第4話

「ロゼ」

 リコルドが呼び掛けても、ロゼは開けたサッシ戸に寄りかかり、腕を組んで外を向いたままだった。

 不機嫌なのは空気を読めば分かるし、会ったときは大概こんな調子なのでリコルドも「やれやれ」と肩をすくめるに留め、ロゼの隣に座る。

 見上げた青い空。清々しいほどに晴れていて、日向ぼっこには丁度良い日だ、と深呼吸をする。

 そう思うのは、彼女も同じはず。しばらく光合成をすれば、気分も良くなって口を開くだろうと気長に待った。

 そして、彼女は静かに声を発する。

「あなたのところの主人、苦手」

「知ってる。それに主人じゃなくて、父さんだよ」

 注釈を入れたが、ロゼはリコルドの台詞の後半を無視した。

「あの人の考えは理解できないわ。キレイゴトのオンパレードだもの」

「父さんはそういう人だから」

「現実見てないって言いたいのよ」

 苛立たしげに、盛大なため息を吐く。

「あなたは今まで私たちがどんな仕打ちを受けてきたのか、知らないわけでは無いんでしょう?」

 問い掛けに、リコルドは自分の記憶を遡る。

知らないわけではない。彼自身、何度も危害を加えられ危ない目に遭っていた。それはロゼも同じ。“花の人”の種族は、多かれ少なかれ、そういったことに見舞われる。

「万病に利くと言われ、永遠の命を授かると言われ、薬や食物として食べられる。そんなの根も葉もない噂だって言うのにね。今でも信じてる人間がいるくらい。でも、それならまだましな方。そもそも違う種族だから食べてもなんら問題ない、少しばかり頭の良い数の少ない家畜と言われることもある。この植物はどんな野菜よりも栄養があり、この肉はどんな動物の肉よりも美味と言われることもある。今でも裏では取引されているらしいし……」

 二人の違いをあえて言うのならば、彼はずっと一人だったから、自分の仲間がそうなる場面を見た経験は無いということだろう。

「声も意思もあって、悲鳴を上げても無視されて、花を摘まれ腕を切られ、目の前で調理される。そんな仲間を、私は見てきたのよ。あなたは知らないでしょうけどね」

 ロゼは無感情に、自分たちにされた仕打ちを語る。少しくらい怒りや憤りや悲しみを言葉に乗せてもおかしくはないのに、事実だけを述べていく。半ば、諦めているようにも聞こえた。

 自身を。

 人生を。

 運命を。

 人間を。

 世界を。

「――バカみたい」

 温度の無い声で、彼女はつぶやく。

 そうやって身体も精神も、幾度となく傷付けられている内に次第に熱を失っていったというならば、これほど悲しいことはない。

「だから、私たちは人間とは違う。あんなものに成り下がりはしない」

 はっきりとした意思を持つ声。長い年月に亘る仕打ちが、彼女をそう決意させた。

「最近では保護される方向に今は話が進んでいるけれど、今も数が少なくなるこの現状。本当に保護出来ているのかも怪しいものだわ。増え方も誰も知らないし――人間なんて、信用出来ない」

 人間不信の“花の人”は少なくない。

 周りに壁を作り、身を守る。リコルドの前では饒舌だが、人の前で意図的に口を閉ざすことが多いのも、それを由来としているらしい。

「その内にね、消えるしかない種族なのよ私たちは」

 自らの運命を悟り、諦観している赤いバラ。

「私たちは昔、どんな人生を歩んでいたか知ってる?」

 幼子に言い聞かせるように、少女はリコルドに一言一言に重みを乗せる。

「私たちは本来ならば古来より愛でられる存在で、かつては王より寵愛を受けていた。王と共に生き、王と共に墓に眠る。そして次の王の為に生まれ変わり、王と王を繋ぐものとして生きる永遠の象徴だった」

 言葉を切り、リコルドを向く。

「それが本来のあるべき姿。人間と私たちが対等に生きられる関係。王や国を飾る象徴的存在。人間よりも一段上の地位に立つ。私は今もそれに準じようとしている」

 人を引き立てる役目として、仕事を全うするロゼ。愛でられて、崇められて、人を見下ろせる位置に立つ。

 “主人”のそばで愛でられ、“主人”より寵愛を受け、“主人”の為に人生を費やし、最後には“主人”と共に墓に入る。かつての“花の人”たちは、そうやって権利と自由を保証されていたのだ。

「それこそが、私たちが大地によって培われた生を存分に発揮し全うする唯一の方法なのよ」

 昔と少しばかり形は変わったけれど、ロゼは自分たちの祖先がそうしていたことを同じように、運命を受け入れて生を全うするよう務めている。

 そこに、人としての在り方は必要ない。

 花として、生きればいい。

 感情なんて、必要ない。

 恋愛だなんて、以ての外。

 それを聞いていたリコルドは、まるで絵空事を話しているようだ、とぼんやりと思っていた。現実味がなく、中身のない話を聞いているような錯覚を覚える。

 だから、彼はロゼの話とは全く違ったことを口にする。

「一人一人の人が違うように、一つ一つ花も違う。だから、僕たちの祖先と同じ生き方をしないといけない、ということはないと思うんだけど」

「人間めいた考え方ね。バカらしい」

 ロゼはリコルドの言葉をそう一蹴する。しかしリコルドは、ロゼの花が切なげに揺れたのを見逃さなかった。

 強気な少女。

 一度言ったことを簡単には曲げられない。自分の気持ちに素直になれなれず意固地になっているが、少なからず疑問は抱いているらしい。握りしめる拳が微かに震えていることに、彼女は気付いていない。

 同じ種族なのに、考え方はこうも違う。

 人も花も、自然界にある万物に一つとして同じものはないように、“花の人”も例に漏れず同じ考えを持っているわけではない。

 ゆえに、正誤の判断をすることも不可能だった。

 ロゼの言い分は違う、とリコルドは思う。しかし、彼女に反論することはできなかった。言ったところで、ならばどうやって生きるのが正しいのか、と聞かれれば答えられなかったから。

 その雰囲気を、ロゼは汲み取ったのだろう。

「知ってる。あなたが、それはおかしいと言うことなんて」

 見透かしたように言う。リコルドが一人で生きてきて、人と共に道を歩んできたことを知っているから、反発することなんて百も承知。

「僕たちは、少なくとも僕は」

 意を決して、彼は言う。

「人だよ。意思があって、花のことも人のことも思う。頭がこんなで、食べるものも違うけど、何かを思い考えることは同じ。そこにどんな違いがあるというの?」

 幼子のような拙い質問だが、それが彼の素直な気持ち。

 リコルドにも答えは分からない。しかし、ロゼの言うことが正しくないことだけは主張したかった。

「人だと、言い切るのね」

「僕は人としての生きていたい」

 リコルドの明確な意思。そこに違和感を覚え、じっと窺う。以前であれば、こんなにはっきりとこの優柔不断が言うはずない。何か考えを変えるきっかけがあったのだろうかと思い至ったところで、ふとロゼは勘付いた。

「リコルド、あなた好きな人がいると言うんじゃないでしょうね」

 急に話題を変え、しかも言い当てられて、ゴクリと息を飲んだことをロゼは見逃さなかった。

「呆れた」

 心底、見下したようにリコルドをまくし立てる。

「三倍体である私たちと恋愛? 訳が分からないわ。そこには何一つ生まれない」

 鼻で笑い、彼女は続ける。

「私たちは花。人と恋愛なんて無理。私たちは愛でられる存在。相思相愛なんて有り得ない。本当にバカげてる。虫唾が走る」

 異種族との恋愛、そこには越えるべきハードルも出来ないことも多い。

「人と対等にいられるわけないじゃない。あなたは、もう少し自分の立場をわきまえるべきよ」

 完全な部外者であることも分かっていて尚、彼女は口を出す。

「それにね、これだけははっきりと言えるわ。あなたが気持ちをつたえることで、一人の人間の幸せを奪うことにもなるのよ。お分かり?」

 リコルドも分からないわけではない。何も生み出さないことも分かっている。頭では、分かっているはずだった。

「人間には人間の幸せがある。それは私たちが介入することで壊れることがある。私たちはね、そばに寄り添っているだけの花なのよ。それが正しい在り方。積極的に関わるなんて言語道断」

 もしかしたら、ロゼは人と恋に落ちた“花の人”を見てきたのかもしれない。だから、彼女は自分を心配してくれているのかもしれない。人も“花の人”も、誰も傷付かないように。そんな彼女の不器用な優しさに、リコルドは気付かない。

 だから、苦し紛れに反発する。

「本当に、そうなのかな」

 溢れた言葉は、思っている以上に弱々しく響いた。

 自身の在り方なんて、考えても分からない。何も分からない。それでも、気持ちだけは止められない。

 けれど、真っ向から否定されると、強く出れなくなる。

 リコルドの周りには人しかいない。ロゼと違い、父親代わりの日向もリコルドを人として扱ってきた。だから本来自分の種族がどういう立場、地位でいるべきか知らない。

 知らないから、人でいる。それはおかしなことなのか、どうなのか。

 答えは探れど、闇の中。

「なのに、シュン……」

 首を揺らし、自分の背負った目下の問題を振り払う。

 ロゼ自身も、迷いがあることは自覚している。シュンといればイライラしてしまう本当の理由。それに囚われると、リコルドに毅然とした態度で物が言えなくなる。だから、今の間はそれを棚に上げ、あえて気丈に振る舞った。

「あなたはそれでも、人と同じように生き、人と同じように人を好きになると言うの?」

 冷たく通る声でロゼは尋ねる。

 リコルドは黙ったまま、傾きつつある太陽を見ていた。






  ***






 暖かな布団から出られない。だって冬だし、外は寒いし。

 再び微睡みにハマりかけていたところに、携帯電話が目覚ましとは違う音で鳴った。慌てて取り、確認した画面には“桐山”の文字。オフの日には珍しい人からだ。

 仕事の話だったら嫌だな、と思いつつ寝転んだまま電話に出る。

「なぁ、いろは今どこにいる?」

「家」

「その声は寝起きだな」

「あんたに言われたくないわ」

 電話の向こうにバレないようにあくびをしつつ、時計を見れば時刻は十時。寝坊気味に起きるには丁度良い時間かもしれない。

「で? なに」

「すぐ出てきてくれない?」

「どうしたの?」

「バラの女の子捕まえたんだけど」

 バラの女の子。そのキーワードで思い出すのは一人しかいない。日本にいるもう一人の、“花の人”。

 とはいえ桐山からなぜ彼女のことが? と頭に疑問符が浮かぶ。

「いろは知ってるよね? 前にもう一人と会ったって話してただろ?」

「ロゼよね?」

 桐山が向こうで誰かに話し掛ける。そばにいる上、どうやらロゼだけではないらしい。低めの声が、電話の向こうから漏れ聞こえてくる。

「ロゼだった」

「なんであんたが」

「話は会ってからするから頼む早く来て」

 場所を早口で言うと、ぶつんと一方的に電話を切られた。

 今日は桐山も休みなのか、と遅れて認識する。

 桐山が、なぜロゼと一緒にいる? 会ってみないと分からないと言うことか。

 身支度を手早く済まして家を出た。

 電車に揺られて、二十分ほどで着く都会。待ち合わせした駅前には、桐山、ロゼ、そしてあのときいた中学生の少年の三人が立っていた。

 少年は今日は制服を着ている。紺と青のチェックのズボンは、確か有名私立校では無かっただろうか。

 三人に混ざると、ロゼにツンと目を逸らされた。

 相変わらず、美しい花だと思う。彼女の周りだけ空気が違う。華やいでいて、凛としていて。

 話を聞けば、前のリコルドくんの件があったから、街中を歩いていたロゼに声を掛けてみたらしい。一人だと思っていたら、一緒に保護者だと言い張る中学生がいた。名前はシュンというらしい。

「しかもどうも中学サボって勝手に抜け出してるみたいだし、どうしようかと」

「勝手に、じゃない」

 少年が桐山に突っ掛かる。

「私は帰りたいと何度も言いましたが」

「サボってんだろ」

「電話はした」

「仮病はサボりだって言ってんだろ」

 やいのやいの、と始まった言い合いを苦笑いで見守る。その間に気になったのはロゼの言葉。

「帰りたい?」

「あなたは私をこんなところまで無断で連れ出してどうするおつもり? お父様が黙ってはいないわ」

「シュンくんが、ロゼを連れ回しているの?」

 少年に聞くと、唇を噛んだ。

「……それだけじゃ、ない」

 吐き出した言葉。

「目的はある」

 いたって真面目に、シュンは言う。真剣な眼差しは、生半可な理由で連れ出したわけではないことを示している。

 そして、願いを口にした。

「リコルドさんに会いたくて」

「会ってどうするの?」

「教えてほしいことがある」

「ならばあなただけでくれば良かったでしょう。なぜ私まで」

「ロゼがいなきゃ意味がない」

 ロゼは相変わらず冷たい声で、少年を責め立てる。

「なぜ?」

「それは……」

 ちらりと、ロゼを見やる。

「今は言えない」

 シュンの言葉を聞き受けると、興味を無くしたように頭を背けた。二人の温度差が、天と地ほどに差があって私は思わず苦笑した。

 元々、日向さんに連絡するしか無いだろうとは思っていたのだ。私に出来ることは多くない。

「いろはは日向さんのお店知ってる?」

「知ってるよ。行こうか」

 ここからならば、歩いていける距離だ。

 先導し、はぐれてはいけないと思い、私はロゼの手を取る。するとパチン、と小気味良い音を立てながら振り払われた。

「触らないで」

 ガラスの割れるような、高音。

「私は寵愛を受けるもの。主人以外を許しはしない!」

 弾かれた手を撫でる。分かってはいたが、ロゼは一筋縄ではいかないらしい。どうなることやら、と先を憂いた。



 前もって電話を入れていたので、日向さんは定休日にも関わらず、店のシャッターを半分開けてくれていた。

「日向さーん」

 そこをくぐって店内に入ると、レジ前に日向さんが座っていた。

「いらっしゃい」

 客を迎えるように、声を掛ける。

「すごい物を拾っちゃったね、桐山くん」

 冗談めかして、日向さんは桐山に笑いかける。

「後のことは俺に任せてくれたらいいから」

 日向さんはシュンを見て、呆れたように頭を小突いた。

「シュン、ロゼ。錠前さんに連絡したら夜には迎えに来るって。それまでうちで時間潰してて」

「連絡したんですか!」

「しないわけ無いでしょう」

 奥歯を噛むシュン、ため息を吐くロゼ。温度差はどんなときも変わらない。

「奥にどうぞ」

 手を広げ、二人を奥の住居スペースへと誘う。

「じゃあ私たち帰りますね」

 私たちの出来ることは済んだ。後は日向さんに任せようと、二人で店を出ようとすると。

「待って、いろはちゃん」

 呼び止められて振り向くと、日向さんは手を合わせていた。

「時間ある? ロゼは女の子だし、出来たらいろはちゃんはしばらくいて欲しいんだけど」

「私がいても何も出来ませんよ?」

 ロゼとは会話が成立する気がしない。力にはなれないと思い、正直にそう告げる。

「俺、女心が分かってないってすっごく言われるから」

「それどんな理由なんですか」

 半笑いで言うと、お願い! と尚も頼まれる。

 本当に、私に出来ることなんて無いと思うのだけれど。

「んーちょっとだけでもダメ? 俺じゃ間が持たない」

 眉根を下げ、低姿勢で。

「お願い……!」

 切実に懇願されれば、断る理由など無く。

「良いですよ」

 と、請け負うことにした。元々今日の予定なんて無いも同然だったし。

 日向さんは耳に口を寄せ、囁いた。

「というかロゼ苦手なんだ」

 ああ、そういうこと。

 むしろそっちが本音なのではないか、と思いつつ奥にいるロゼを見遣った。

 緩衝材になれるほどのことは出来ないだろうが、それでもいいのなら。

「リコルドくんもいるんですよね?」

「いるよ。今はお茶の用意させてる」

 振り向くと、桐山が複雑そうな顔にしていた。

「そういうことだから。桐山、私まだいるね」

「おう」

「それでなんだけど……」

 私はバッグから包装された箱を取り出した。

「これ、前にバレンタインの買い物に付いてきてくれたお礼。何もして無かったでしょ?」

 シックな包装紙で包まれたこれの中身は、あのときに桐山が欲しそうに見ていた、お酒の入ったチョコレートだった。職場で渡そうと思っていたのを、今日会うならとバッグに入れていた。帰り道で渡そうと思っていたけれど、私は残るから今渡すしかない。

 時期が過ぎて、丁度安売りしていたのを見かけたから買った、なんていう裏話は伏せておく。

「さんきゅ。ありがたくいただくわ。また明日な」

 桐山は嬉しそうに箱を受け取って、手を振って後ろ姿を見送った。

 奥に行けば二人は椅子に座っていて、リコルドくんは日向さんの言った通り飲み物を用意していた。

 物々しい様子で、のしかかる空気はひどく重い。言葉を発することなく、どうしようと戸惑うようにリコルドくんは困っているようだった。

 日向さんも椅子に座り、リコルドくんも飲み物を出すとその隣に座る。

 湯気の立つお茶を、私は一口飲んだ。

「シュン、なんでこんなことしたの」

「それは……」

 続く言葉は空に消えて、その先の答えは中々出てこない。

「ロゼを外に出したら危ないことなんて、シュンは分かってるでしょう?」

「……」

「言えない?」

 窘めるように、日向さんはじわじわと追い立てていく。日向さんの声を聞くたびに、シュンは身体を縮こませていく。

「――それに」

 日向さんはロゼに対象を変え、視線を交わした。

「ロゼも『帰りたい』と口では言っているのに、なぜ君はのこのこシュンに着いてきてここまでやってきたのかな?」

「……」

 何も言わない、沈黙の間。空気の揺れない一時。

「……黙秘権」

 静かに、赤のバラは権利を主張する。

「リコルド」

 ロゼはリコルドくんに呼び掛けると、席を立ち勝手に二階へ上がろうとする。

「もう行っちゃうの?」

 日向さんはロゼに、そう挑発的に投げ掛ける。

「まだ、俺は一言しか言ってないのに」

 耳をねっとりと這うような声音で、日向さんは追い討ちを掛ける。普段優しげな日向さんが、こんな声を出すこともあるのかと、胸がざらついた。

「逃げるんだ」

「――私はあなたが嫌いよ」

 冷たく言い放つロゼに、あっはっはと日向さんはわざとらしく笑う。

「悪いね、俺も高飛車なお嬢様は嫌いだ」

 その声とその視線に、ロゼはガンッと一度足を踏み鳴らし、苛立たしげに階段を駆け上がった。

 そのあとをリコルドくんが追う。ちら、と日向さんを窺った。

 「よろしく」と日向さんはそれだけを言い、二人は二階へ消えていく。

 肩の力を抜いて、日向さんは両腕を上げて一度伸びをする。めんどくさいものが去った、と言うようで清々したようだった。

 そんな極端な様相に、私とシュンくんは黙ってその姿を見ている。

「ねぇ、シュン」

 日向さんはシュンくんと視線を合わせると、首を傾ける。

「ロゼもいないし、話せるでしょう?」

 先ほどとはうって変わって、温かみのある物言いに、シュンは迷ったそぶりを見せてお茶に口を付ける。リコルドくんの入れた温かいお茶は、彼を落ち着かせる役目を果たせたようで、ゆっくりとシュンくんは口を開いた。

「リコルドさんは、――なんであんなにも笑うんですか?」

 シュンは、助けを乞うように日向さんに疑問を投げかける。

「どうすればロゼも、リコルドさんのように笑ってくれますか……?」

 手を強く握り、すがるようにシュンは言う。

 ひどく必死な声音に、日向さんは瞬いた。

「ロゼは、笑わないねぇ」

「笑わないんです」

 笑う、笑わない。

 頭の無い種族に、彼らの家族は表情の話をする。

「シュンの父さんといても、全然笑わない?」

 シュンは大きく頷く。

「ロゼは、父さんといたら無機質な花になる。必要以上に話さないし、必要以上に動かない。見られて愛でられるだけのキレイな花」

「シュンくんのお父さんは何をしているの?」

 私が軽い気持ちで尋ねると、シュンは言いにくそうに答える。

「社長、です」

「それも大企業のね」

 つまりシュンくんは大企業の御曹司、ということか。今も着ている制服は、偏差値の高い有名私立中学校。いずれはシュンも、今の父親の座に就くのかもしれない。それを見越して父親もその学校に通わせているのだろう。

「ロゼは、父さんのそばで父さんを引き立てる役をしています。パーティがあれば連れて行って、見せて愛でられて。帰ってきたら部屋の中にずっといる。必要なときだけ外に出してもらえる」

 ロゼは普段、軟禁されているような状態でいるらしい。

「ロゼはまだもっと幼いときに、父さんが旅行先から買って連れ帰ってきたんです。それで、家の日当たりのいい部屋を与えられてずっとそこで過ごしています。僕はロゼの部屋に入ることを許されていなかったけれど、ロゼの部屋は庭に面していたから、窓越しに話をすることは出来ました」

 家の壁に背を預け、窓に向かって声を掛けるシュンの姿を想像する。

「ロゼは、基本的には無反応で、遊び相手とは言えないほど何もしない。僕はだから、最近あったことや思ったことを一方的にロゼに話していました。ロゼはたまに短く『ふーん』とか、『そう』とか相槌を打って話を聞いてくれる」

 窓を隔ててする、二人の会話。バラの少女は、どんな風に彼の話を聞いていたのだろう。

 シュンは、一度そこで言葉を切り、嘆息する。

「けど、僕といたらいつもイライラしてて」

 表情がにわかに曇り、奥歯を噛んでいるのが分かった。

「だから、僕はロゼに嫌われてるのは、分かってるけど……」

 それでも、と語気を強くする。

「イライラするのは嫌だけど、父さんといるときのロゼよりはイライラしているロゼの方が好きなんだ」

 目には確かな光が点っている。

「初めはイライラしているだけでもいい。そんな風に感情を持つには、リコルドさんのようになるためには、どうしたらいいですか――?」

 シュンくんの話を受け取って、日向さんは頭を掻いた。

「リコルドといるときも割とイライラしてるよね。……カルシウム足りてないのかな?」

「彼らって水しか飲めないんでしょう?」

「牛乳ぶっこむ訳にもいかないしなぁ」

「真面目に聞いてください!」

 日向さんが茶化すように言うので私も乗れば、シュンくんが吼えた。

「聞いてるって。要は、ロゼを人にしたいってことなんだろう?」

「それは……」

 今更口ごもるシュンくんに、日向さんは畳み掛ける。

 花らしくある花を、人らしくある花にしたい。彼の願いはそういうことだ。

「違うわけでは無いよね?]

「そう……かもしれない、けど」

「リコルドみたいに笑って、人みたいな花になってほしいってことだろう? シュンの気持ちは、分かるさ。俺もそれを願ったクチだから」

 同志だな、とでも言うようにはにかむ日向さんに、少年は前のめりに尋ねる。

「とはいえ確かな方法なんて、俺も知らないんだけどな」

「けど、日向さんはリコルドさんを」

「何も俺があいつの全部を作った訳ではないからね。俺がしたことなんて、あいつが生きやすいように、人となるべく同じことができるように環境を整えてやったくらいだし」

 日向さんは、シュンくんの目を見据える。

「シュンが今日みたいにたまに外に連れ出して、そうやって願い続けていれば、ロゼはどんどんイライラして最後にはどうでも良くなって笑うんじゃないかな」

 冗談めいた声音でそう言うが、その言葉には本心も混ざっているようで、シュンくんも素直に耳を傾けていた。

「ロゼのことを、真っ直ぐ向いて、ちゃんと互いに理解しようとするだけでいい。そしたら自分がすべきことも自ずと分かってくるさ」

 日向さんがシュンにした助言といえば、それだけ。けれどシュンはその言葉を聞いて、胸の内に秘めた疑問を晴らしたようだった。



 それからしばらくすれば、シュンは机に頬を付けてぐっすりと眠ってしまった。

 聞いたところによると、二人は電車を乗り継ぎ、新幹線に二時間乗ってここまで来たらしい。慣れないことして、疲れていたのだろう。

 日向さんはシュンくんが冷えないようにと、ブランケットをかける。穏やかな寝顔は、彼の本来の年齢よりもいくつか若く見えた。

「日向さん、ロゼちゃんにわざとケンカ売りましたよね」

 先程から気になっていたことを問う。

「わざとらしかったでしょ?」

「やっぱりわざとですか」

「ロゼったら短気でほんとちょろい」

 ……?

 何かの聞き間違いかと、耳を疑った。

「いろはちゃんもそう思わない? あの程度で逃げ出しちゃうんだからいっそ可愛いよね」

 にこにこと、他意の無い笑顔でそう言う。もしかして日向さんは本当は割と腹黒いのでは、という考えがよぎる。敵にはしたくないタイプだと本能が知らせた。

「ロゼは俺と話すとぶつかるし、シュン以上にイライラするんだよね。『綺麗事ばかりであなたの言葉は理想の産物。物を言うならば、理屈を伴ってのたまいなさい! それまで口を開いたら、この私が許さない!』って出会った当初に言われたのは印象的だったなぁ。さっきは売り言葉に買い言葉でああ言ったけど、実際のところ嫌いではないし苦手でもないよ」

 日向さんは台所に立ち、お茶のおかわりを淹れてくれる。

「錠前さんとロゼの関係も、それ自体は悪いとは思わない。公私を完全に分けているってことでしょう?それはそれで、一つの正しい在り方さ。その関係が良いのか悪いのかなんて、当事者にしか分からない。ただしシュンがそこに介入するのも自由。実際ロゼもまんざらでは無いみたいだし?」

 ひらひらと手を振って微笑む。

「本当はシュンには俺みたいになってほしくないんだけどねぇ」

 私の前にカップを置き、日向さんは元の椅子に座った。

「今回みたく家から逃げ出すくらいで留まるならいい。取り返しのつかない過ちさえ犯さなければ」

 古い過去の引き出しを開けるように、日向さんは遠い目をした。

「俺、リコルド誘拐してきたんだよね」

 突然の告白に、私は瞬くことしか出来ない。

「誘拐?」

「そう、誘拐。歴とした誘拐。イタリアから日本まで拐ってきたの。あいつの意思なんて丸々無視して」

 自嘲して笑う日向さんはの声の裏には、くすんだ色の感情が見え隠れする。

「“花の人”って日本じゃ全然知られてなかったけど、俺は父親から聞いていてね、子供の頃から知ってたんだ。父は花屋という職業上知っていたんだろう。しょっちゅう会いたい、と口にしていた」

 立ち上がり、本棚から一冊の本を手にして戻ってくる。私の前に置かれた本は、以前見た本だった。“花の人”について書かれている本。

「これは父が大切にしていた本でね。昔は英語なんて読めないから、絵ばかり見てた」

 適当にページを開くと、バラの花が描かれている。

「前に、この本はバラの子について書かれた本って言ってましたよね?」

「そうだよ。この本はロゼの種族について書かれた本」

「そんなにロゼとリコルドくんの二人に違いってあるんですか?」

「あるよ。例えばここら辺」

 日向さんはバラの絵の傍に記述された文を指差す。

「“フローリスト”の頭は何を挿しても血の色が通って赤い花になる。って書いてあるんだけど、リコルドの花は赤くないでしょう? ロゼはレインボーローズみたいに花が色を吸うらしい。この作者はバラの“花の人”が多い地域に住んでいたんだろうね。リコルドの頭はどうやら水に近いものが通っているから、どんな花を挿しても花の色は変わらないよ」

 そういえば、ロゼのバラはいつも真っ赤だった。大学で出会ったときも、リコルドくんはいろいろな色のバラを頭に咲かせていたけれど、ロゼのバラは全てが赤。あれは、ロゼの血の色を吸って全部のバラが赤に染まっていたのだ。

「綺麗だよね。いつしか俺も父親のように、彼らに会いたいと夢見るようになっていた」

 花を見るたび、触れるたび、脳裏ではそれに身体を引っ付けて想像する。この花ならばどんな子だろう、この花ならば明るい子に違いない。

 そうやって幼いときから、想像を膨らましていく。

「リコルドとは、イタリアで会ったんだ」

 十年前、日向さんがまだ二十九歳のとき。長く暇な時間が出来たから、思いきって一ヶ月ほどイタリア旅行に行っていたらしい。

 当ての無い旅路。有名な観光地をあちこち回り、満足してそろそろ自分の家が恋しくなって、日本へのチケットを手配した。トランクを持ち、まさに帰ろうとしている道すがら、目の前を花が走り去っていった。

 目の前を一瞬で走り去ったそれが“花の人”だとすぐに認識したのは、後ろからいかにも悪そうな男三人が彼を追っていたからだった。多々ある噂のせいで、海外では心無い人たちが彼らを捕まえて売ったりすることも多いと言う。追っていた輩もそういう節操のない連中たちだったのだろう。

 それが日向さんとリコルドくんとの最初の邂逅。

 そのとき日向さんは、『奇跡だ』と愚直にもそう思った。

 父の夢見たその人が目の前にいる。

 それだけで頭がいっぱいで、リコルドくんを先頭にした一群を追いかける。

 追いかけた理由はそれだけではない。一瞬しか見ていない彼の顔が、泣いていたような気がしたからだった。その理由の方が大きかったかもしれない。そして自らの手で安心させたいと、強く願ったのだ。

「それでその人たちより先に見付けて助けるために言いくるめて、トランクに押し込んで日本に拉致したんだよ」

 日本に元々彼らはいないから、そんな古くからの迷信を鵜呑みにしている人もほとんどいないはず。日本ならば、安心して過ごせるのではないかと、勝手に思い込んでいた。

 飛行機に乗せるわけには行かないので、チケットを変更して帰りは陸路と船を使っての遠回り。

 トランクから出した瞬間大泣きされて、ずっとずっと責められた。幸か不幸か、イタリア語は三割くらいしか分からなかったから、やんわりと宥めて落ち着かせてた。

 責めて殴って泣いて寝ての繰り返し。

「けど、元の場所に帰そうとは思わなかった。悪意があいつを苦しめるのは分かっていたし、あいつもなぜかそう言わなかった」

 日本に帰ってからもずっと、家の中に隠していた。そもそも外に出ようとしなくて、二階の部屋に閉じこもってた。毎日窓から外を見て、太陽の光に当たっていた。

「しばらくは塞ぎこんでいて、中々口も聞かなかったさ。その内に悪意がないことを分かったのか、たまに話してくれるようになった」

 落ち着いてきた頃に、基本的な言葉を教えた。一階にも下りてくるようになって、店の奥で会話を聞いていたこともあってかすぐに覚えてくれた。

「言葉をある程度覚えたときに聞いた話によると、育ててくれた人の最後を、もしかしたら看取ることが出来なかったかもしれないらしい。俺のせいで。

 俺と会ったその日、名付け親が倒れて、やむを得ず助けを求めに外に出た。その道中で、俺はあいつを拐ったんだ。

 あいつのため、と思ってやったことは、あいつのためじゃなかった。なぜしたかというと多分……俺のため。あいつを、見てやれなかった。気付けたはずなんだ。

 あのとき俺はあいつのことなんてちゃんと見れていなくて、伸ばした手が何を掴もうとしていたかなんて、考えていなかった。

 こっちに来たときに、しばらく経ってから言ったんだよ。育てた人が死にそうだから外に出たって。助けを求めに出たって。そしたら、追いかけられて、当時隠していなかった頭の花を色んな人にむしられそうになって、最終的に俺に捕まった。それで、あいつの最初の親から引き離した。

 それを聞いても、もうどうしようもなくてね、俺が泣くのも筋違いなのは分かってるけど、何度も何度も泣きながら謝った」

 日向さんは自嘲するように笑う。

「俺は助けたつもりがあいつを傷付けて、恨まれて当然な奴なんだよ」

 長く細く、息を吐く。

「だから、最終的にあいつに父であろうと頑張るんだけど、いかんせん父になった経験が無いからよく分からない。それっぽいことをして、それこそ子持ちの橘の真似とかして、やってきたけど――……あいつは、表には出さないけど、心の底ではきっと恨んでる」

 瞳に陰を落として、切なげに言う。諦めて、申し訳なさを孕んだ言葉。

「……そんなの分からないじゃないですか」

 私はそれを、否定する。

「表情も分からないしな。考えていることなんて」

「そんなことない」

「この関係も表面だけのごっこ遊びみたいなもんで」

「嘘だ……」

 そんなの絶対に違う。

「なんで泣くの、いろはちゃんが」

 頬を伝う滴を拭って、私は日向さんを向く。

「なんでか分からないんですか? 私がなぜこう言っているのか分からないんでしょう? 顔があっても、分からないんでしょう?」

「……」

「同じでしょう? リコルドくんも」

「顔があるかなんて、関係ないですよ。ちゃんと理解してあげてって、日向さん自身が今シュンくんにも言ったところじゃないですか」

 私の口は止まらない。

「少なくとも私は、リコルドくんを見てて日向さんを恨んでいるようには見えません。……一年ほどの付き合いですが」

 こんな若い小娘が、何を言っているのかと思われてもいい。それでも私は、否定したい。

「だって――」

 その先に続く言葉は、何の根拠も無かったけど、私は確信して言う。

「リコルドくんは、そんな人じゃないです」

 脳裏には、彼の姿。

「嬉しかったら笑って、悲しいときには泣く、リコルドくんは感情がそのまま分かるようなまっすぐな人です。日向さんをずっとずっと恨んでいながらあんな風に笑うなんて、そんな器用なこと出来る人じゃないです!」

 日向さんは困ったように、首を掻く。

 自分でも、偉そうなことを言っていると思う。呆れられて怒られても仕方がないと思った。

「……自然にあいつのことを“人”って言うんだね」

「あ……」

 だって、私の目には彼は人だから。

「いろはちゃんの方があいつの親向いてるんじゃない?」

「親!?」

「ごめんごめん、冗談だよ」

 目を閉じて、考える。

「それも、一理あるのかな」

 日向さんは、ゆっくりとため息を吐いた。



 日が暮れた頃に迎えが来る。錠前さんは仕事らしく、代理の人が来ていた。黒光りする高級車から下りてきた、かっちりと整ったスーツを着る男は、まるでボディガードのようだった。もしかしたら、実際にそうなのかもしれない。

 シュンくんを起こし迎えが来たことを伝えると、頭を押さえて怯えていた。

「錠前さんは来てないよ」

 そう言えば、盛大に息を吐き、肩の力を抜いた。どうやら怒られるのが恐いらしい。

 外に出ると、冷え込んでいて空にも雲がかかっているようだった。

 リコルドくんとロゼも二階で何か話をしていたらしく、ロゼは始め見たときよりもどことなく大人しくなっていた。

「ロゼに。いろんな感情を教えて上げて」

 帰り際、日向さんはシュンくんに耳打ちする。

「君が笑っていれば、ロゼもその内笑顔を咲かせるはずだから」

 頷いて、少年はロゼをまっすぐ向く。

「ロゼ、行こ?」

 少年の手がロゼの手を握る。ロゼは驚いたようにシュンくんを見た。

「シュン」

 ロゼは呼びかけて、ふい、と頭を背ける。

「……勝手にしなさい」

 あの手のひらはきっと、暖かい。シュンくんは頬を緩ませた。

 二人は車に乗って、去っていった。

 目の前を白いものが、落ちていく。

「雪?」

 手を出すと、触れた雪が掌の上での上でスッと融けていった。

「白い小さな花。雪は六花とも言いますからね」

 六弁の、真っ白な花。

「一つとして同じものの無い、雪の結晶。六枚の花びらを持つ氷の花」

 彼の花に、白い雪が融けずに点々と付いていた。

「その内、春がくるんだろうなー」

 六花が、舞う。

 ひらひらと、地上に降り立つ白。

「リコルドそろそろ眠いんじゃない?」

 思い出したように日向さんはリコルドくんに声を掛ける。

「眠くないから!」

「いろはちゃん、こいつ子どもみたいに早寝早起きなんだよ。日が暮れたら眠くなるの」

「仕方ないじゃんかそういう風に出来てるんだから!」

「やっぱり眠いんだな」

「もう!」

 口調は荒れていたが、よく見れば家に戻る足取りも少し重いような気がする。

「お前は家に戻ってな。俺はいろはちゃん送ってくるから」

「ここは僕が行くって言いたいところなんですけどね……」

 リコルドくんは、腕を組む。そして花をわずかに揺らした。

「お願い、父さん。事故っちゃいけないし」

「ん。いい子」

「子ども扱いしないでってば」

 二人の掛け合いを聞きながら、私は本当に仲がいいんだなと思いながら笑う。

 白い雪が、風に乗って目の前をふらりと過ぎていく。

 雪のように冷たい少女の声は、あのときだけは赤く熱があったような気がした。

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