第2話 思った以上に展開早いね
「人生の主人公は君だ」そんな言葉がある。しかし、俺はそんな言葉を信用したことがない。
なんせ、今の俺はつい昨日自分の立ち位置を理解したのだから。
とはいえ、それならそれで良かった。俺は自分が面白くかつ親友が最終的に幸せになればいいのだから。
――――ピピピピ、ピピピピ、ピピガチャンッ
「う、ん~......はあ、朝か」
伸びをしても気分が晴れない。あ、机の上に時雨ちゃんフィギュアが。おはよう、時雨ちゃん。君のおかげでやっぱり元気かも。
『おはよう』
ピロンと鳴ったスマホの画面が光り輝く。その画面にはレイソであの
それを見て俺はそのめんどくささにため息を吐くのだ。
****
7時45分、俺のいつも通りの登校時間だ。俺は基本的にチャリ通で片道15分の道をのんびりと走っていく。
俺が通っているのは<
とはいえ、そんなでかい高校で走り回るのは俺の役目じゃないので広いのは割りに面倒だったりする。
しかしまあ、気分が晴れないこと晴れないこと。これもそれもあの姫島のせいだ。
正直、姫島が光輝にどうアプローチしようと問題ない。だが、それに俺を巻き込まないで欲しいのだ。
昨日は半分カッコつけてあんな事を言ったが、実際は手伝う......つもりではいるけど、先に賄賂もらっちゃったし。
俺は姫島が本当に好意があるように思えないのだ。高圧的な態度は光輝じゃないからかもしれないが、問題はなぜ今更になって動くかということ。
光輝には設定に幼馴染がいる。もし光輝に対する意識があるとすれば、もっと早くから焦ってもいいのではないか?
それとも転校生という新参者の影響でさすがに動き出さなきゃいけないと思ったからか?
「う~む、さすがに決め手に欠けるか......お」
あの後ろ姿は今回のラブコメ生活主人公の我らが光輝君ではないか~。光輝は歩きだから朝だと大体交差点付近で見かけるんだよな。
「おーい、光輝ー! おはよ」
「学か、おはよ」
俺は自転車から降りて歩道橋を速足で進みながら光輝の横に立つ。すると、光輝はびっくりした様子で挨拶を返してきた。
むむむ? これは明らかに何かあった感じですな。さて、何があったんだか。
「どうした? 朝から変な反応して」
「あ、ああ、今日はなんかいい天気だなって思ってボーっとしてて」
「まあ、晴れちゃいるけど」
なんかあったな。家がお隣さんだったとか、それとも再婚した親の相手が乾という名字で乾さんと家族になったとか、乾さんとニ〇コイ的な展開になったとか?
まあ、ここは光輝から言ってくれるのをゆっくり待ちますかな。
と思っていると、案外すぐに光輝は決意を固めた様子で俺に告げてきた。
「実は俺.....乾さんの許嫁みたいだったんだよね」
「許嫁!」
「しーっ! 声がでかい声が!」
「す、すまん。思わずびっくりして」
ほう、許嫁とな。案外とベターなところだな。ちなみに、わざと大きめに言ったのはオプションである。
「にしても、どういう経緯で?」
「なんか、俺の親父と乾さんの親父が昔に意気投合したらしくて、それでたまたま同じ学校になったからって突然俺も乾さんも呼び出されて.....って感じで」
「なるほどな」
まあ、そんな感じとは思った。俺はラブコメ派だけど、お前は少年アクション派だもんな。まあ、こんな状況で密かにワクワクしてるのは俺だけか。うん、オラ、ワクワクすっぞ。
「いや~、それじゃあお前はもうリア充ってことか~。うらやま死ね」
「ばっ、ちげぇって。俺も乾さんも親が突然決めたことに反対してるみたいだし、俺達はそういう意味では意気投合した」
「でも、それだったらそんなに暗い表情しなくていいんじゃねぇか?」
「それがさ、その親同士はほぼ初対面にもかかわらず意気投合して結婚の話とかしだして、乾さんがお嬢様らしくて育ての従者が付き合ってることを見張ってくるみたいで、定期的に付き合ってるフリをしなきゃいけなくて」
「うわ~、それは辛い」
それは真面目に同情する。つーか、マジでニ〇コイかよ。とはいえ、一番辛いのは幼馴染ちゃんだけどな。
そう考えると、俺はやはりこのポジションで良かったな。まあ、問題はあるけど。
「そういえば、君の幼馴染はどうしたの?」
「結弦? なんかよくわからないけど、朝会って挨拶したら無視して逃げられた」
嫉妬ですな。まあそりゃあ、光輝と乾さんの関係に気付いてなくても、好きな人に接点があってかかわりそうな人となればそうなるのか。
とりあえず、俺から言えることとすれば.....
「頑張れ」
「この、他人事みたいに言いやがって!」
そして、俺達が他愛もない会話をしつつ教室に辿り着くと乾さんと結弦さんこと【新妻 結弦】の二人が楽しそうに会話してた。
ほう、嫉妬はするけど、仲良くなれるタイプではあったのか。こりゃあ、こじれますね~。俺が何もしなくてもきっとこじれる。
さて、光輝がその二人に声をかけにいったところで、俺は俺の問題を片付けなければいけない。そう、姫島縁だ。うわ、めっちゃ睨んでる。なんかした俺?
とりあえず、しばらくは光輝自身が乾さんとなんとかして仲良くなっていく感じだろうから、その間に
俺が席について一限の教材の準備をしているとポケットにしまっていたスマホが震える。良かった、バイブレーションにしといて。
『どうして無視するの?』
無視? した覚えないけど。絶賛お前に悩まされ中だけど。
『朝、挨拶したのに』
あ、それ。まさかそれでさっき睨まれたの? いや、お前は光輝とお近づきになりたいんだから別にいいでしょ。
『すまん、朝スマホ見てなかった』
とはいえ、そんなことを言えるわけもなく、とりあえず無難に謝っておくか。
『そう。なら、次からちゃんと挨拶してよね』
なぜ俺にそんなに挨拶を強要させる? あいつの考えがサッパリ読めねぇ。
あいつが狙ってるのは光輝のはず。たとえ外堀を埋めるにしても、お前は俺を道具として見てるはずだから、そこまで距離感を近づける必要がないはず。
だけど、もしこいつが光輝を純粋に好きで近づきたいって話なら俺の勝手な決めつけで切り捨てるのは悪い。時雨ちゃんもこんな俺は嫌いだろうし。
仕方ねぇ、貴重な昼休みを削って少しこいつと作戦を練ってみるか。とりあえず、話したいことがある昼休み屋上でなっと送信。
「はあ......」
俺と姫島さんとでそんなやり取りを終えた頃、光輝がやつれたような表情で席に着いた。
「今度はどうしたリア充君」
「だから、違うって。さっきさ、結弦に乾さんと一緒に許嫁のことを話そうと画策してたら、外から従者の人が木に登って観察してて、咄嗟に付き合ったみたいなポージングしちゃって」
「......」
......思っている以上に展開が早い! いや、確かにラブコメの漫画だと展開早い方が望まれるけど、リアルでもそれ適応されるの!? そして、その現場を姫島さんとのやり取りで見逃してた最悪!
クソ、そんな面白い......ゲフンゲフン、素晴らしい場面を見逃すなんて。まあ、仕方ない。主人公は
っていうか、幼馴染ちゃんは......あ、死んでる。魂が抜け出て、器は砂になりかけてる。
「お前.....頑張れ」
「だから、助けてくれよー!」
無理だ。面白いから~。にしても、光輝への視線がすごい。俺まで針の筵になった気分だ。
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