第八話 災厄の魔物と一つの出会い
1
「んー、おいしかねぇ」
シャーミィは嬉しそうに頬を緩ませて、マサルの作った料理を食べている。
相変わらず崖の下での日々は続いている。シャーミィの周りには沢山の魔物たちの姿がある。
その魔物達もマサルの作る料理を気に入っているのか、それを口にしながら様々な鳴き声をあげている。
その様子だけを見るとその魔物達が無害な存在のように見えてしまう。
――だけど、明確に彼らは危険な生き物である。
マサルは彼らが前世のペットか何かのような感覚になってしまっていた。
ただそれはあくまでシャーミィがこの場にいるからでしかない。マサルは勘違いをしないようにしなければならない……とシャーミィと魔物達の穏やかな様子を見ながらつくづく思っている。
この魔物達がマサルを襲わないのは、マサルがシャーミィの連れであるからでしかない。
(……そういえば地球だと野生動物にエサをやると大変なことになったりしていたけれど、この魔物達は大丈夫なのだろうか。何も考えずに作ったものを与えてしまったけれど)
ふと、マサルはそんなことを考えた。
地球で生きていた頃、野生動物にエサをやらない方がいいと言われていた。それは自分でエサを探すことが出来なくなってしまうから。マサルは何も気にせずにご飯を与えたが、少し心配になった。
「マサル、どがんしたと? なんか悩みあっとやったら私にいわんね」
「……地球だと野生動物にエサやらない方が良かっただろ。俺、こいつらに普通にご飯食べさせていたから」
「そがんこと気にせんでよかよ。その程度で死んでしまうんやったらこの魔物達が弱かっただけやもん。弱ければ捕食されっとは心理やけんね」
シャーミィはマサルの心配を聞くと、ばっさりとそう言った。
死んでしまうのは、弱かったから。弱ければ捕食されるのは当然だとシャーミィは言い切る。
マサルは少なからず料理を食べてもらったりした結果、魔物達に対しても少しの情を抱いてしまったのだろう。しかしシャーミィはそういうものを魔物達には抱いていない。
ただ周りにいる魔物達がシャーミィの強さに怖れ、付き従っているだけという認識しかないのだろう。
「マサル、全員飼えて面倒みれっとやったら全部抱えて気にかけてもよかと思うけど、この魔物達とは今回限りやん。私たちがこの場所から抜け出したらもう二度と会わん魔物達やけん、あんまり気にかけん方が楽やよ?」
「……まぁ、そうだな。でもなんか美味しそうに俺の料理食べているの見ると色々考えてしまうんだよな」
「マサルはこの世界に来たばかりやけんね、そういう風に思うのも仕方なかよ。周りを気に掛けるのは悪いことではなかけど、あんまりそうやと足元すくわれっけんね。まぁ、私が全部助けてあげっけど」
シャーミィはこの世界に数百年もいるので、そういう風にすっかり割り切っている。
こういうシャーミィの様子を見るとマサルはシャーミィが長生きしていることを実感する。
「そうだな。シャーミィが助けてくれるのは助かるけれど、全部シャーミィ任せなのは情けないから、俺もちゃんとしないと」
「そうやね。私がおらん時にマサルが大変な目に遭ったらこまっけん、色々ちゃんとしとった方がよかよ。ひとまず、この魔物達に関してはなんも気にせんでよかけんね。この魔物達が生きていけなくなったらそれはそれやし、もしどこかの未来でこの森にまた来ることになってそれで再会出来たらそれはそれでよかねーってなるだけやし」
「そうだな。……あれだよな。この世界は地球ほど交通機関が発達していないから、一度訪れた場所にもう二度と行くことが出来ないっていうのもよくある話なんだよな」
「そうやね。それに地球ほど人の寿命は長くなかし、人の一生は本当に短かかもんね」
シャーミィからもしこの場所にまた訪れることがあれば――という話を聞いてマサルとシャーミィの話題は地球との交通機関の発達の違いに移った。
(シャーミィは寿命が長いからまた此処に来られるかもしれないけれど、俺は来れない確率の方が高いんだろうな。色んなところに行って、食材を手にして――、そうやって生きていたら同じ場所にまた来ることってそこまでないんだろうな)
マサルは神から能力を授かっているとはいえ、ただの人間である。
その寿命は魔物であるシャーミィよりもずっと短い。
「でもマサルがどっかに急ぎでいきたかってなるなら、私が全力で運ぶけんね。人の姿で運んでもよかし、魔物の姿の私にマサルを乗せてもよかし」
「……本当に至急の時だけな。そうじゃないと凄い目立って大変なことになるだろ」
「まぁ、そうやね」
二人はそんな会話を交わしながらのんびりと過ごしていた。
こんな人里離れた森の中には似つかわしくない、穏やかな時間。
だけど、その時間は一匹の魔物が傷だらけで帰ってきたことで一変した。
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