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戦えるようになった方が良いと、そんな風に言われたもののどんなふうにしたらいいのかマサルには分からない。
体力をつけることと、剣を振るうことや体の動かし方ぐらいはシャーミィでも教えられるが、《時空魔法》の使い方まではシャーミィには教えられない。
「……んー、私も自分が使える魔法に関しては教えられっけど、そうじゃなかやつは上手く教えられんよ。やけん、自分で試行錯誤するか、《時空魔法》の使い手に習った方がよかと思う」
「……あー、確かにな。《時空魔法》って使い手がそもそもあまりいないって話だから、そういう相手、見つかるかな?」
「世界中探しに行けばどこかにおるやろう」
マサルは神から、《時空魔法》の力を授かったので何の努力もせずに授かったわけだが――普通にこの世界で生きている人たちの中で《時空魔法》を使える存在というのは珍しい。
そう言う珍しい魔法を使えることは、秘密にしておいた方が良い。それは利用される恐れがあるからである。
《時空魔法》の使い手は、隠れていることが多く、見つけようと思っても見つけられない事の方が多いのだ。
《時空魔法》以外の戦い方や身体の動かし方は、シャーミィでも教えられるので、それらに関しては教えることにした。
「マサル、もっと視野を広げんと!」
「いや、そうはいっても……」
「そうはいってもじゃなか! 周りを見るのは大事やけんね」
「……シャーミィはどうやって周りを見ているのか?」
「大体気配で分かる。これは私が魔物やけんかもね。でも人の身でも魔法使えるんやったら上手くやればどうにでもなるやろう」
魔物として長く生きてきたシャーミィはやっぱり普通の感覚というものが分からない様子である。
結局、種族の違いというものは大きな隔たりである。
こういうやりとりをしているとやっぱり人の姿をしたシャーミィが普通の少女に見えたとしても、種族の違いを実感してならなかった。
(シャーミィはやっぱり魔物なんだ。魔物だからこそ、シャーミィは人間と違う考え方を持っている。シャーミィが人の世の中で生きていきたいと思っているのならば……俺はもっと人の感覚を、シャーミィに知ってもらう必要があるんだろうな)
魔物であるシャーミィから少しずつ戦う術を学ぶ。そうしながらも森の中を探索し、マサルの作った美味しい料理を二人で食べる。
結局、崖の下の森の中でさえも、二人の生活は普段とあまり変わらない。そうやって今までと変わらない日々を過ごせるからこそ、マサルもこんな場所にいても精神的に落ち着いてくる。
――この先のことに対する不安なども、なくなっていったのだ。
「マサル、次はあっちの方行ってみよう」
「ああ」
シャーミィとマサルは、街を探しながら探索を続けている。
今の所、人のいる街への手掛かりは見つからない。本当にこの場所というのは、人の手が入っていない場所なのだということが、シャーミィとマサルにはよくわかった。
この場所は正しく未開の地で、人にとっては足を踏み入れれば二度と生きて出られない場所――のようなところなのだろう。
そもそもこんな場所に崖から落ちて、生きている方がおかしいのだが。
「街、中々見つからんね」
「この森も広そうだしな……」
幾ら歩いても森を抜けない。
それに対して、絶望感を二人は感じていない。いつか必ずこの場所から出られると、そういう希望を抱いているから。
そうやって歩いている中で、魔物たちの姿がいくつか見られる。
そう言う魔物の中には、シャーミィへの敵対の意志を全く示さない、無害なものもいる。恐ろしい魔物であるシャーミィにわざわざ手を出そうと思っていないそういう魔物である。
その中の一匹の兎の魔物が、特にシャーミィに懐いていた。
人間からしてみれば恐ろしい魔物だが、シャーミィは自分に懐いてきた魔物をペットのように思った。
その牙は鋭く、人の皮膚ぐらい噛み割いてしまうぐらいの存在である。
マサルは恐る恐るといった雰囲気だが、それでもシャーミィに懐いているその大型犬ほどの大きさの兎を触って、癒されていた。
「この兎の魔物、頭もよかし、かわいかねぇ。ふわふわやわ。私の魔物としての姿なんて、ミミズやけん、ふわふわさが欠片もなかしなー」
シャーミィはそんなことを言いながら、真っ白なふわふわの毛で撫でまわす。
されるがままのその兎の魔物は、気持ちよさそうに鳴き声をあげていた。
(私に対して絶対服従な感じで、かわいかね! こういう出会いがあると、こうして森に落ちたのもよかことやねって思うわ)
そんなことを考えながらシャーミィは嬉しそうににこにこと笑っている。
その様子だけ見るならば、もふもふの魔物と戯れるかわいらしい少女である。
いかにも癒されそうな光景だが、実際は魔物二匹である。シャーミィの正体を知っているマサルは少し何とも言えない気持ちを感じながらも、癒される光景だなと思うことにした。
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