ラブコメの裏事情~俺が影の支配者だ~
夜月紅輝
第1話 最初からつまづく裏事情
青春とは何か?
代表的な命題だ。しかし、それを解き明かせるものはほぼいないだろう。
恋をすることという人もいれば、部活動で何かの目標を目指す及び達成することと考える人もいるだろう。
しかし、その定義は十人十色。似通ってるだけで完璧に同じ考えを持っている人などいないだろう。
人にとっては夏休みに家に男友達を読んでひたすらゲームに熱中する。自分の趣味に全力投下する。
そんな一見味気なく見える光景も青春と呼べるものではないか?
もし自分を前者か後者かに定義するなら、当然のごとく後者だ。それで十分満足だ。
とはいえ、青春を定義づけしたときに真っ先に代表例として挙がるのが“恋”だとするならば、その恋は青春だけで言えば特別なのだというならば、いわば“甘酸っぱい”とは一体何なのだろうか?
恋愛には興味はない。されとて、その甘酸っぱさには興味がある。となれば、考えは一つ―――――
「――――ってことで、ハチミツ漬けレモンを作ってみました」
「なんでそうなっちゃうかな。それに酸っぱくないぞそれ」
光輝に苦笑いを浮かばれてしまった。まあ、予想できてたことだし、むしろこのためのただのふりだ。さてお味のほどは.....うーむ、甘い。全然酸っぱくない。超美味い。
突然だが、自己紹介をしよう。
俺の名前は【影山 学】。「まなぶ」ではなく「がく」だ。まあ、おかしな日陰者のオタクと思ってもらえれば問題ない。友達はちゃんといるぞ。
そして、俺の正面で椅子を後ろ向きで座り苦笑いを浮かべているのが一番の友人とも呼べる【陽神 光輝】。名前だけ見ればキラッキラした奴だ。
しかし、見た目は普通で顔立ちはそこそこ。いかにも主人公らしい平凡さだ。光輝も実は俺と同じオタク質があったりする。
ここまで紹介すればさすがにわかるだろう。そう、こいつが俺の物語の主人公だ。どうして主人公かって? それはすぐにわかる。
「ほら、さっさと食べちゃいなよ。ってか、なんでHR前に食べてるんだ?」
「甘いものだから我慢できなかった。しかし、悔いはない」
「まあ、悔いがないならいいよ」
そう優しく告げると光輝は反対向きに座っていた椅子を座りなおして黒板の方を向く。
位置的には窓側の一番後ろが俺で、その一つ前が光輝って感じだ。
時に突然だが、幸せの定義をしよう。
“幸せ”......まあ、幸運でも構わない。そう言ったものは一体誰がどのくらい保有しているものだろうか。保有というとおかしいか。なら、ステータスの幸運値と考えれば差し支えないはずだ。
人には生まれつき幸運値が備わっている。もともと高い人もいれば、低い人もいる。多少は年齢が上がるにつれて変わるだろうが、下がることはない。
幸運な奴は案外どこまでも幸運だ。しかし、それに気づかずに生きているだけに過ぎないのであって、周りから見れば嫉妬の対象であろう。
それがいわゆるラブコメの主人公だ。あんなの幸運値がMAXか上限突破してないとあんな学生ハーレムなんて作れないだろう。
見方を変えれば付き合ってないだけで何股もしてるようなものだ。そして、主人公は天然ジゴロと来たもんだ。手に付けられない。
自分が何股もしてることに気付かず、やたらめったらに女子を惚れさせていく。正直、やべぇ奴。
でも、男というのは単純でそういうのに憧れていて、されど憧れるものほどその場所から酷く離れた場所にいる。
そして、そのようなことにあうのは大抵どこまでも真っ直ぐの奴か、とんでもない鈍い奴かのどっちか。
俺か? 俺は憧れなど抱いていない。むしろ、リアルに興味がない。二次元に飛び込みたい。そんな人間だ。
っと、話が逸れたな。要するに言いたいのは、これから
「よーし、席につけ~。なんとびっくり情報、転校生が来るぞ」
吉本先生が教卓に立つと開口一番にそんなことを告げる。吉本先生.....三十路近くて体育教師でもないのにジャージって女としてどうなの? まあ、別に俺に関係ないからいいけど。
吉本先生の言葉にクラスが浮足立つ。まあ、男子なら美少女、女子ならイケメンが来てワンチャンの淡い期待を抱いているのだろうけど、諦めろ。今回の主人公はお前らではない。
吉本先生が手招きして転校生を呼ぶ。すると、入ってきたのは快活そうな茶髪のポニーテール。胸も割と大きめ。
「初めまして、【乾 瑠奈】です。よろしくお願いします」
そして、起こるのは予定調和。
「あ、さっきの変態!」
「あ、さっきぶつかった人! って誰が変態だ!」
乾が光輝に向かって指さすと光輝は席を立って指をさす。まるで昔のラブコメの常套句みたいな始まり方だろう。
しかし、唯一違うとすれば、それは俺の友人であるということ。
さすがにもうおわかりであろう。俺のポジションを。
「なあなあ、お知り合い?」
「いや、登校中でたまたまぶつかっちゃってさ。その時にその......パンツ見ちゃったんだよな」
「あらま」
まあ、知ってたけどね。なんせ、君らの現場をたまたま登校中の俺が見かけちゃってたからね。
「せっかく新たな高校生活が始まって1か月が経ってクラスの皆と仲良くできていたのに、よりによって男子を敵に回すとはご愁傷様です」
「そう思ってんなら助けろよ!」
まあ、お前が本当の意味で大変なのは男子よりも遠くから鋭い視線をぶつける幼馴染様でしょうけどな。がんばれ~応援してるぞ......心の中で。
つーことで、俺のポジションはギャルゲーでいう主人公の親友という唯一名前があってワンチャンCVがつく特別なポジションだ。ToL〇VEるでいう猿山ケ〇イチ的なポジション。
言い方を変えれば、主人公のおこぼれで主人公の次に女子と接する機会が多いくせに、モテるのは全員主人公という不遇なポジションでもあるが、もとより俺は二次元の住人(になりたい人)なので関係ない。
これからは主人公の慌てふためくラブコメ学校生活に茶々を入れながら面白おかしく引っ掻き回せるだろうな―――――
と、思っていたのも束の間。すぐに俺にとって厄介なイベントが起きてしまったのだ。
光輝が代表的なラブコメの第1話みたいな転校生と少しだけギスギスした関係を醸し出しつつ、今日という1日を終えて帰って行った後、俺は忘れ物を思い出して学校に戻ってきていたのだ。
こう見えても一番最初のテストはそこそこ高順位を叩き出してるわけだからして、少なくとも光輝よりもよくないと成績でマウントとれないし。
そんなことを思いつつ、無人の教室に入ると俺は机の中を調べる。
「あれー、ここに今日のプリント入った奴あったと思ったんだけどな。どこ置いたっけ?」
背負ってるリュックを下して改めて中身を見てもお目当てのものはない。まあ、内容をチラッと見たとき急ぎのやつとかじゃなったし、明日改めて探すでも問題ないけど。
するとその時、教室のドア付近で声をかけられた。
「お目当てはこれかしら」
その声の方へ振り向くと蒼がかった黒髪ロングの女子が俺のお目当てのプリントファイルを持っていた。
確かあいつは.....同じクラスの【姫島
優等生でクールビューティーと評されるあいつがあいつがどうしてあんなものを持ってるんだ? まあ、落としたのを拾ったのだろうけど。
「落としたの拾ってくれてありがと。助かったよ」
俺が当たり障りなく近づいて今にも取りに行こうとしたその時、なぜかヒョイッと避けられた。
もう一度手に取ろうとするが、またヒョイッと避けられる。なんだこいつ。
「姫島さん、それ俺の.....」
「取引しましょう」
......は? 突然何言いだしてんだこいつ。てか、はよ返せ.....と言えるはずもなく、とりあえず聞き返す。
「取引?」
「そう、取引。これを返す代わりに、私と陽神君をくっつけるのを手伝いさない」
なるほど......なるほどな。そういういきなり外堀を埋めるタイプか。別に悪い手段とは思わないが、個人的に気に食わん。
「なら、いいや」
「!......どうして!?」
「姫島さんは光輝のことが好きなんだろ? なら、まず光輝にアプローチしろよ。いきなり外堀埋めようだなんて浅ましい考えを持ってる人に光輝は売れない」
さすがに光輝とは小学生からの仲だ。悪いがこちらだって恋を応援する以上、悪い女に引っ掛からないようにするのがギャルゲーの親友ポジションと言う奴だ。なにそれ、俺カッケー。
「そう、わかったわ」
聞き入れてくれたか。やけにあっさりなのは気になるが、さすがに本気で悪い奴じゃないだろうし、明日学校来れば机に置いてあるかな。
「なら、アプローチはかける。その上で協力してくれない?」
「......はあ、だからまずはその行動を見せ――――」
「―――――艦〇れの時雨フィギュア15センチをあげると言ったら?」
「......!?」
こ、こいつ......どうして俺の嫁のことを!? それは光輝と複数の男子しかしならない事実。まさか誰か俺の情報を売ったのか?
「あ、それからポスターもあったっけな~」
姫島さんはチラチラとこちらを見ながらさらに俺を動揺させるような言葉を呟く。
こ、このやろー。どうして俺の好みを把握しているのかわからないが、とんでもねぇこと言いだしやがって!
「残り5秒のうちに決めなさい。5、4、3......」
「ま、待て、俺.....俺は......
「なら、取引成立ね」
そして、親友のラブコメが始まったと同時に俺はその親友を売った。それから、すぐにレイソ(※メールアプリ)交換させられた。
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