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「もふもふ天国やね」



 シャーミィは沢山の魔物に囲まれている。

 彼らは圧倒的な強者であるシャーミィのことを恐れ、そして敬っていると言えるだろう。


 魔物であるからこそ、魔力や直感のようなものでシャーミィに逆らうことが出来ないというのが分かっているのだろう。

 逆にマサルに対しては威嚇をしたりするものいたが、シャーミィとマサルが対等な雰囲気で喋っているのを見て、察した魔物たちはマサルに対しても威嚇などをしないようにはなった。



 魔物に囲まれた中でにこにこしているシャーミィ。魔物たちの中で、マサル一人だけ人間なので落ち着かない様子である。




 シャーミィが魔物であることをより一層実感する空間である。



「シャーミィは魔物たちに囲まれて幸せそうだな」

「だってもふもふやもん。私ずっと、土ん中おったし、土から這い出てからは人とばかり関わっとったけど、魔物の中にはこうやって私に敵対せん子がおっとねーって。怯える子も多いけれど、私と敵対せんようにしようとしてくれとる子は素直にかわいかもん」




 シャーミィはずっと土の中で生きていた。土の中では殺し合いばかりであった。シャーミイも気を抜けば食べられてしまうようなそういう場所だった。そういう場所で生き延びたシャーミィにとってこの未開の森はまだ可愛い魔物の多い生きやすい場所であった。

 

 三百年以上生きているシャーミィにとって、大体の生物は自分よりも弱い存在である。敵対するならばともかく自分を慕ってくれるのならば全然問題ないのであった。

 シャーミィの周りにいる魔物たちは、一般的に言って可愛いと言えない存在も含まれている。虫型だったり、少しだけおぞましい見た目をしていたり。だけれどもシャーミィ自身が巨大ミミズの魔物なので、そういう魔物さえも可愛いと思えてしまう。




「シャーミィは……もしかして此処にずっといても問題ないと思っているのか?」

「え? いや、それはおもっとらんよ。まぁ、私は寿命が長かし正直ずっとここにいてもどうにでもなっけど、でも私はおいしかもんをもっと食べたかもん」

「そうか。良かった……」

「なん? 私が此処に残る事選択するっておもっとったと?」



 シャーミィは魔物を撫でながらそんなことを問いかける。少し不服そうなシャーミィの様子に周りの魔物たちが気づいて、マサルのことを鋭く見た。

 シャーミィを不服そうな顔にさせるんじゃない! とでも魔物たちは思ってそうである。


 一瞬、マサルはそれに怯む。



「えっと……シャーミィならどこででも生きていけるなって俺は改めて思ったんだよ。そもそも此処に落ちてきた時だって、俺はシャーミィが居なきゃとっくに死んでいるし。だからシャーミィが此処に残ることを選んだら、どうしようかなって思っただけ」

「ははっ、私はマサルと一緒に行くっていったやろ? 私のために美味しい料理を作ってくれるっていったやん。確かに可愛い魔物たちに囲まれるのは嬉しかけど、マサルと一緒に居る方が楽しかもん」



 マサルの言葉を、シャーミィは笑みを浮かべて否定する。


 シャーミィは、そんなことを考えるマサルは馬鹿だなぁなんて考える。何故ならマサルがシャーミィが《デスタイラント》でも、マモンでも、一緒に居たいと、美味しい料理を作ってくれると口にしてくれた。



 その言葉がどれだけ嬉しかったか、シャーミィは覚えている。


 だからシャーミィは少なくともマサルの、シャーミィよりも短い命が失われるまで、ずっとそばに居ようと思っている。シャーミィの寿命は、マサルよりもずっと長いから。



(まぁ、マサルの命が寿命以外で失われることがないように、私が守らんとね。それまでずっと私はマサルから美味しい料理を作ってもらうと! マサルが嫌って言っても離れる気なかしね)



 シャーミィはそんなことを考えながら、にこにこと笑っていた。




 そしてシャーミィとマサルは、そんな会話を交わしながらも森の中をのんびりと移動する。

 移動すればするほど、シャーミィのことを慕う魔物が増えていく。

 とはいえ、シャーミィが常にまとわりつかれているのを嫌がっているのを理解しているのか、シャーミィがのんびりしている間にはすぐに魔物が集まってくる。



 こういう森の中だからだろうか、一度出会った魔物が次にはいないことだってある。それはきっと弱肉強食の世界だからこそ、その間に死んでしまったということだろう。

 マサルは「あの魔物いないな」と呑気に口にしていた。まさか死んでしまっているとは思っていないのだろう。




(マサルにはこの世界で生きていくためにそれなりに現実は見てほしいけれど、こういう甘さはマサルの良さよね)


 シャーミィはマサルに敢えて、魔物が恐らく死んだ可能性は口にしなかった。


 こういう森の中でも、自分がマサルを守ればどうにでもなるという余裕の表れであると言えるだろう。



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