9
シャーミィは、楽しそうに鼻歌を歌いながら軽い足取りで歩いている。対してマサルは息切れしながら歩いている。
「マサル、疲れとるねー。大丈夫? もう少ししたら山もこえられっけんね」
「……ああ。俺ももう少し体力をつけられればいいが」
「初めて会った時よりは体力ついとーよ! やけん、もっと歩き回れば体力つくけんね!」
マサルの言葉にシャーミィはそう声をかける。
山の中をどんどん二人は歩いていく。そんな時である。シャーミィは、人の気配を感じた。
「マサル、誰かくーよ」
「え?」
「ただの商人とかならよかけど、違うかもしれん。私がどうにかすっけんマサルは――ってもうきたし!」
シャーミィは、マサルに隠れているように言おうとして慌てたようにそう言う。
そしてそんなシャーミィの前に現れたのは、盗賊たちである。いかつい見た目の男たちが、その場に現れる。
ちなみに今歩いている山道は、丁度崖の上である。崖の上の細い道は、正直戦闘しにくい場所である。
そんな場所で身軽な盗賊たちが現れて、シャーミィは面倒だなと思っていた。
目の前の盗賊達をどうにかすることは簡単だが、マサルの目の前で人を殺すのはなるべくしない方がいいのでは? などと考えながら近場にいた盗賊を気絶させる。
その素早い動きに、盗賊たちが驚いたように息をのむ。
だけど、熟練の盗賊たちなのだろう。彼らはすぐさま動いた。その様子を見てシャーミィは、面倒だなと思いながらすぐに動く。ちなみにマサルは盗賊が現れた段階で、震えている。ただ頑張ってその辺にあった木の棒を手にして応戦しようとしている。
もちろんだが、戦力にはならない。
そんなマサルが危険な目に遭わないようにシャーミィは、気を配りながら盗賊たちを気絶させていく。
(うーん、この世界の倫理観的に盗賊を殺しても問題はない。そもそも殺されるか殺すかの世界だとそういうものなんだけれど、マサルはそういうのなれとらんけんなー。んー、どんな風に対処しようかな)
――シャーミィがそんな風に呑気に考えてしまっているのは、やはりシャーミィ自身が強大な力を持つ魔物だからである。
結局盗賊たちがどれだけ連なろうとも、シャーミィにとっては雑魚という認識しかない。シャーミィが少し動けば、すぐに死んでしまうような存在たちなのだから。
ただその余裕は、足元を掬われる原因にもなりえた。
殺さないように気絶させていくというのは、ただその命を奪う事よりも難しいことである。
だからこそ、シャーミィは少し油断をした。
その隙に、マサルの傍に盗賊が迫っていた。
「おい、嬢ちゃん!! 大人しくしろ!! この男がどうなってもいいのか!!」
そんな声をあげられた時には、既にマサルの首には刃物があてられていた。
大の男をどんどん気絶させていくシャーミィに、盗賊たちは怖れをなしていた。愛らしい見た目をしていても、シャーミィが化け物のように見えていることだろう。
実際にその顔色は青い。
目の前の理解出来ない存在を前に、彼らだって正常な判断を出来ない。
シャーミィは、マサルとマサルに刃物を向けている盗賊を見る。
マサルは木の棒を手にしていたのだが、それでは応戦することもできなかった。なので簡単に捕まってしまったのだ。
マサルも、盗賊も青ざめている。
「――マサルになんかすって? お前、しにたかと?」
シャーミィがその強大な魔力を持ってして、にらみつけ、盗賊を威嚇する。そうすれば、その恐ろしい魔力と視線に固まっている。
シャーミィはそういう魔力の使い方や威圧の方法もククとロドンから習っていた。
(というか、最初からこうすればよかったわ! まだまだ私も人と戦い慣れてなかけんね。もうちょっと人との戦い方を学ばんといけんわ)
シャーミィは、単純な戦闘能力はある。だけれども、人との戦い方はそこまで慣れてはいない。
そうやってシャーミィが考えながら、マサルと盗賊へと近づいていく。
がたがたと震えている盗賊。その顔をゆがめている。そして恐怖に苛まれた人間というのは、予想外の行動を起こすものである。
その盗賊は、周りの気絶している仲間たちを見て、そして近づいてくる恐ろしい化け物――シャーミィを見て、とある行動を起こした。
その行動というのは、同じく震えているマサルを崖の下へと落としたのだ。
落ちていくマサルの身体。
それを見た瞬間、シャーミィは動いた。
マサルを落とした盗賊をまず一瞬で気絶させる。そして次の瞬間には、シャーミィはマサルを追って飛び込んでいた。
落ちながら身体を本来の姿へと変化させる。
巨大な《デスタイラント》へと身体を変化させたシャーミィは、落下していく中で気絶したマサルをその口にくわえた。
――そして大きな音をたてて、二人は落下していくのだった。
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