7
「マサルは体力なかよね」
「……はぁはぁ。仕方ないだろ」
シャーミィがマサルに対する訓練を続けている。
真っ先に息切れをしているのは、もちろんマサルである。
シャーミィの体力は無限とも言えるほどであると言えるだろう。幾ら動き回っても息切れ一つしない。
「……シャーミィは、疲れることとかあるのか?」
「んー、体力がなくなるってのはあんまりなかね。そもそも土の中に居た頃から、ばててしまえば殺される世界やったし。うん、体力がなかと大変よ? マサルはもっと体力つけよう」
「これでも地球に居た頃よりは動けるようになっているんだけどなぁ」
「そりゃ、そうやろ。地球とこの世界はだいぶ違うけんね」
マサルの体力は地球に居た頃よりはずっと増えていると言えるだろう。街と街を移動するのだって、自分の足で歩いていることが多いのだ。地球ならばまずバスや電車、車といった乗り物がありこんなに歩くことはまずない。
その頃に比べればマサルも少しずつだが、この異世界にきちんと適用してきていると言えるだろう。
ちなみにシャーミィがマサルに訓練をつけている様子を、シャーミィを慕う魔物達は周りで見ていたりする。マサルに関する関心はそこまでないようなので、その魔物たちはシャーミィの動きをじっと見ているのだ。
やはり魔物は弱肉強食の世界なので、シャーミィがそうやって戦うさまにはいろいろと思うことがあるのだろう。
「マサル、そんなんじゃ誰も倒せんよ」
「うん」
「マサル、隙がありすぎよ」
「うん」
「マサル、足元」
「……うん。シャーミィの視野って広いよなぁ」
マサルはシャーミィからの助言を聞いて、そんなことを言う。
「まぁ、私は魔物やけんね。人以上に、周りを認識できとるよ。マサルは魔力とかでそれを感じられるようになれるかとかの話になると思う。強い人間は、魔力があれば魔物と同じように視野を広げられるはずやけん」
「あー、そうか。地球だと前しか見えないけれど、魔力を使えば違う方面も見えるからってことか」
「そう」
マサルは戦闘面において魔力を使う技術が足りない。
元々戦闘なんて欠片もない地球から来たからというのもあるが、異世界に来てすぐにシャーミィに出会ったというのもあってあんまり危険な目に遭っていないからというのもあるだろう。危機感というものがなかなか足りない。
「あんね、魔力で殴るとかもできっとよ?」
「魔力で殴る?」
「うん、ほら」
シャーミィはそう言いながら自分の中の魔力を具現化させる。それには魔力を操る技術が必要だが、魔物であるシャーミィはそれが出来た。
大きな魔力は、なかなかの圧がある。
マサルはそれを見ただけで体をびくりと震わせた。
「え、これ、物理も出来るの?」
「出来る」
「……やばいなぁ。シャーミィ、これだけで俺なんて一発で死にそうなんだけど」
「うん。手加減せんかったら死ぬと思う」
「見ている魔物たちもおびえているっぽいけど」
「あの魔物たちも、本気で殴れば死ぬけんね」
大きな魔力の塊。
それはひ弱な人間や魔物ぐらい簡単に絶命させることが出来るほどの威力を持っている。というか、シャーミィが突然そのようなことをしているからか、森の魔物たちは驚きからか遠吠えをあげたり、鳥型の魔物は飛び立ったりしているようだ。
(シャーミィは、やっぱり魔物としても強いんだよな。俺は魔物自体、まだ全然知らないけれどそれでも災厄の魔物と呼ばれるほどの魔物は、それだけ魔物の世界の中でも強いって実感する。地球で育った俺からしてみれば最強の魔物ってドラゴンとかかなって思うけれど……《デスタイラント》ってドラゴンと比べるとどんな感じなのだろうか?)
マサルはまだドラゴンを直接見たことはない。異世界に折角来たので一度ぐらい見てみたい気もしているが、まず一人で会えば死ぬ未来しか見えない。
でもシャーミィがいるならばドラゴンを遠目に見るぐらいは出来るのではないかなどとは思ってしまった。
ただ《災厄の魔物》と呼ばれていようとも、《デスタイラント》がドラゴンに勝てるのかは断言できないので、まず近づかない方がいいだろうとは思っているが。
「マサル、聞いとる?」
「あ、ごめん、ぼーっとしてた」
「危機感なかね? 私が傍におっけん、マサルはそれでもよかけど……。もうちょっと危機感持っとった方がよかよ?」
「うん、そうだよなぁ」
シャーミィは頷くマサルに少し呆れながらも出現させていた魔力の塊を消し去る。
その魔力がなくなれば、見ていた魔物達はほっとしたのか座り込んでいた。
シャーミィはマサルに見せるためだけにそれを行ったわけだが、その魔力に寄せ付けられる魔物たちもいた。好戦的な魔物に関してはシャーミィがその命をすぐに刈り取って、マサルとシャーミィのおなかの中に彼らはおさまっていった。
逆にシャーミィに付き従うようになった魔物達も増えた。
マサルはここは魔物の楽園かな? などと思ってしまうほどである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます