5

 ウィッチクラフトアカデミーは基本木造四階建てである、窓には割れたガラスをガムテープで止めていた。

 ムニカは図書館にいた。一階北向の涼しい所に図書館はある。

 彼はそこまで進んで本を読む事はないが魔女の事について調べていた。

 この理由としてカレンともっと仲良くなりたいと思っていたのだ。

 虫の話だけではなくいろいろとお喋りしたかったのだ。

 しかし、この本を理解する事が出来なかった。

 それもそのはず本を逆さまにしている事に気づいてない上にその本は料理の本だった。

 本を理解出来ずふと窓の外を見てみるとイトウマキがしっぽを振りながら歩いていた。

 そのままお散歩を決め込むと思っていたが急に方向転換をしてこちらに向かってきた。

 やはりネコの行動は計り知れないものがある。

 図書館の窓に寄ってくるとカリカリと爪をたてた。

 どうやら開けて欲しいらしい。

 そうカリカリすんなって。

 ギィっとネズミをふんづけたような音を出しながら窓を横にスライドさせると埃が辺り一面に舞い上がり、ムニカも思わず敦盛を舞おうとさえ思ったほどだ。

 すると音もなくイトウマキは図書館の床に着地した。

 そしてつぶらな瞳でムニカを見上げた。

 ムニカは頭を撫でてやろうとしゃがみこむと驚いた事が起きる。

 「やめろよ。野郎に撫でられても嬉しくもなんともない」

 一瞬何者かがこの部屋にいるのかと思ったムニカは辺りを見回した。

 魔法の学校なので喋る本があるのではないかとも思った。

 「どこ見てんだよ。ここだよ」

 やはりネコのイトウマキがダンディーな男性の声で語りかけてきたのだ!

 「君喋れるの? しかも男の子だったの?」

 ドッカとあぐらをかいて座ったネコはダンディーな声をまた震わせる。

 「ケッ誰もかれもおれっちをメスだと勘違いしやがる、いったい全体どうしてか分かるかい、にいさん?」

 ムニカは頭を掻いて考えていたがハッとバネみたいに浮かび上がった。

 「名前のせいじゃない? イトウマキって女の子の名前だと思うから」

 イトウマキはネコの額ほどの額をパチンと叩いてあちゃーって顔をした。

 「やっぱりなぁ、おれっちもそう思ってたんだよ。人間界ではおれっちは女の子の名前なのかぁ」

 悶絶するイトウマキ。

 ネコの悶絶する姿は珍しい。

 「女の子の名前でもいいじゃん」

 ムニカの言葉で時が止まったように、教室が静まり返った。

 実際そうであった。

 イトウマキが女の子の名前でもでもそれはイトウマキである。

 彼がイトウマキでも丹下佐善たんげさぜんでも彼は彼だ。

 「おめぇいい奴だな。大切な事教えてもらったぜ」

 そして思いだしたようにムニカのポケットに手をのばした。

 「そこにあるのはパンだろ? こいつなにか持ってねーかなぁと思ってここに来たんだ。そのパンおれっちにくれねーか?」

 ムニカは食べきれずに残していたパンをポケットから出して、イトウマキに渡した。

 ブンブントンボの虹色に輝いた羽がついていたがおかまいなしにイトウマキはそれを食べた。

 (ネコでも食べられるパンなので彼が腹を痛める事はない)

 「おめぇいい事教えてくれたしパンもくれたから家来にしてやるよ」

 満腹になって寝転びながらイトウマキは言った。

 するとドアが開き、カレンが虫のすべてという本を返しに入ってきた。

 「あっムニカ君」

 ムニカは彼女が入ってきてしかも虫の本を持っていた事に心の底からじーんとなるわ、ウキーとなりそうであった。

 

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