第15話 やめだやめだ!

「―――――ってわけであなたを見つけたの。すごいでしょ?」


「うげぇ.......」


 突然現れた姫島にどうやって俺を見つけたのか聞いたら。俺のことを俺以上にわかっているような観察眼で見つけられて、正直俺は引いている。


 いや、これはむしろ正常な反応であると言いたい。たとえ推測であってもそこまで俺のことをわかる者だろうか。


 まあ、確かにあいつに作戦の内容を伝える時に場所を伝えてしまったのは俺の落ち度だが、だからといって(見つける)精度良すぎるだろ!


「ところで、今の状況ってどうなってるの?」


「まあ、証拠映像ならこちらに」


 そう言って俺は手に持っていたスマホの画面のパスワードを解除して、盗撮した動画をトップに持ってきてそれを姫島に渡す。


「余計なところ触るなよ」


「さすがにそこまでのプライバシーは守るわよ」


「え、待って、どこまで俺のプライバシーは侵害されてるの?」


 やっぱこいつ過去にストーカー紛いなことしてたんじゃないか? まあ、もうバレてることは仕方ないとして。


 姫島に内容を見てもらってるうちに俺はこっそりと光輝と結弦の様子を観察。すると、結弦は涙を浮かべた様子で走り出してしまった。


 走った先は俺の方向にある1階に続くエスカレーター。すぐ横で結弦が通り過ぎてきて焦ったが、涙を拭っていたせいかこちらには気付いていないようだ。


 そして、光輝の方はというと咄嗟に掴んで遠くに行かないように考えたのだろう。しかし、その手は空を掴んでいるままでその場で固まってしまっている。


 その顔はとても苦しそうだ。その顔は俺がさせたと考えるとさすがに胸に堪えるものがあるが、光輝と結弦が幼馴染という壁をぶち壊すには必要な工程だ。耐えてくれ。


「これって修正効くのもなの?」


 俺の盗撮した映像を見た姫島が最初に告げた感想がそれであった。まあ、当然の反応と言えよう。

 とりあえず、スマホを返してもらうと事のあらましを話した。


 姫島が来るまでの間、俺は姫島に電話をかけてもらい、それを口実に二人から離脱した俺は急いでトイレで持ってきた変装道具で遠くから観察もとい証拠映像を撮影し始めた。


 これは保険のためで、使うような場面が来なかったらちゃんと消去する予定のものだ。

 とはいえ、俺の暗示のろいは随分と効き目が良すぎてしまったらしい。


 光輝はキッチリ俺の言葉を守ってこの場にはいない乾さんを褒めるような言葉を発し、それに対する結弦はその発言にジェラシーという名のストレスを溜めていった。


 そして、それはある時に爆発。言ってることは遠回しだったが、傍から聞けば「私のこともちゃんと見てよ」とストレートに言っているようなものであった。


 しかし、光輝は主人公故の鈍感さか言葉のチョイスを間違えて、結果修羅場のような口喧嘩になった。


 口喧嘩といっても結弦が一方的に伝えたような感じなのだが、まあ二人の関係は今までで最も悪くなったと言っても過言ではない。もっとも、その最悪に誘導したのは“最悪”な俺なのだが。


「効くかどうかは二人次第だ。だが、ここまで拗らせておいて無責任に放置することは絶対にしない。俺が目指すのは最高の学園ハーレムラブコメだからな」


「現状最悪だけどね」


「一先ずしばらく様子を見るつもりだ。これで二人で解決できるのならそれが最善。

 もしそれがダメだったら俺がどうにか誘導する。一番避けなければいけないのは二人の関係を修正できないことだ」


「関係をさらに良くするためにあえて自ら悪くして、自ら良くなるよう修正していく。これってなんていったかしら。マッチポンプ?」


「しかも、俺自身が手を下そうとしていないんだぜ? あくまで事を起こしたのも、それを修正させるのも全て俺以外。お前はこんな俺を好きなんだぜ? どうかしてるだろ?」


「そうね、まるで悪魔が隣にいるようだわ」


 随分とハッキリ言ってくれるじゃねぇか。まあ、ただその言葉はすごく的を得ているな。もっとも今更何と言われようと続けていくつもりだが。


「だけど、薄情なことを言うならば他人の恋は所詮別物よ。私が見ている、見続けている恋とはまるで違ったら案外どうでもいいものよ」


「ほんとに薄情だな」


 だが、俺が言えたセリフではない。全く、今の俺はどんな面してんだか。

 俺の言葉に姫島は堪える様子もなくスラスラと言葉を口にする。


「だって、実際誰が誰とくっつこうが自分の幸せに支障がなかったらそんなもんじゃない? 友達が意中の人と付き合って、その人に自分が興味なかったら贈る言葉は『おめでとう』の五文字だけよ。

 むしろ、他人の恋にそこまで肩入れしているあなたの方がよっぽどおかしいのよ。普通そこまで協力的な人はいないわよ」


「俺の場合、非公認だけどな。だが、その理屈だとお前にライバルがいた場合はどんなんだよ?」


「ライバルがいたら蹴落とすだけよ。もっとも表面上は仲良くやっていても、実際底の底はバチバチね。

 だけど、そこまでバチバチでやって負けたのなら恐らく諦めもつくでしょうね。ま、私の場合はだけど」


「やっぱよくわからんな。恋なんて二次元以外ないし、大体、(ギャルゲーでも)惚れてくるのは向こうの方が多いし」


「ギャルゲーを参考にするのもいいけど、現実と二次元くうそうの区別はつけときなさい。人の心は思っている以上に複雑なのだから」


「それは今回で良く知った。だからといって、自分の行動を後悔する気はないけどな」


 だがまあ、あの拗れ方は恐らく俺の手を加えなければいけいだろうな。様子は見ると言ったものの、な。


 それだけやったんだからしっかりと落とし前はつけるつもりだ。俺が二人から嫌われようとも、二人の関係性だけは良くする。最悪を想定しつつ、その他のプランを練っていく。


「じゃあな、姫島。俺はこの先のことを考えて――――」


「このシリアスな状況にかこつけて帰ろうとしないでくれる?」


 思わず姫島に手を掴まれて止められる。

 うっ、バレてる。だからといって、今の俺の気分で楽しむなんてできねぇと思うが。


「これから.......で、デートしましょ」


「マジか、コイツ......」


 姫島は恥じらった目つきに薄紅色に染めた頬でこちらを見てくる。この状況でそれを言ってのけるメンタルが計り知れない。


「言ったでしょ。他人の恋は別物って。それに暗い感情で考えた所で最終的な自己犠牲で問題解決する未来しか見えないのよ」


「それは......」


 一理ある。だからといって、俺とコイツがデートすることで何か変わるとでもいうのか?


「私はね、他人の恋はどうでもよくても、あなたが関わってる恋のことなら手伝ってあげたいと思うの。

 あなたのこと大切に思うからこそ、あなたが大切にしてきたものをそう簡単に切り離していいものじゃないと思うの」


「......」


「私を同じ仲間とは思ってくれてるのでしょ? なら、私も一緒に考えるわ。でも、その考えも暗い気持ちじゃ良くない考えしか思いつかない。

 気持ちを軽くして視野を広くして、さらに周りを見てその上で見えてくるものもあるわ。それとも、私じゃあなたを元気づけられないのかしら?」


 そっと寄り添ってくるように、優しく包み込むように告げてくるその言葉に俺はむず痒い感覚に囚われた。


 いつものように不遜な強気な態度で言ってくれれば、こちらもいつもの調子で言い返せたものの。そんな感じで言われたらどうにも調子が狂う。


 思わず頭をガシガシと掻いて姫島に告げる。


「あー! やめだやめだ! 今日は考えるのやめだ! いつもの調子でこいよ。情緒イカレ女」


「あら、もしかしてドキッとしちゃったかしら?」


「してねぇわ、調子に乗んな! だが、ここまで来たら遊ぶぞ! 鬱陶しい気分を晴らしてやるわ!」


「そう来なくっちゃ!」


 俺の言葉に姫島は「大勝利~!」とでも言いたげなガッツポーズをする。それ、俺の前でやるな。俺はまだ負けてねぇ。


「それじゃあ、まずどこ行こうかしら」


「映画だな。映画が見てぇ」


「最低でも1時間半は黙っていられるからかしら?」


「......」


「ちょっと! 否定しなさいよ! 私との楽しい会話の時間を勝手に削らないでよ! それと付け髭いい加減外しなさい!」


「あ、やべ」


 そんなこんなで上手く丸め込まれた気がしなくもない俺は唐突に姫島と遊ぶことになった。

 恐らく、俺の沈んだ気持ちに対して気を遣ってくれてるのだろう。それに対して、いつまでも暗いのは失礼だ。とはいえ、これをデートとは言わせん。

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