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「シャーミィ、ごめんな」

「あやまらんでよかったい! 私がやりたいようにやっただけやけん」



 マサルが借金地獄に陥らせようとされた一件で、シャーミィは目立ってしまった。


 あのまま街に留まればややこしい事態になるのではないか、そう危惧した二人は街を早急に後にすることにした。

 折角応募した大食い大会に参加できなかったことは残念だったが、シャーミィが目立ってマサルが危険な目に遭う方がシャーミィにとっては嫌だったのだ。




(それにしてもマサルは見た目が弱かけん、あんなふうにマサルが陥れられそうになることもある。でもずっとそばにいるのもおかしかし、やっぱりマサル本人に戦う力とか、ああいう時の対応方法を学んでもらうことがよかかなー。私の方が年上やしね!)



 シャーミィはそんなことを思いながら足を進めている。


 相変わらず二人の目指す先は、海の見える場所である。そこに向かうために山道を歩いている。山道を越えれば別の街が待っている。街が変わればシャーミィの噂も届いていないはずである。

 この世界は、現代日本ほど情報がすぐに広まる術はないのだ。




「マサルも、もうちょっと色んな対処法をまなばんといかんね!」

「ああ。そうだな。ああいう時にどうにか出来るようにした方がいいだろう」

「戦い方とか学ぶ? 私が教えるけんさ。まぁ、私も人の戦い方はそこまで得意ではなかけど」

「そうだなぁ。教えてもらえるなら教えてもらいたいかな」

「あと街で教えてくれる人がいたら教えてもらおう!」

「うん。それもありだな」




 外にあまり出なかったとしても、街中でもああいった存在に目をつけられてしまうということがあるのだ。

 そのことをマサルとシャーミィは実感していた。



 ただ強さを示せばどうにでもなるのならば、シャーミィがその強さを示せばいい。

 だけれども世の中にはそれだけでもどうにもならないことがあるだろう。シャーミィは力を示せるが、マサルが示せるものというものはない。そのあたりを考えて行かなければ旅の最中に大変な事態になることもある。




 山道の整備された道の途中には、休むための開かれた場所がある。そういうところでマサルとシャーミィは、時々休憩をする。時折商人などの姿も見られるが、あまり人と遭遇することもなかった。




 整備されていて、馬車が通れるだけのスペースはあるとはいえ、こういう場所は魔物が現れる可能性も高く、そこまで人が通らない道らしい。

 冒険者たちが魔物を間引くことはしているようだが、それも絶対ではないのだ。




 シャーミィがいるからこそ、魔物はあまり寄ってこない。だからこそマサルとシャーミィは魔物の脅威を感じずに山道を歩けているが、普通はそうもいかないのだ。




「本当にシャーミィがいてくれてよかったよ。ありがとう」

「ふふ、そがんふうに褒めてもなんもでんよ?」




 マサルにお礼を言われて、シャーミィは嬉しそうに笑いながら答える。



「私もマサルと一緒やけん、美味しかもん沢山たべれっけん、ありがとう!」

「俺はそのくらいしか出来ないからな」

「そがん、謙遜せんでよかよ。マサルは美味しかもんを作れて、すごかけんね」




 二人して褒めあい、笑いあいながら笑いあっている。



 とはいえ、マサルはそこまで体力がないので、途中からは汗だくである。対して、シャーミィは涼しい顔をしている。シャーミィは強大な力を持つ魔物なので、不眠不休でも幾らでも歩いていられるのである。

 相変わらずマサルがシャーミィに背負われることを拒否したので、ゆっくりのペースで歩いている。



「はぁー、おいしかわぁー」


 途中の休憩時には、マサルの作ったスープなどを飲み、シャーミィは顔を破顔させる。


 《時空魔法》によって、新鮮な食材を料理出来るのもあり、山の上だろうとも良い匂いのする美味しいものを二人は食べている。

 食べることが何よりも好きなシャーミィは、こうして美味しいものを、それも前世の日本の味を知るマサルが作ったものを食べられることに幸福を感じている。



 その香ばしい匂いに釣られて、魔物がよってくることもあったが、そのあたりはシャーミィの手によって簡単に葬られていた。

 そして葬られた魔物は、二人で解体し、また料理の材料となるのである。



 眠る時は、基本的にシャーミィが周りのことを警戒してくれているので、魔物が近づいてきても問題がない。

 なにかが近づいてくればシャーミィにはすぐにわかるのだ。




 人目があまりない場所なので、《時空魔法》を躊躇わずに使用しているマサルの手によって、野宿とは言えない空間になっている。

 今はまだテントだが、マサルの《時空魔法》は神から与えられたチート能力なので、小さな小屋ぐらいなら収納できるのでは? とはシャーミィは思っている。



 そのため、機会があったら小屋を作成して収納してもらうのもありだろうなどとシャーミィは考えていた。

 

 そうやって、山道を二人は進んでいく。




 

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