第2話 轢かれ
僕と神島の出会いは高校の通学路、下校中のことだった。
クラスメイトだったのでお互いの顔は知っていたが、挨拶をしたこともなかったので、僕はその時を出会いとしている。
僕はイヤホンで音楽を聴きながら歩いて家に向かっていると、向かいから自転車が来ているのが見えた。
このままお互い真っ直ぐに進めばぶつかるが、広い道路だ。向こうが避けるに違いない。
僕はそう考えて進路を変えずに進み続ける。
自転車の彼女と目が合った。これはもう間違いなく避けるだろう。
轢かれた。
いや正確に言えば、轢かれる直前に反射的に格好悪く躱したため正面衝突は避けられたものの、右足の甲をがっつり轢かれた。今スニーカーと靴下を脱げば、くっきりと轍が残っているだろう。
「ごめんなさい!!」
少し行ったところで止まった自転車から彼女が走り寄ってきた。
「あれ、秋派くん?」
「あ、神島……」
クラスでよく快活に笑っている女子。
神島に対してそんなイメージを持っていたので、その少し泣きそうな顔は新鮮だった。
「ごめん、大丈夫? 私、考え事してて……」
「ああいや全然大丈夫。もう痛くないし」
見栄を張った。結構痛かった。
「ほんとにごめんね。あ、これいる?」
制服のスカートのポケットからミカン味のグミを取り出して僕に差し出す。慰謝料として受け取って、と真剣な顔で言っている。
「じゃあ貰っとく。ありがとう」
「おいしいから元気になるよ。骨折もすぐ治る!」
「だからそこまでじゃないって。でもあんな正面の人に気付かないって、何をそんなに考えてたんだよ」
それはね、と神島は言いかけて、彼女は僕をじっと見た。
「そういえば秋派くんって、数学得意だったよね」
「え、まあ好きだけど」
来年文理選択がある際には迷わず理系を選ぼうというくらいには数学は好きだった。
「じゃあさ、宿題教えて!」
「ええっ?」
「今ずっと解けない問題があって先生に聞きに学校に戻ろうと思ってたの。解けないともやもやしちゃって、考えこんじゃってさ」
それで悩んでたのか。いや悩みすぎだろ。
「お願い!」
神島は両手を合わせて僕に頼み込んだ。
「……いいよ」
「え! やった、ありがとう!」
問題が解けないもやもやは僕にも経験がある。あとこんな調子で第二第三の被害者を生むことを回避するためにも、僕は承諾した。
「じゃあ後ろ乗って! 教室でやろ!」
「え、今から?」
「そうだよ! 宿題終わらせないと遊びに行けないじゃん!」
こうして僕は右足の痛みとミカンの風味を連れて学校に戻ったのだった。
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