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「んー、うまかぁ」
「本当にシャーミィは美味しそうに料理を食べるな」
「食べることは、楽しかけんね。ああ、なんか、うまかとか言ってたらラーメン食べたくなった。マサル、ラーメンとかって作れたりすっと? もちろん、とんこつ!」
「材料があったら作れるけれど、移動しながらは無理だな。しばらくどこかを拠点とするとかならともかく、移動中は厳しいだろう」
その日もシャーミィは、美味しそうに料理を食べていた。
シャーミィにとってそれだけ食べることというのは、生き甲斐なのだ。同中でも元々料理人であるマサルは、神様からもらったチート能力を使って、美味しいものを作ってくれる。
だからこそ毎日、シャーミィはマサルの作ってくれる料理が楽しみで仕方がなかった。
シャーミィがにこにこと笑って告げた言葉に、マサルは呆れたように、だけれども嬉しそうな笑みを浮かべていた。
生粋の料理人であるマサルは、やはり誰かに美味しいといってもらえることが嬉しいのだ。
(本当にシャーミィは、美味しそうに料理を食べてくれる。こんな風に無邪気な様子を見ると本当にシャーミィが魔人だなんて思えないよな)
マサルはその恐ろしい本性を知っても、シャーミィの傍にいることを決めた。けれどシャーミィの実際の姿を見慣れているわけではない。恐らくまた見る機会があれば恐怖は感じるだろう。でもその恐怖心があったとしても、シャーミィと一緒に旅をすることを決めている。
「それにしても海はとおかねぇ」
「そうだな。結構海から俺たち離れた場所にいたからな」
「馬車や徒歩での移動だと中々つかんもんねぇ。私がマサルを乗せて移動していいとかやったらちょっとははやかかもやけど。でも色んな所によっておいしかもん沢山食べたかけんね」
ちなみに今、シャーミィとマサルがいるのは街と街を繋ぐ道沿いである。その脇で、和やかな雰囲気で食事をしている。幾ら道沿いとはいえ、あまりにも和やかすぎる雰囲気である。
これもまぁ、シャーミィという存在の魔力を感じて魔物がよってこないからである。
シャーミィは、以前訪れた街でククとロドンという冒険者から魔力を制御する方法を教わった。だからこそなるべく自分が人間ではないということを悟られないように普段は制御している。でも外にいる時は少しは垂れ流すようにしているのだ。
シャーミィの目から見て、マサルという存在は弱い。
異世界からの転移者で、料理に関する能力をもらっているというそれだけで、彼には戦う力はない。
シャーミィが隣にいれば問題がないだろうけれども、それでもシャーミィはマサルが死なないように全力を尽くしたいと思っている。
マサルは魔力を感じ取る能力もなく、シャーミィがそう言う制御をしていることは分かっていない。
「流石に俺も《デスタイラント》に乗って移動は勘弁したいかな」
「ふふ、冗談よ。でも本当に切羽詰まった状態やったら、私はどんなことをしてもマサルを連れ出すけんね」
「それはそうしてほしい」
この世界にきてしばらく……この世界が地球よりも危険なことはマサルも理解している。
幾ら平和的に過ごそうとしても、恐ろしい事態が起きることはある。シャーミィがその《デスタイラント》の姿を見せた時だってマサルに命の危機があった時である。
シャーミィは美味しいものを食べることを目的にしていて、その本性をさらけ出すつもりは今のところない。とはいえ、自分やマサルに何かあるのならばすぐにその実際の姿をさらけ出す覚悟はある。
シャーミィは魔人である。
その恐ろしいで《デスタイラント》としての本性を見せれば、多くの人は去っていくだろう。でもそうだったとしてもシャーミィはそれを選択することだろう。
「よし、マサル。ご飯も食べたし移動せんと。外で寝るよりも街で寝たかやろ?」
「ああ」
「マサルが疲れとったら私がおんぶでもすっけんね」
ご飯を食べ終え、立ち上がったシャーミィはマサルに背中を向ける。いつでもおんぶするとでもいうような様子に、マサルは首を振る。
小柄でかわいらしい見た目のシャーミィに背負われるなどというのは、マサルはなるべくやめたいことである。そもそも例えシャーミィがもっといかつい見た目をしていたとしても、それは拒否したいところであるが。
「まぁ、それならよかけど。ちゃんとあるきーね」
「ああ」
マサルもこの異世界にやってきて、旅をする中で体力をつけてきた。日本にいた頃とは比べれば随分歩けるようにはなっただろう。
それでも三百年間魔物として生きてきたシャーミィには敵わない。シャーミィからしてみれば、まだまだマサルはか弱く見える。
もっともシャーミィからしてみれば、人間は全員自分よりか弱い存在であるが……。
そしてシャーミィとマサルは歩き進めていく。
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