最後の方なんて聞き取れるか否かぐらいだったぞ?
けど、俺の地獄耳はしっかりと聞き取っている。ここら辺、難聴系主人公と
にしても、なるほどなるほど。その水着が気になったか。そうかそうか。それはそれはさぞ俺も嬉しいぞ。なんせ起爆剤が見つかったからな。
「ビキニか......ビキニと言えば海。海と言えば? はい、光輝」
「え、海と言えば......ビーチバレー。ビーチバレーと言えば? それじゃ、結弦」
「え? 私も?」
こういう時のノリの良さ。お前最高だぜ!
「ビーチバレーと言えば楽しい。楽しいと言えば? はい、学君」
「楽しいと言えば夏休み! そう、夏休みだ! 煌めく太陽、一面の青空、光輝くビーチ、夏が俺を呼んでいる! いざゆかん! 常夏の海へ!」
「テンション高いね、学君......」
「確かに。にしても、夏休みに海か......みんなで行きたいよな」
ややテンションが高い系の
光輝の手を両手で掴み、姫島から死んだ魚のような目と呼ばれた目を精一杯輝かせながら告げる。
「そうだろうそうだろ! お前もそう思ってくれると思った! 高校に入って女子グループを誘って海に行くなんて一体どのくらいの割合がやっているのだろうか? きっと早々はいないだろ。
だが、俺達はその数少ない選ばれた勇士であり、神に愛された者達なのだ。こんな機会を逃すはずはない! っていうか、女子の水着みたい!」
「最後に本音が漏れてる......」
「お前って二次元オンリーじゃないかったっけ?」
「確かに、そうではあるが......それはそれ、これはこれだ!」
「わぁ、便利な言葉だね~」
二人から若干引かれてるような気がしなくもないが、まあ仕方ない。俺も親友でそういう奴がいたら間違いなく引くし。
けど、これで良いのだ。俺はいくらバカになってでも、結弦と光輝に軋轢を生むキッカケさえ作れればそれでいいのだから。
とはいえ、今の言葉はまだ全てにおいての本心じゃない。さあ、ここだ。チャンスを決して逃すな!
「光輝! お前だって見たいんだろ?――――“彼女の水着”を!」
俺は光輝の手を強めに握り、目を真っ直ぐに合わせる。そうすれば、きっと気づく。そして、かかる。俺の
光輝はゆっくりと口を開けるとハッキリと答えた。
「ああ、見たい、な。俺の彼女が水着着たんだったら」
決まった。光輝、お前は見事勇敢な一歩を踏み出したぞ。もっともお前自身は気づかずに地雷に突っ込んだようなものだがな。
俺はバレないようにチラッと背後から感じる気配に目を向ける。そこにいた結弦の顔はまさしく寂しそうな顔をしていた。
光輝の口からそれも乾さんがいない状況でこうもはっきりと告げられてしまったのだ。後は結弦の反応次第。
「そ......そうだよね。光輝も見たいんだよね。もうエッチなんだから~」
気丈に振舞ってそう告げる。しかし、明らかに無理をしたような作り笑顔で、握りしめた右手の拳は何の気持ちを押し殺そうとしたものなのか。
まるで辺りが静かになったようにここの三人の空間だけ異常であった。別に会話としては不自然ではない。自然じゃないのは感情の方だ。
「......結弦......」
さすがの光輝もその反応には気づいた様子だ。そして、光輝は俺に小声で話しかけてくる。
(学、これでほんとにいいのか?)
(何が?)
(俺が乾さんのいないところまで乾さんを褒めることだ。それ自体は悪いことじゃないと分かってる。でも、明らかに今はおかしいって)
(ダメだ。このままじゃ互いの本音を先送りにするだけだぞ? それに乾さんの監視がどんな人かはわからないが、お前は知っていて危険性も考慮したから俺の言葉に同意した。違うか?)
(それは......そうだけど......)
(お前はいい奴だ。お前のその判断は乾さんに気を遣っての行動。いわば、他人を思うことが出来る最善の行動であったはずだ。俺はお前を後悔させるつもりはない)
(......わかった。信じる)
予期せぬ光輝の反発もあったが無事に収められた。下手に嘘をつかないのは正解だったな。
光輝はきっと後悔しない。するとすれば、それは俺が誘導した道が誤っていた場合だけだ。
もちろん、光輝自身が決めるべきこともある。それについての後悔はさすがに関与できないが、俺がかかわった全てなら絶対に後悔させるつもりはない。
光輝と結弦をこじらせるのは近くにいすぎて、相手が遠く離れることを恐れたお前らの腐れ縁という厄介なものを解くための工程だ。
そのためにはたとえ俺がお前らに嫌われるようなことになろうとも、俺はただ俺の願いのためにそういうことをする。
お前らは無意識に壁を作ってんだよ。“幼馴染”という壁をな。昔からどれだけいようが、どんな思い出を過ごそうが気持ちは常に「今」存在し続ける。
かけた時間が後押しするのはほんのちょっとだ。それを過信してるから幼馴染は負ける。
過ごしてきた思い出は多いからと強くないマウントを取っても意味がない。今に響かなければ意味がない。
だから、世の世界じゃ幼馴染という絶対的な立場にいながら転校生に奪われるなんてことが起こるんだ。
行動するなら常に「今」だ。だからこそ、恋は
俺は光輝から手を放すとスッとポケットに手を突っ込む。
そして、スマホ画面の下側を少し出すとホームボタンから指紋認証で画面を開き、予め設定しておいたレイソの画面を開き、予め打っておいた文章を送信する。
その数秒後に、姫島からの予定通りの電話が来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます