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シャーミィとマサルは、しばらくその街で過ごす予定なのでそれぞれ短期の仕事を探した。マサルは相変わらずの料理系で、シャーミィは接客業をすることにした。
シャーミィはこの世界の言語をある程度操れるようにはなっているが、それでも言語チートをもらっているマサルとは違ってまだまだだと本人は思っているので、接客業をあえて選んでいる。
……ただシャーミィはマサルが働いているの飲食店とは別の飲食店である。正直その料理を見る度に美味しそうだなとそんな気分で一杯になるシャーミィである。このお店はまかないが出るというのもシャーミィが働き先に選んだ一つの理由であった。
目標は全種類制覇などと考えているシャーミィ。辛いものでも甘いものでもなんでもかんでも美味しそうに食べるシャーミィは、その飲食店の従業員に微笑ましい目で見られている。
シャーミィの実年齢は、三百歳をとっくに超えているが見た目通りの年齢としか彼らは認識していないので、とても可愛がられている。
「シャーミィちゃんは、美味しそうに食べるね。もっと食べていいよ」
「ありがとう」
自分の年齢の訂正などは面倒なのでせずにシャーミィはにっこりと笑って告げる。
中にはお腹いっぱい食べてもいいよと言われたりもしていたが、シャーミィは《デスタイラント》であるためお腹いっぱいになることもない。
(この街を全て食べつくしてもきっと私はとまらんやろうしなぁ。そう考えると私みたいに人間としての記憶がない《デスタイラント》が《災厄の魔物》って思われっとも当然やね。幾ら食べてもお腹いっぱいになんてならないから、幾らでも食べつくすやろうし。地上に出てきた《デスタイラント》を見つけたらすぐに殺さんとね。美味しい料理を作る料理人を食べられたらたまったもんじゃなかし)
シャーミィ、同じような《デスタイラント》が地上に出てきたら真っ先に倒そうと考えている。
食欲旺盛な《デスタイラント》は死ぬまで周りのすべてを食べつくすだろう。――だからこそ、シャーミィが食べたい料理を作る料理人が食べられてしまったら嫌なのだ。
現在、シャーミィは朝にはマサルの料理を食べ、昼には働き先でまかないを食べ、夜にはマサルの作った料理を食べるという日々を送っている。マサルとはよく外食にも言っている。
街が違えば、食材の調理方法も違ったりして、シャーミィは何とも興味深いなと楽しくて仕方がない。
あと最近は料理の本なんかも読むこともある。
文字を読むのはまだまだそこまで得意ではないので、絵が多い本ばかりだが、料理の説明を見るだけでもシャーミィは涎をたらしそうになるほどである。
さて、その日もシャーミィはまかないを食べた後、接客業務をしていた。
「可愛いね。お嬢さん」
シャーミィは子供に見えるとはいえ、かわいらしい見た目をしているのでそうやって声をかけられることもあった。
シャーミィの見た目は日本で言う十五歳。しかしこの世界ではもっと下に見える。そういうシャーミィを欲に満ちた目で見る存在は正直言って子供にそういう目を向けるような危ない人もまぎれているだろう。
「ありがとう」
とりあえず接客業なので、営業スマイルを浮かべてお礼ぐらいはシャーミィもいう。ただし腕をつかんでくるようなものがいれば、実力行使している。
小柄なシャーミィが店内を傷つけないように人を簡単に転ばせるのを見て驚かれはしたが、魔法がある世界なのでそこまで色々言われたりはしなかった。シャーミィが魔法を使ってそういうことを行ったのだと認識したらしい。
(魔法があるからこそ、私が少しやらかしても魔法を使ったからって思われるとはよかことやね。これで少し力を見せれば私が魔物ってわかるんやったらちょっとやりにくかったけんね。でもやりすぎんようにはせんと。やりすぎて魔物だって知られたらマサルに迷惑かけるし)
シャーミィが《デスタイラント》だと知られてしまえば、きっと受け入れるものよりもずっと怯えてシャーミィを危険視するものの方が多いだろう。あくまでシャーミィは人間の見た目をとれても、魔物でしかない。
本人もそのことを百も承知している。
最近は小柄でかわいらしい見た目のシャーミィが旅行者などに声をかけられても簡単にいなしているのを見て、少しは噂になってはいるらしい。ただ大きな街なので、それ以上の騒動が毎日起きているわけだが。
(給料もらえたら色々料理食べたくなっけど、旅行費もちゃんととっとかんといけんしなぁ。私は何処でも生きられるけど、マサルは人間だから色々いるやろうし)
魔物であるシャーミィは何処であろうと生きていける。街じゃなくてもいきて行けるし、食べ物なんて生で魔物を食べてもいける。でもマサルは人間なのでシャーミィ以上に生きていくために色々なものがいる。
旅費を最低限確保して、それ以外で食べ歩きなどが必要なのでシャーミィはどのくらいお金をとっておくかというのをマサルと相談することにした。
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