第六話 災厄の魔物と転移者と落下
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「マサル、これ、美味しか!! やっぱり米はよかねー」
「ああ。お米は美味しい」
異世界、地球よりこの世界に転移した男、マサル。
災厄の魔物と呼ばれる《デスタイラント》の少女、シャーミィ。
シャーミィの正体が発覚した後も、共に旅をすることになった二人は美味しいものを求めて旅を続けている。
この前、マサルはお米を手に居れた。
米は、マサルとシャーミィにとっての故郷である日本で主食だった食べ物だ。
《デスタイラント》として生きてきたシャーミィは、最近地上に出てきたばかりで、米を食べるのは実に三百年ぶりである。
ちなみに種麹をつくるための米も確保されている。ただ他の種麹をつくるための環境がないので、しまってある状況だが。
炊飯器などという便利なものはこの異世界にはないので、米を炊くのも一苦労であった。でも時間がかかろうとも美味しいものが食べれればそれでいいとマサルもシャーミィも思っているため、彼らは食事をするのに手間をかけていた。
(おいしかぁ。やっぱり米ってよかよねー。日本で食べとったものとは少し違うかもしれんけど、米ってだけでよか。もっと米がある地域に行って米を確保せんとね。確保出来たら丼ものとか、後はカレーとか、お寿司とか……。魚くいたかな。ブリの照り焼きとか食べたか。この世界だとブリみたいな味の魚おっとかなぁー?)
シャーミィは、食事中だというのにそんなことを考えて、益々食欲旺盛になっていた。
ちなみに二人は魚のある街に移動している最中である。
一度シャーミィの正体を知って、シャーミィがマサルから逃げたり……といった事をしていた結果、最終的に海のある街から離れていたため、また海を目指して進んでいるわけである。
川の魚を食べることはしているものの、やはり魚といえば海と思っているシャーミィである。
シャーミィが前世で住んでいた県は海が近かったため、美味しい海産物をよく食べていたのだ。海産物があればいくらでも食べれると思っているシャーミィは、考えながら涎をたらしていた。
マサルはそんなシャーミィを見ながら苦笑いしている。
(なんでも食べつくすと言われている暴食の悪魔――《デスタイラント》が涎をたらしているなんて普通に考えれば恐ろしい光景なんだろうなぁ。俺も目の前の魔人がシャーミィではなければそんな風に怯えたかもなぁ)
暴食の悪魔。すべてを食べつくす災厄の魔物。
シャーミィの正体は、人々を絶望に陥らせるものである。そんな存在が涎をたらしていてもマサルが怯えないのは、目の前にいるのがシャーミィだからである。
「シャーミィ、何考えているんだ?」
「海のこと、考えとった。海ってよかよね。美味しいものたくさんやもん。この世界やったらきっと大きな海の幸も大きかよね。巨大な魚とか、どんだけ食べれっとやろう……。なんか丸のみとかしたい」
「……ミミズって海でも生きられるのか?」
「私はどがん環境でも死にはせんよ。それだけ丈夫な身体しとーもん! それに魔法を使えばどうにでもなーよ。あー、海って言う大きな場所に潜って、がぶって丸のみしてみたか!!」
シャーミィ、妄想をしながら海にたどり着いたら海に飛び込んで丸のみをすることを目標にしていた。
その様子を想像しただけで、マサルは身体をぶるりと震わせてしまう。
シャーミィの正体を知ってもシャーミィのことを受けいれ、シャーミィと旅をすることを選んでいるものの……シャーミィの正体に関しては恐怖心は当然ある。
ただでさえシャーミィのその姿を見たのは一度だけなので、その巨大な恐ろしいミミズが海に飛び込んで、暴食の限りを尽くすのを考えれば震えるのも仕方がないことだ。
「マサルは海にたどり着いたらなにしたかー? とりあえず料理? それとも釣りとかすー?」
「そうだな。魚を捌くことはしたい。刺身をとりあえず食べたい。その前に醤油がいるけど。それか……海のある街だと醤油があればいいんだけど」
「どうやろ? この世界は地球とは違う食文化やもんね。醤油もあっとかなぁ? そもそも醤油ってアジア圏で生まれたものやろ? こっちって明らかに西洋って感じやん。そもそも此処の人たちって生ものたべんやろうし」
マサルとシャーミィにとってとてもなじみ深い調味料である醤油。
それは刺身に最高に合う。醤油さえあれば色んな料理のレパートリーが増える万能調味料である。
ただしその醤油は今の所、この世界では見つかっていない。海のある地域ならあるのではないか――というのはそもそも淡い期待のように見える。
なので、醤油を口にするために必要なのはやはり自分で醤油をつくることだろう。
「そうだな。やっぱり海沿いの街にたどり着くまでに醤油をつくらなきゃだな」
「うん。そーよ! がんばりー。私も手伝えることは手伝うけん」
マサルとシャーミィは星空の下で、そんな会話を交わすのであった。
――美味しいものを食べると言う目標の元、二人の旅は続けられている。
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