第9話 伝わるわけがない

――――ジリリリリリ、カチッ 


 あーだるい。スズメのさえずりさえ煩わしく感じる。

 どうも皆さん、おはようございます。俺は絶賛寝不足の朝でございます。


 というのも、俺の身に起こった悲劇もといもたらされた悲劇のことを考えると寝付こうにも寝付けなかったわけで。


 今、俺が考えてるのはあの目撃した女子は誰だっけ? とか、あの目撃者によって俺とあいつの評判がとんでもないことになってるんじゃないか? とかそんなこと。


 そうなったなら、俺のまだ始まったばかりに光輝ラブコメ計画は全てがパァになるどころか、俺の灰色の青春がこの先地獄のような期間続くとなると......何とも言えねぇな。


 ともあれ、昨日はあの情緒イカレ女を泣き止ますことに必死でとにかく色々言ったせいで、あの目撃者を探すことが出来なかったんだよな。


 それに見た時間は数秒程度だし、視界は天地逆転してたりとかで顔をハッキリ覚えてなかったり、身長もあまりわかんなかったりで俺の校内情報網でも引っ掛かりにくい。


 なので、俺の評判が特に何もないならば、このまま計画を進めていくと同時にあの目撃者を特定して口止めをしておく必要があるな。


 ......さて、そもそもあのポンコツのせいであんなR18事案みたいな光景見られたんだよな。なんて文句言ってやろうか。


 すると、俺の机に置いてあるスマホから着信音が鳴る。

 まさか昨日あれだけのおかしなことをして置いて普通に送ってきてたりしないよな?


 俺は恐る恐るそのスマホを手に取り、画面を見てると......


『おはよう。しっかり返事は返しなさいよ?』


 あいつ......あの情緒イカレ女からのレイソだ。お前、本当に緊張してその文章になってんのか? だとしたら、ある意味すげーよ。

 ......はあ、お・は・よ・う!! ポンコツ!!(怒り)。


 それから、朝の文章を済ませると俺はいつも通りの朝食を済まし、いつも通りの時間に登校してチャリに乗って移動していく。


 そして、チャリを走らせていくと学校へと続く坂道に光輝を発見。お、今日は珍しく遅い登校だな。いつもなら隣に結弦がいるのに。


「おっはーってどうした? その顔?」


「おはよう。ああ、これは......」


 俺がチャリを降りて光輝の横に並び挨拶するとなんとも元気なさげなしょんぼり顔の光輝がいる。

 一体何があったのか。まあ、大方予想つくけど。


「実は今朝も結弦とあったんだけど、なんかギクシャクした感じで『今日、日直だったんだ! 先行くね!』ってすごい勢いで走り出してったんだ」


「ほうそれで?」


「でも、今日ってうちの担任の感じじゃ番号順の当番制だから、どう考えてもまだ先なんだよね」


「で、そうなった原因がわからないと?」


「そう。でも、わからないのに謝ったところで余計な火に油だろ? だけど、昨日までは普通だったのに、今日顔を合わせたら急に様子がおかしくって」


 なるほどな。ただまあ、結弦のそういった様子はハタから見れば昨日今日の話じゃないし。

 とはいえ、こういうのは本人同士が解決するのが一番。別にラブコメ計画に問わずだ。


 女は“察して”。男は“言って”。互いの気持ちを知るにはどうにもこの性別としての邪魔が入る。

 しかし、この調子じゃ光輝は結弦の気持ちに気付くに時間がかかるだろうな。


 かといって、結弦に光輝へと本音を言わせるか? だが、どうやって?

 俺は光輝との中学の絡みで結弦とも知り合っているが、恐らくあっち側は「友達」ではなく「知り合い」に近いだろう。


 となれば、自然なその話題へと繋ぐキッカケを俺が得る必要がある。まあ、それまでに解決してもらうのが一番なんだけどな。


 ......はあ、ふと女子同士だからと情緒イカレポンコツ女に頼もうとしたが、下手に厄介ごとを増やされてもな。


 いや、逆に俺がいるから失敗するとか? だけど、俺が光輝と絡み、あいつが乾さんまたは結弦に絡むとすれば必然的に近い距離間での会話は発生する。


 仕方ない。やっぱり、今回は俺が動くか。まあ、その前にいろいろとキッカケづくりが必要だけど。


「俺、どうすればいいかな?」


 この感じ......マジで結弦に避けられてることに凹んでるな。

 とはいえ、光輝と乾さんの関係を周りで知っているのが俺とあいつぐらいだからな。光輝に全く非がないわけではない。


 しかし、光輝はあの状況では仕方ない選択をした。結弦の気持ちを無視すれば最善の選択だ。

 だが、その最善の選択は結弦たった一人に関しては悪手も悪手。


 結弦は光輝の幼馴染。いつ頃好きになったのかは定かじゃないが、俺が本格的に周りを見出した中学の時にはすでに光輝への恋心を自覚してた様子だ。


 清純派幼馴染もとい負けヒロイン。世間的には幼馴染の印象なんてそんなもんの可能性があるが、俺個人としては幼馴染ルートエンドを期待している。


 まあ、単純に近くで見て来たから報われて欲しいというだけの気持ちだ。

 俺の二次元愛の片想いと一緒にして欲しくはないだろうが、片想いというのは一方的に苦しみ続けられる毒を得ているようなものだ。


 早く解放されてあげて欲しいと思う。だが、俺は肩入れはしない。あくまで中立。それが光輝ラブコメ計画において絶対に揺るぎない鉄則ルール


 それに、その最終選択を下すのは俺ではない主人公光輝だ。

 そして、俺は結弦以上に光輝が幸せな選択をすることを願って、そのための同時攻略ルートのイベントを俺が発生させる。ま、そんなところ。


 結弦も光輝の考えに考え抜いた結果なら納得するだろう。だから、今光輝に言えることは一つ。


「光輝は結弦とわだかまりを解消したいんだろ? だったら、自分の気持ちに正直にいけよ」


 光輝はどこまでも心が真っ直ぐな主人公でなければならない。たとえ俺に対してはひねくれようとも、女子に対しては真っ直ぐに。


 時には変な嘘をつくこともあるかもしれない。だけど、主人公がモブの俺に助けを求めたのなら、俺はただ光輝が真っ直ぐ歩けるようなアドバイスを送るだけ。まあ、時と場合に寄るのがな。


 こんな偏屈で一人で生きていければいいとか、周りに興味が湧かないとか生意気なガキをやっていた俺を外に救い出してくれた奴なんだ。


 俺もこいつにはどこまでも真っ直ぐな応援をしてあげたい。ただ、俺の面白さもちょこちょこあるけど。 


 俺の言葉に光輝は「やっぱりそうだよな」と告げると少しだけ明るい顔に戻った。

 そして、学校につくまでの間、他愛もない会話をして学校に到着。


 光輝は先に下駄箱に向かい、俺はチャリを置いて下駄箱に向かう。

 それから、下駄箱で上履きに履き替えてると廊下の方からガヤガヤと騒がしい声が聞こえてくる。


「何の声だ?」


「さあ、わからない。ただ、集まっているのは廊下にある掲示板のところだな」


 掲示板か......掲示板......あ、事案スキャンダル!?

 ま、まさか、俺のことが掲示板にさらされてたとか!? いや、やめてくれよ!? そんなことあったら学校いられないから!


 そして、恐る恐るその掲示板に集まる野次馬に混じって覗いてみる。だが、結果は全然違うことであった。


「新聞部金賞の記事だって」


「新聞部が新聞で自分の記事書くとか自慢......って、確か結弦って新聞部だったよな?」


「そうだな。厳密には新聞部の中の写真班だけど」


「なら、いい話のキッカケがあるじゃねぇか」


 そう言って俺は親指を立てて掲示板に向ける。それに対して、光輝はハッとすると「そうだな。サンキュー」とそのまま走り出してしまった。恐らく、結弦のところに向かったのだろう。


 俺はそれを少しだけ見送ると新聞に目を移す。その新聞にある写真は白黒であるが、誰かが教室で一人空を眺めてるだけの写真であった。


 他の生徒が見えないところを見ると人払いをしての撮影か、もしくは盗み撮りした写真か。

 新聞の記事的には「人払いをして撮影をした」的なことを書かれてるが、そもそもなぜこの写真を新聞で取り上げてるのだろうか。


 っていうか、この写真の人物、移ってるのは後ろ姿だけどなんか見覚えが......はあ、なるほど。

 わかった。全てを理解した。その上で言わせてもらおう。はバカであると。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る