第8話 いろいろと不味いことになっちゃたんだけど!?
「――――それで、あなたの物語の主人公は見事にやらかしたと」
「ま、いわゆるすれ違いイベントってやつだな」
夕焼けの日差しが教室をオレンジ色に染める頃、本来無人である教室に俺と姫島はいた。
話す内容は今日の昼休みの出来事だ。
結果から言えば、光輝は言葉の選択を誤った。まあ、ギャルゲーを知らない男の初歩的なミスであるし、状況と言えば仕方なかったといえる。
あの妙な空気になった後、光輝は監視の目を避けるために幼馴染に嘘をつくことを選んだ。デートは順調に楽しめた、と。
それを察した乾さんは光輝の話に合わせざるを得ない。乾さんとて監視の目があることに気付いていたから。
しかし、そんな状況で
光輝は結弦ならたとえバレたとしても、二人に話を合わせてくれると信じたのだろう。そして結果は信じた。
まあ、単に二人の関係に気付いていないだけの話だが。
しかし、それで解決したと思っているのは光輝だけ。乾さんは結弦が光輝になんとなく好意があることを察してきている。乾さんと光輝がかかわり始めてから、光輝に話しかけに行く回数が増えたし。
それ故の騙すことの後ろめたさがあったのだろう。だが、乾さんにはまだ結弦に言う決心がつかないという感じだ。思ったよりも行動が遅いとは思うが。
それは少なからず光輝にフラグが立っているということなのか。はたまた別の理由か。まあ、それはともかく......
「このままだと結弦が離脱しかねんな」
「それじゃあ、話すの? 稲葉さんに二人は偽恋人関係だって」
「いや、言うのは最終手段だ。俺達はあくまでわき役。
「なら、私がアドバイスしてあげるわ」
「アドバイス?」
急に何言ってんだこのポンコツ。
「俺は結果的に光輝と結弦の関係性を深めるイベントが出来たとはいえ、お前のしでかしたことを許したわけじゃないんだからな」
「し、仕方ないじゃない! 咄嗟に思い出したのがアレで.......今思い出してもかなり恥ずかしいことをしたと思ったんだから!」
まあ、告白が勇気のいるイベントだってのは重々理解している。
俺もギャルゲーで攻略ヒロインへの告白イベントを起こすときは酷く緊張するものだ。よくわかる。
ともあれ、俺では気づかないことに気付くかもしれないし、一応聞いてみるか。
「それでアドバイスとは?」
「それは――――押してダメなら押し倒せよ」
「よくそんなよく使われるネタでドヤれたな」
やっぱりこいつを仲間にするの失敗だったかな。下手に俺の行動がバレるのが嫌だから渋々了承したけど。
「――――でも、実際に試してみないとその......説得力とかは生まれないと思うのよ」
「ほう、つまり?」
「私の実験台になりなさい!」
こいつ、ほんとに俺のこと好きなんだよな? 少なからず、俺が思っていた好かれている女子から言われる言葉とは確実に違うんだが。
「だが、断わ――――」
「まずはやっぱり壁ドンかしら?」
「人の言葉を聞きやしない」
「あなたもそう思うでしょ?」
「まあ」
ありがちの鉄板ネタだが、やはりそれは萌えるな。ラブコメとなれば一つはそういうことがなくちゃ。
「はあ、仕方ねぇな。現状、お前が結弦にアドバイスするのが一番そうだし。付き合ってやるよ」
「え、ほんと!」
キラッキラした目してやがるな。どっちにしろ断ろうとしてもさっきみたいに遮られそうだし。潔く諦めよ。
「それじゃあ、俺が光輝役で、お前が結弦役。いいな?」
「ええ、わかったわ」
「そんじゃ位置につくぞ」
「あ、待って――――きゃっ!」
俺が壁際に移動しようとすると姫島が不意に自分の足に足をひっかけてコケる。え、嘘だろ?
そして、そのまま俺に寄りかかってきて服を掴んだと思うとそのまま一緒に床へゴロン。
「あぶないあぶない......って、え? どうしてこうなるの?」
「俺が聞きたい」
結果的に見れば仰向けの俺に姫島が馬乗りになりやがった。押し倒すって物理的じゃないよな?
昼休みに急なポンコツをさらしたと思ったらまたか。しかも、自分のしでかしたことに顔真っ赤にしやがって。つーか早く降りろ。
そんなことを思っていると姫島さんは半分パニックの状態で何かを思いついたのか、急に両手を俺の顔の横に力強く置いてきた。
「どう? これが床ドンよ!」
「いや、どれだけキリッとした顔で言っても締まらねぇから。それでこの状況の理由を乗り切ったと思うなよ?」
それに壁から床に地味にシフトチェンジしてんじゃねぇ。
「......ど、どうかしら? 私にドキドキしてるかしら?」
「ああ。お前の危なっかしさに」
「そっちじゃないわよ!」
ツッコむのはいいからはよ降りて。
......ん? なんだ急にしおらしい顔になって。それに俺の胸にやつの地味のデカい胸を押し付けてきやがったが。
くっ、これじゃあ、前の屋上の時と同じだ......やわっこい。
「ガツガツいってもあなたには私の魅力は届かないの?」
「......」
姫島の右手がそっと肩に触れる。
「主人公と同じオタクなのにここまで反応が違うの?」
「それは......」
姫島の左手が頬に触れる。
「私がここまでやれるのはあなただけよ。別に今すぐというわけじゃないけど、告白を聞いてその態度はあんまりじゃない」
......なるほど。まあ、たとえ三次元のお前に興味がないとはいえ、三次元の俺に恋してるお前としては多少なりとも手ごたえが欲しいんだな。
けどさ、俺にはその感情はわかない。だって―――
「恥ずかしさで今にも泣きそうなくせに無理するからなんか罪悪感が先行するんだよなぁ」
「な"ん"て"よ"ぉ"」
「お前、情緒イカレてんのか?」
あー、もう恥ずかしさがマッハで限界点超えちゃったよ。泣き始めたよ。そんな状況でどうドキドキしろと?
あるとしたら別の意味のドキドキだよ。女の子泣かせた現場を教師に見られないかなとか。
「ぐすん、少しは期待したっていいじゃない!......うぅ......うぇ」
「えづくな! あーもう! ほら、ハンカチかすからチーンしろ!」
「う、う......うぇ」
姫路は俺のハンカチを受け取ると全力で鼻をかむ。ああ、俺のハンカチ。しかも、この時に限ってちょっといいアニメ柄ハンカチが。
しっかし、酷い構図だな。馬乗りになった女の子が泣いてる状況って。もし誰かに見られたら......ってよせ。余計なことは考えるな。俺はラブコメの主人公じゃ――――
――――ガラガラ
不意に聞こえてくる教室のドアがスライドする音。もはやそれは俺にとっての戦慄の音。
急にどっと流れ出る冷や汗を感じ、恐る恐る上体を逸らして背後のドアを見る。
するとそこには、全てが逆さに映った世界で全く知らない女子がいた。栗色の少し長い髪をした小柄な少女。
その少女は顔を真っ赤にして俺と姫島さんの現状をマジマジと見つめていた。しかも数秒間に渡って。
「え、誰?」
「~~~~~っ!?」
俺が思わず漏れ出た言葉にハッとするとその少女は声にならない声をあげてビューンと教室を出ていってしまった。え、マジで誰?
「うぅ.....ぐすん、うぇ......」
「ちょっと! いい加減泣き止んで! えづかないで! 今の絶対やばい誤解されたから! ちょっと誰だかわからないけど誤解解きにいかないといけないから!」
そんな言葉も虚しく俺は姫島の情緒が安定するまで結局その場から動くことは叶わなかった。
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