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「何だかよか雰囲気の村やねー」




 マサルとシャーミィは、一つの村へとたどり着いた。

 大規模な村である。近くに川があるからなのだろうか、川魚を食べている人たちの姿も見られる。


 彼らは旅人であるマサルとシャーミィのことを和やかな笑みで受け入れてくれている。この村は大きな街と街を繋ぐ間に存在している村なので、交易のために商人が訪れることも多いようである。




「手伝う」

「わぁ、ありがとう。シャーミィちゃん」




 その村にマサルとシャーミィが滞在するのは、短期間である。その間、シャーミィは村人たちの手伝いをしている。マサルは村の郷土料理を習ったりしている。

 郷土料理というのは、場所によって異なるものである。同じように見えても、少しずつ異なっている。



 マサルは日本での料理は作れるが、この異世界での料理はまだまだ勉強中だ。

 このあたりでは日本で言うサツマイモに似ている食べ物が沢山実るらしい。それをつぶして、調味料などを入れて丸めたものを、食べられる山菜でくるんだものが特産品のようだ。



 早速シャーミィもそれを食べてみたが、とても美味しかった。




「うん。うまか!!」

「シャーミィちゃん、なんていったの?」

「私の故郷の言葉、美味しいって意味」



 思わず美味しさに、方言が出たシャーミィである。




(やっぱり此処の言葉をしゃべれるようになっても、おいしかもんをたべっと、方言がでんね。私は死んで大分たっとるし、三百年もここで過ごしとるけど、やっぱり私の言語は日本語やね)



 ずっと使っていた自分の言語というのは、何かあったとしても頭から消えないものである。

 こうしてシャーミィが方言をしゃべってしまうのも、シャーミィが元々は人間であり、日本人であったという証であると言えた。



 シャーミィは、《デスタイラント》と呼ばれる魔物であり、三百年以上生きた魔人である。

 それでも人だった頃のことをずっとシャーミィは覚えているのだ。






(はぁ、それにしてもやっぱりおいしかもんを食べれるとよかね。なんだか幸せな気持ちになる。これからもっともっとおいしかもん食べれっとよね。本当楽しみ。三百年間土ん中おって、こがんおいしかもん、全然食べれんかったもん。やけん、こうして沢山食べれると本当嬉しか)



 シャーミィはそんなことを考えながら、バクバクと料理を食べている。

 ……村人たちに遠慮しなくていいと言われたからとはいえ、シャーミィはずっと食べている。

 村人たちが「もう入らない」と残してしまったものまで、全部食べていた。





「シャーミィちゃんは、見た目と違って大量に食べるのね……」

「美味しかったから」



 正直デスタイラントであるシャーミィは幾らでも食べれるため、もっと料理を用意されていればそれだけ食べたであろう。

 シャーミィの見た目は華奢な見た目をしているので、彼らからしてみれば大の大人何人分もの食事をとったシャーミィに驚いた様子である。




「シャーミィちゃんなら、都の大食い大会とかでも優勝できるかもしれないね」

「大食い大会?」

「ええ。沢山ご飯を食べる人の大会を都会ではやっているらしいの。沢山食べた人が優勝なのよ」

「へぇ……でも私がそれに参加したらズルだから」

「え、なにそれ」



 シャーミィの事を暴食の悪魔と呼ばれている魔物だとは知らない村人たちはそんなことを軽々という。


 ただ種族的にもお腹がいっぱいになったりしないのが《デスタイラント》なので、そういう大会に出たら優勝を総なめしてしまうこと間違いなしである。




(でもあれやね。お金に困ったらそういうのに参加するのもあり? でも結局私はお腹いっぱいにはならんけん、そういうのに参加してもなあ。一度ぐらいはいい? 普通の人で私と同じくらい食べれる人おっとかな? それはそれで面白かけど……)



 シャーミィは大食い大会の話を聞いて、そんなことを考えている。



(でもあれやね。色んな料理が出るやつやったら参加してみたかかも。というか日本であったみたいに大食いチャレンジのお店とかもあるんかな? そういうのもありか)



 日本にいた頃、シャーミィはテレビをよく見ていた。

 アニメも見ていたし、バラエティ番組も見ていた。異世界と日本の大食いでは違うかもしれないが、そういうイメージかなとそんなことを思って、シャーミィは少し関心を抱いていた。




 そういうわけでシャーミィは、大食い大会がやっている都市の話を村人から聞くのであった。




「マサル! もし行く機会あったら大食い大会みたか! 参加するかどうかは今ん所わからんけど、見るのは見たか」

「へぇ、そういう大食い大会とかもやっているんだ。この異世界で」


 シャーミィが大食い大会のことをマサルに告げれば、マサルも興味を抱いたようだった。



 料理を作るものとして、マサルも大食い料理というものに興味を抱いているのだろう。所謂デカ盛りというものを、マサルは作ったことがないとの話である。




「ふぅん、じゃあ、マサルは私にいつか私用のデカ盛り作って!! 私、全部たべっけんさ」

「いいよ。時間とか材料が手に入ったら試してみる。ただどういうのをつくるか決めてからになるだろうけど」

「マサルの寿命がくる前やったらいつでもよかよ!!」

「……流石にそんなには待たせないから」



 シャーミィの言葉に、マサルは呆れたようにそう言うのであった。




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