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「んー、これは人間には毒かもしれん」

「……味見もしたらやばいやつ?」

「うん。多分、死ぬ。駄目」

「そっか……」


 マサルは刺身などを食べられるように、生ものを食べるための《消毒》のスキルは持っている。しかし完全な毒物を食べることは難しい。



 シャーミィの言葉を聞きながら、マサルは残念そうな顔をする。

 マサルは神からチート能力をもらったわけだが、毒を食べられるようにはしていなかった。菌を排除する事は出来るが、毒は排除が出来ない。食中毒にならないように出来るが、毒物は駄目なのだ。



 シャーミィはそういうものさえも効かないので、バクバク食べつくしている。


 ちなみにそうやってバクバク色んなものを無造作に試食しているシャーミィだが、一切おなかいっぱいになった様子は見受けられない。



「《デスタイラント》ってそんなに沢山食べてもおなかいっぱいにならないのが不思議だよな」

「そういう生物なんよ。きっと。やけん、地上に出てきた《デスタイラント》は討伐されるまで、あらゆるものを食い尽くすんやろね。食べても食べても空腹がおさまらんけん。それに食べる以外のことに《デスタイラント》はあんまり関心なかはずよ。私も土ん中におった時はひたすら土とか食べてたし」

「……土の中での食事って味気なさそうだよな」

「そうよ! やけん、私は地上に出てきたったい。土とか、石とかばっかやし。あとは土竜とか土の中の生物は食べたことあるけど、料理も一切されてないとよ。そもそも火さえも起こせないし」


 シャーミィは土の中で悶々と過ごしていた日々を思い起こしたのかそんなことを言った。


 人間としての自我があるからこそシャーミィはただ土の中で何かを食べ続けるという《デスタイラント》としての生き方を受け入れられなかった。

 そもそもあのまま土の中にずっといてどうなったかといえば、本当に永遠にも思えるほどの日々を土の中で生活して寿命を終えるか、もっと強者の《デスタイラント》に捕食されて死ぬかとかそういう未来しかない。


 そんな日々が嫌だったからこそシャーミィはここにいる。

 まぁ、そんなシャーミィなので、相変わらずこうして人里離れた場所で遭難状態でもまったくといっていいほど危機を感じていないわけであるが。



「俺がシャーミィと同じ状況になったらすぐに絶望しそうだなぁ。異世界で土の中で、地上に出ても人がいるかわからないわけだろ?」

「その前にマサルは私と同じ立場やったら死んどると思うよ。幼体はすごく死にやすかけん」

「そうなのか?」

「そう。私も食われかかったこと沢山あったし。誰とも会話一つできんで、そうやって過ごすのマサルはきっとたえられんやろ?」

「……無理だな。そう考えるとシャーミィはすごいな」

「そうやろ?」



 そんな会話をしながらもシャーミィは相変わらず拾い食いをバクバクしている。ちなみにそんなシャーミィの周りには相変わらず沢山の魔物たちがいる。さながらシャーミィはこの森の魔物たちのボスになったようなそのような感じなのだろう。



 シャーミィという圧倒的な強者に魔物たちが頭を垂れるのはそれだけその世界が弱肉強食の世界だからである。自然の世界というのは食うか食われるかの世界……。

 マサルは異世界にやってきて、強いということがそれだけ自由であることを理解している。強くなれば人の世界でも自由になんてできないと。そういう日本とは違う違いにマサルが困惑することもある。


 そしてこうして人が誰一人いない場所にいればいるほどそのことをより一層マサルは実感してならなかった。



 沢山の魔物たちのいるこの場所では、マサルは圧倒的な弱者である。

 相変わらずシャーミィから戦い方は少しずつ習っているが、まだまだその成果は出ていない。




「マサル、どうしたん? 黙り込んで」

「いや。俺、弱いなぁって改めて実感したというか」

「当たり前。日本からきてまもないマサルが強いわけなかやろ。チート能力もっとっても、結局使い方がわかっとらんと意味なかしね。それに結局そういう力を突然与えられた場合だと油断ばかりやん。もっと地道にコツコツやらんと」

「それもそうだけど……ちょっともっと強くなれたらなとは思う」

「それも地道にやね。私がおっけん、マサルが殺されることはなかとよ。やけん、マサルは時間をかけてゆっくりでもいいから、戦えるようになればよか」



 シャーミィはそんなことを言いながらマサルのことを見る。


 見た目だけならシャーミィのほうが圧倒的に年下に見えるが、地齋はシャーミィのほうが年上なのもあってその言い草はなんだかお姉さんみたいである。



 改めて強くなりたいと感じたマサルはまたシャーミィに訓練をつけてもらうことにした。





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