眩しくない僕は

池田春哉

第1話 惹かれ

 孔雀はその広げた羽の美しさを魅力として、異性にアピールするらしい。

 じゃあ人間は?


「私は、光だと思う」


 彼女はそう言った。

「変な話をするね。私には昔から人が光って見えるの。みんなは違うらしいね。これは超能力とかそういう類のものなのかな。よくわからないけど、私にはそうなんだ」

 彼女、クラスメイトの神島見識かしまみおりは言いながら、ブドウ味のグミを一つ口に放った。

秋派あきはくんはゲームとかする? RPGとか。キャラクターがレベルアップするときさ、全身の輪郭に沿って光るでしょ。そんな感じなんだよね。イケメンとか優しいとかそういう魅力が多い人ほど眩しく光るの」

 すごくて500ルクスくらい、と神島は言うが、500ルクスがピンとこない僕はパックのオレンジジュースをストローで啜る。

「ちなみに今の僕は何ルクス?」

「うーん、20くらい」

「ふざけんな」

 なんて理不尽な世の中だ。イケメンは家から出るな。

「まあ、かと言ってこの能力で得したことなんてあんまり無いんだけどね。うちの親は本当に優しいんだなーって嬉しくなったりするくらい」

「それはすごい得なことのような気がするけど」

「あはは、間違いない。私は幸せ者だ」

「家族に感謝だね」

「感謝の代わりに私は今こうして宿題してる。勉強していい大学に行って、大きい会社に就職してお金持ちになって、恩返しをするの。それが私の感謝。言葉よりも行動で伝える派なのだ」

「そのサクセスストーリーの一助になれて嬉しいよ」

「ほんと秋派くんがいてよかった。今日の宿題全然わかんないんだもん。将来私が起業したら、秋派くんを雇ってあげるね」

「ありがとう。嬉しいよ」

「もちろん役員クラスだよ?」

「ありがとう。嬉しいよ」

 全然嬉しそうじゃないなあ、と神島は不満気にグミをもう一つ拾って食べた。

 そろそろグミをシャーペンに変えたほうがいいよ、と教えるべきだろうかと考えてから、言ったところで無駄だろうなと匙を投げる。

 超能力。

 あまり超能力云々については信じていない僕だが、彼女がそんな嘘をつくような性格じゃないことも知っているので僕は半信と半疑の間を揺れ動く。

 人が、光る。

 それはどんな感じなんだろうと想像して。

 僕は非常にどうでもいいことが気になってしまった。 

「人が光るってことはさ」

「うん」

「渋谷とかどうなるの」

「年中イルミネーションだよ」


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