第6話 諦めが悪い高飛車
待て、どうしてこうなった? 一旦、状況を整理してみよう。
今から数日前に光輝の学園ハーレムが始まり、俺の立場も明確になったところで
その要求は光輝に近づくために仲を取り持って欲しいということ。そして、その願いを受け入れセッティングしたのが今日。
それで俺の前に現れたこいつに今日の感想を聞いてみたら突然告白された。←NEW
いやいやいや、おかしいだろ!? こいつが好きなのは光輝のはずで! 確かに、若干疑ったりした節もあったけど、どうしてこうなった!?
「......なんの冗談だ?」
「冗談でそんなこと思われてるなんて心外ね。まあ、あなたが付き合ってほしいというのであればやぶさかではないけれども!」
「なんで告った方がそんな上から目線? つーか、光輝に近づくために俺を利用したんじゃないのかよ?」
「逆ね。あなたに近づくために陽神君を利用した。まあ、あなたがここまでちゃんとしてくるなんて意外だったけど。
でも、それって友達の恋を応援しているという意味合いでもあるし、余計に好きになったわ」
なんでこうもしれっとそんな言葉が言えるんだ? それになんか勝手に俺に対する好感度上げるのやめてもらえる?
「自分でいうのも何だが、俺は友達で遊んでいるようなクズだぞ?」
「今更そんな事を言って好感度下げようとしたって遅いわよ。もうさっきあなたの真意は聞いたもの」
「うっ......」
一向に引く気がない。向こうも告るために覚悟を決めてきたって感じか。この場から逃げるのもありだが、それは結局結論を先延ばしにしたに過ぎない。
禍根を残さないためにもここはハッキリさせた方が良い。優柔不断な主人公とは違いドライにいく。
......とはいえ、一方的に告げても相手が納得するかは別問題。まずは話を聞こう。
「そもそもどうしてお前ほどの人物が数多いる男どもの中から俺を選んだんだ?」
「.....やっぱり気づいてないのね。まあ、仕方ないことだけど」
ん? 俺は過去にこいつと会ったことがあるのか?
俺がそう思っていると姫島さんはおもむろにロングの髪をローツインテに縛り上げる。そして、どこからともなく取り出したメガネをかけた。
......ん? どことなく顔に見覚えがあるような......あ? まさか?
「お前、中学の時に俺と図書委員してた女子か」
「ええ、そうよ。ちなみに言っておくと同じクラスよ。まあ、ここまで覚えられないほど芋っぽかったからしかたないけれど」
大人しい印象であったことはよく覚えているが、どうして今はこうも高飛車な振舞なんだ? 高校デビューの影響か?
「きっと覚えてないだろうけど、あなたに恋した私は必死にいろんなファッション誌を読み漁って研究したわ。そして、高校を機に勝負してみたの。結果は成功。告白された経験もあるわ。
でも、あなただけは一向に振り向いてくれない。中学の時からオタク質であると理解してたけど、まさかそこまで重症化してるなんて......!」
「悪かったな。重症化してて」
にしても、そうなるとこいつは中学の時から片思いしてるということになる。
しかし、だとすればなぜ告白するタイミングは今なんだ?
「どうして今なんだ? 告るの」
「あなたがモテてしまうと思ったからよ」
「は?」
「陽神君の幼馴染の相葉さんも、今は陽神君とよろしくやってる乾さんもいずれはあなたに」
「ならんから」
そんな不確かな危機感で告ってきたのか? 確かに結弦とも乾さんとも光輝の絡みで話すことはあるが、結局あいつらの意識は光輝一人で俺はアウトオブ眼中だぞ。
「恋は盲目」なんて言葉があるが、その言葉はまさしく目の前のこいつに送られる言葉であろうな。
「はあ、なんでこうなるかな......」
「なによ。私に告白されたことが不満なの?」
「質問を質問で返すようで悪いが、お前はどうしてそう高飛車な態度なんだよ」
「そ、それは......」
姫島さんは顔を赤らめもじもじとし始めた。
「内気だった私は平然と人と話せるように訓練したのよ。もとが弱気だから舐められないように強気で話すようにした方が良いと思って。
そしてキャラを演じていたら、いつの間にかクールな存在とかついちゃって、もう後にも引けなくなって......。
でも、いざ好きな人を前にすると逆に恥ずかしさの方が上回って、素直に生きたいけど逆にああいう態度の方が話しやすいのよ」
「それであんな上から目線な告白があったと」
「悪かったわよ。恥ずかしさに耐えきれなくなったの。でも、言いたいことはちゃんと強気にならずに言えた」
そのことに姫島さんは嬉しそうな顔をする。まさに乙女の顔というべきそれだ。しかし、言うべき相手が間違ってると言えよう。
俺はその場から立ち上がるとポケットに手を突っ込む。いつものスタイルだ。
「その気持ちはきっと勘違いだ」
「......え?」
「もし、中学の時にお前に優しくしたような態度を見せたのなら、それはお前がただ勘違いしただけだ。
俺の憧れはいつでも今でも光輝だ。能力も見た目も平々凡々だが、誰にでも差し伸べられる優しさができる奴はそういない」
光輝は人を選ばない。めんどくさそうで周りからも自分からもかかわりを持とうとしなかった俺にあいつは今でも優しくしてくれている。
「そんなあいつの自然な振る舞いに憧れた俺は不格好ながらも優しくしてみたのがお前だとすれば、お前が恋をしたのは俺という存在を通した光輝だ。俺じゃない」
俺は結局人の模倣をしただけだ。憧れた
それで優しくされたと勘違いして俺なんかに恋をした姫島さんには悪いがハッキリ言わせてもらう。
「お前が恋をしたのは俺じゃない。お前の願いは最初から“光輝に近づくこと”で間違っていない。
俺もお前のことは嫌いじゃないが好きじゃない。そして、お前も俺の事なんざ本当はこれっぽっちも思ってない」
少し自虐が入ったな。さっきの悪い考えを引きづってるのか? まあ、どちらにせよ根暗の奴には自虐ぐらいがちょうどいいか。
さすがに言い過ぎたような気がしなくもないが、俺は主人公ではない。たとえ女子であっても相手の気を遣わずに言いたいことは言う。それが俺の本心だから。
あ~明日には俺は学年中から白い目で見られる可能性もあるかもしれんな。それでも、これが俺のスタイルだ。
「......ないで」
「ん?」
「あなたこそ勘違いしないで!」
突然の突風が吹いたかのような大声。両手の拳は強く握られていて、わずかに浮かんだ涙越しに睨みつけた瞳が夕焼けに輝く。
「この気持ちはあなたに否定されるようなものじゃない! 私がそう思ってそう決めた“想い”なのよ!
......別にこの告白で答えを聞こうと思ったわけじゃない。ただこういう存在もいると思って欲しかっただけ」
「......そうか。そういう意味なら少なくとも成功だったと思う。もっとも今終わったがな。いや、終わらせたという方が正しいか」
「だから! 勝手に自己完結しないで!」
姫島さんは引き下がらない。何が彼女をこんな想いにさせているのか。
俺は俺のことは好きだが、周りから評価されるほどとは思っていない。むしろ、周りから好かれないだろうからせめて俺自身は俺を好きでいようと思ってるだけだ。
俺に対する周りの評価なんてほとんどが「無関心」に近いだろうが、強いて答えてくれた内容ならば「嫌い」の方が恐らく多いだろう。
男子から嫉妬を食らってる光輝とは違う人間性としての「嫌い」。そして、今数少ない「好き」を「嫌い」に変えてしまった――――はずだった。
「私はたとえどんなあなたになろうとも必ず好きになった。本当のあなたはどこまでも優しい人だもの」
「お世辞どーも」
「お世辞なんかじゃない。正当な評価。だから、私は諦めない。覚悟しなさい!」
姫島さんは指を俺に向けて堂々と宣戦布告した。やはりどこまでも威圧的な告白だ。こんな告白、もはや告白と言えるのだろうか。
俺は答えるのも面倒になって屋上の出入り口に向かっていく。すると、姫島さんは「最後に質問」と言って聞いてくる。
「あなたはどうして
「別に特に理由はない。二次元に熱中していたら、三次元よりいいじゃんと思っただけ。
その人にかける時間もお金もソシャゲの方が使ってて楽しいからな。別に過去に女性恐怖症がとか、恋愛にトラウマがあって、みたいな主人公らしい理由はない」
「......そう。なら、助かったわ」
俺は姫島さんの方を向かずに答えた。正直、もういろいろと疲れて早く家に帰ってゲームしたい。その気持ちが全面に現れてたのかもしれない。
すると、背後からコツコツコツと駆け足で迫ってくる音が聞こえる。
告白した相手......もとい振った相手と屋上を一緒に出ようとかどんな強メンタルだ。心は防弾ガラスかなんかでできてるのか――――と思っていたその時。
左腕からとんでもなく柔らかい感触を感じる。全身に走るゾワッとする感覚。え、こいつ、まさか!?
「あなたのオタクワールドを否定する気はない。なら、ガンガン攻めても問題ないのよね? 必ずその腐った完成を篭絡させてやるわ!」
「......っ!」
姫路さんは二つの柔らかい凶器でもって俺の左腕をがっちりホールド。否が応でもその左腕に意識が集中させられていく。こいつ、今朝のアドバイスを逆手に取りやがった!
そのくせに姫島さんは「こんなことまでやっちゃった~!」とばかりに顔を赤くして、目をグルグルさせている。こいつ、さては恋愛に関してはバカだな?
「はあ、勢い任せにラブコメ突撃系ヒロインの真似すると大やけどするぞ」
「もう遅いわよ!」
そして、俺は結局姫島さんという問題を処理できずに今日を終えたのであった。
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