第10話 二人っきり大作戦だ

「さて、本人達にはどうやって気づかせようか......ということで、お前の協力を仰ぎたい」


 週の真ん中の水曜日。誰もいない放課後の教室。

 外から野球部やサッカー部の声と吹奏楽の音が混じって聞こえてくる時刻の頃、俺と姫島はそこにいた。

 

「珍しいわね。あなたから私に協力だなんて。散々ポンコツと罵っているだろうに」


「違う。情緒イカレポンコツ女だ」


「自嘲気味に言ったらさらに酷い言葉が返ってきたわ。思ったより容赦なくて泣きそう」


 その癖に全然気にしてなさそうな顔をしているのはなぜだろうか。相変わらず、こいつは別の意味で感情がわからない。


「それで、頼みというのはどういうことなのかしら? あなたが私をメス豚のように罵るSM的な関係のこと? それとも男女の営み的な関係なこと?」


「お前は俺との関係を図りたすぎてアブノーマルな提案をするんじゃねぇ」


「そのぐらい積極性を持った方がいいと思って」


「違う。それは積極性じゃない。痴女だ」


 もはやこいつのクールという印象はメッキの部分だけだな。中身はポンコツであると同時に変態かよ。


「......そうね、さすがに緊張して思わぬことが漏れてしまったわ」


「それで片付く発言じゃねぇと思うがな」


 はあ、こいつと話していたら時間だけ食う一方だな。さっさと本題に入ろう。


「本題は前にも言った結弦の離脱を防ぐための案だ」


「そうね、前は私の一方的な提案で終わったしね」


 そんでとんでもねぇ爆弾を作りやがったがな。お前としては好都合だろうが、俺としては事案なんだよ。未だにあの目撃者がわからねぇし。


「それにお前の案はあまり効果的ではない」


「というと?」


「光輝は主人公だ。つまり奥手。そんな偶発的に起きることがない限り壁ドンやら床ドンなんざねぇ」


「そうかしら? むしろ、主人公にしか起きていない時点で必然的に思えるのだけど」


「.......ともかくだ。二人は一度二人っきりで話す必要がある。その為の作戦を考えた」


「今は間が長かったわよ。ともあれ、その作戦に私も加わって欲しいと?」


「ま、そういうことだ。といっても、やってもらうことは簡単だ。俺がタイミングを知らせるから電話をして欲しい」


「端折らないで一から説明して?」


「そうだな......簡単に言えば遊びに誘う。俺が光輝と結弦を誘って(ショッピング)モール辺りにでも連れていく。

 そんで俺が一旦トイレに行ったり、隙もみつけたりしてタイミングを送るから、俺に電話をかけて欲しい」


「読めたわ。そして、あなたは急な呼び出しで戻るという口実で二人だけの時間を作ると」


「そういうこと。そうなれば光輝は恐らく結弦と二人っきりでデートを始めるはずだ」


「そう言える根拠は?」


根拠? 根拠か......まあ、そうだな......。


「俺が光輝のことを知っていることもあるが......恐らく光輝が、俺が光輝と結弦を誘った時点でその意図を察するはず......って感じだな。

 少なからず俺の情報データでは高確率でデートを続けると言っている」


「どこのデータよ。それって......」


 姫島がなんかため息吐いてる。まあ、俺と光輝の付き合いを知らない人からすれば根拠らしい根拠にはなっていないだろうな。


 とはいえ、すれ違いの問題というのは思ったより根っこが深いと思ってる。なぜなら互いを思ってるからこそ、互いを邪魔しないように行動するから。


 しかし、その意識しすぎた行動がやがて思っていた相手への恋心すら希薄させていく。やがてその希薄は相手への関心すら失っていく原因にもなる。自然消滅なんて大方そんなところ。


 となれば、一度どこかでしっかりと話す機会を設けなければいけない。すれ違ってるようですれ違ってない場面すらあるかもしれないのだ。


 ただ本来近いはずの距離なのに遠く感じてしまっているような。言うなれば心が離れてしまっているまま平行線を辿っているような。幼馴染が故の弊害というべきだな。


 だとすれば、どちらかが歩み寄らないといけないのはもはや当然の理由だ。すれ違いなんてどちらかが相手の真意を聞く勇気を持たなければいつまでも続いていく。


 光輝にはそれがある。結弦の方から近づけさせようと考えていたが、を見てしまえばそう思える。


「ちなみに、第二プランも考えている」


「それって私が電話するだけじゃなくて?」


「ああ。俺が誘えば光輝は恐らく来る。でも、結弦が来なかった場合、お前が誘うんだ」


「そして、偶然を装って遭遇し、そこから邪魔ものの私達はおさらばということね」


「理解は早ぇな」


「こう見えても成績優秀よ。割りに高身長で胸もある。安産型ともいわれてるわ。どう? お買い得よ?」


「成績だろうが。それに何気にアピールしてくんじゃねぇ。俺の嫁は時雨ただ一人だ!」


「むぅ......相変わらず、二次ヲタ愛が強いようね。手強い」


 こいつポンコツのくせして虎視眈々と俺を惚れさせようと動いてくるな。全く、適当な男でも引っかけて俺のことは忘れて欲しい。


「話を戻すが、最初に話した方をプラン1とし、二つ目をプラン2とする。それは俺の結果次第でお前に報告する」


「私はプラン2がいいわ!」


「だから、結果次第って言っただろうが! 人の話を聞け!」


 とはいえ、こいつに伝えるべきことは伝え終わった。それじゃあ、俺はそろそろ帰るとするかな。まだ美香りん攻略ルートが終わってねぇ。


 そうして、帰ろうとしたとき、姫島に呼び止められる。振り返ると少し恥ずかしそうに顔を赤らめた姫島の姿があった。


「ねぇ、少し付き合ってくれない?」


 そして移動すること数分、俺達は中央公園にやってきた。

 周囲は木々に囲まれ緑の芝生が広がっている......が、少しずれれば道路に囲まれた場所でうち二か所ぐらいは交通量が多いところにある場所。


 ま、西部より都会じゃない東部のエセ都会じゃ車は必須だし、今のご時世子供も少なくて中央公園なんてだだっ広い空き地のようなものだけど。


 そんなところに何の用がと思っていると、どうやらお目当てはそこにあるクレープ屋台らしい。


 キッチンカーでは男性が接客していて、もしや男避け目的で俺を? と思うこともなく、目的はキッチンカーの横にあるカップル割りのポップ。


 どうやらこいつも俺を利用することを覚えたらしい。まあ、そっちの方が俺としても都合はいいけど。


 そして、姫島は(さんざん崩壊してるが)キャラ崩壊したような笑みを見せてクレープ屋に駆け足で行く。


 それから、戻ってきた頃には二つの手にクレープをもって戻ってきた。


「どうぞ」


「くれるのか?」


「ここまでついてきてくれたお礼に。それに甘いもの好きでしょ?」


「随分手厚いお礼なこって。つーか、なんで俺の甘いもの好きって知ってんの?」


 結弦にでも聞いたのか? とはいえ、くれるというならば、遠慮なくもらうけど。

 姫島が持ってきたのは定番のバナナチョコクレープ。包装越しに生地の出来立ての温かさがやんわり伝わってくる......はむ、うんま~~~~~!


「お気に召したようでなによりよ」


「なんだよ」


「頬が緩んでるわ。いつも私に対しては死んだ魚のような目で冷めているのに」


 地味に酷いこと言ってくるな。こっちも目のことはもうどうしようもないと思ってんだよ。

 とはいえ、クレープをもらったので今の言葉は不問にしてやろう。


「それにしても......」


「ん?」


「意外だったわ。あなたに二回も迷惑かけてそれでも頼ってくれるだなんて」


 何気こいつも気にしてたんだな。


「まあ、あれだ。俺のしたいことは人手が足りないのが唯一の欠点だしな。その為に確保した人材を簡単に切らないだけだ」


「......そう」


「それに、まだお前が俺を惚れさせようとしているのがなんか面白いから付き合ってやってるのもある。ま、現状無理だがな」


 この気持ちに関しては割と本気だ。別に俺が姫島に好意があるわけじゃないが、問題行動にイラ立ちの方が勝っているがそれでも面白がってる自分がいる。


 そんなある種ゲス野郎の言葉に落ち込んだような表情をしていた姫島はなぜか笑顔で「そう」と告げるだけ。


 それから別に姫島と何かあったわけでもなく帰路に着く。案外今回のゆったりしたのが悪くなかったのはあいつには内緒だが。特にクレープの評価が高いという意味で。

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