第十四章 群青キャンディー
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「頑張った」の基準は、人によって様々だと思う。
遥か高い目標を達成できた時に頑張ったと感じる人もいれば、ある程度のラインを超えたら頑張ったと感じる人もいる。
徹夜で勉強すれば頑張ったと感じることもあれば、数時間勉強したら頑張ったと感じることもある。
ただ、これらは全て主観にすぎない。
自分では頑張ったと感じたことでも、人からしてみればこのくらいなんだ? と思われることもある。
そして、そう言う人達の中には、誰より頑張ったなんて言う人もいるのだろう。
人がどのくらい努力を重ねているかなんて、本当は分からないのに。
誰かと比べて自分は頑張ったと言える人間にだけはなるなと、この国の現騎士団長様が昔言っていたような気もするが、自分はそうは思わなかった。
誰より頑張ったと思わないと、自信がつかないからだ。
誰かと比べることでしか、自分の価値が分からなくなってしまった。
それを可哀想だと、そう言う人もいる。
なら、教えてほしい。
どうすれば、自分の価値が分かるのか。
どうすれば、頑張ったと言えるのか。
頑張ったなんて言っているうちは、まだまだ頑張れていないのだと、誰かは言った。
頑張ったと自信を持って言えるくらい頑張れと、誰かは言った。
どちらも正しいと、自分は思う。
だが、自分がどちら寄りの人間かと問われれば、後者だと答えるだろう。
理由は、さっきのと似ている。
自信が欲しいからだ。
そう、全ては結果なのだ。
頑張ったなんていくら言っても、結果が良くなければ意味がない。
では、どうすれば結果はでるのか。
勿論それに見合う頑張りは必要だ。ただ、もう1つ挙げるとするならば、それは自信だと思っている。
弱気より強気な姿勢でいった方が成功しやすいと、特に理由はないけれどそう思っている。
特に、騎士という仕事においては。
伝った汗を手で拭い、その場にドカッと座る。
持っていた木剣を雑草の上に置き、群青色の空を見上げた。
春なんて、もうとっくに終わりを迎えてしまった今日この頃。
「あっちー……」
6月は夏に入るのだろうか。
いや、きっと入る。入らなければ、この暑さはおかしい。
こんなに暑ければ、訓練にも身が入らないというもの。
だが、とセルフは立ち上がる。
少しの休憩を終えた後、もう一度木剣を振った。
誰よりも頑張ったと、胸を張って言うために。
今年こそ、本物の騎士になるために。
サリファナ王国騎士団入団試験は、もう始まっている。
「今年もあっついね〜」
手で顔をパタパタと仰ぎながら、メリアはうんざりしたように言った。
暑いからと授業終わりに外へ出てみたが、中とたいして変わらない。
「なんか、年々暑くなってるような気が……」
「メリア、水飲む? 」
「ありがとう〜」
ヤナギから受け取った水をゴキュゴキュ飲んで、メリアはぷはぁっと息を吐いた。
「あ、ごめん! ヤナギちゃんのお水なのに……」
「大丈夫よ。私があげると言ったのだから」
水筒を受け取り、ヤナギも水を1口含む。
確かに、この暑さは異常だ。
これで6月ということは、7月、8月はもっと酷いということだろうか。
前世には地球温暖化、なんて言葉があったけれど、この世界ではどうなのだろう。
「アイス、食べたいな〜」
「アイス……」
ついでに、この世界のアイスも気になる。
「私はぶどう味が1番好きなんだ〜。ヤナギちゃんは? 」
「ぶどう……。ねぇ、メリアの知っているアイスについて、教えてもらっても良いかしら? 」
「私の知ってるアイス? 普通のアイスキャンディーだよ? フルーツの」
フルーツキャンディーなら、前世にもあった。
あんまり変わらないことに若干の残念さを感じつつも、フルーツキャンディーをそもそも食べたことがなかったためすぐさま興味が湧いた。
「そうね……。私は、私もぶどうかしら」
「おお! 気が合うね〜」
フルーツだと、やっぱりぶどうが1番だと思う。
みずみずしいあの味は、ヤナギの中でNO.1だ。
「食堂にアイスって売ってるのかなー? 」
「どうかしら……。まだ6月ということもあるし」
「あー。そうだった、まだ6月だったー……」
「でも、探しに行ってみるのは良いかもしれないわね。もしあれば、ブレイブ様とセルフ様にも差し入れに持って行ってあげましょうか」
2人とも、この暑いなか訓練に勤しんでいる身だ。
疲れが溜まっていることだろう。
「そうだね。こんなに暑いのに頑張ってるんだもん。きっとアイスでも欲しいはずだよ」
6月ということは、騎士の入団試験もある。
今年こそ合格すると意気込んでいたセルフは、今頃必死に頑張っていることだろう。
上を見上げると、群青色がどこまでも広がっていた。
食堂へ行ってみると、まだアイスは売っていなかった。
その事に落ち込むメリアとヤナギだったが、調理員さんはちょうど良かったと顔を明るくさせた。
「まだ6月だからいいかと思ってたんだけど、こう暑くちゃあねぇ。今作ってるところだったんですよ。もしよろしければ、試食していってもらえませんか? 」
「試食!? 勿論です! 」
沈みかけていた気持ちを浮き上がらせてくれた調理員さんは、早速調理場へとヤナギ達を案内した。
「はいこれ」
出てきたのは、苺とキウイのアイスキャンディー。
メリアは苺を、ヤナギはキウイをそれぞれ手に取り食べてみた。
ガリッとした氷の食感とさっぱりした風味がたまらなく良い。
「どうかしら? 」
「とっっっても美味しいです! 」
「私も、美味しいと思います」
「そう? 良かったわ。早速明日から売れるわね」
こう美味しいと頻繁に食堂に通うことになりそうだ。
「まだまだあるから。好きなだけ食べてってくださいね」
「あ、ならいくつか貰っても宜しいですか? 」
セルフとブレイブの分を貰おうと聞いてみると、調理員さんは快く承諾してくれた。
「どうぞ。あそこにいろんな味が入ってるから」
ステンレスのバケツの中には、沢山と氷と何本ものアイスキャンディーが入っていた。
さっき食べた苺とキウイだけでなく、ぶどうや桃、マスカットまである。
「ブレイブ様はマスカット、セルフ様は……キウイかな? 」
「どうして? 」
「なんか、そんな感じがするから」
何となく分かるような気がした。
「じゃあ、4本貰っていきますねー? 」
「4本? 」
まさか、と思いメリアを見ると、無邪気に笑った視線とぶつかった。
「私とヤナギちゃんとブレイブ様とセルフ様、これで4本! 」
さっき食べたのに、という言葉は飲み込んだ。
何だかんだ思っても、ヤナギもまだ食べたかったのだ。
メリアと出会ってから、胃袋が少し大きくなった気がしてならない。
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