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女将との話を終えたマサルは、相変わらずシャーミィの事を考えていた。結局の所、マサルとシャーミィは互いのことをそこまで詳しく知らない。
マサルが知っているシャーミィのことも限られている。
普通の人よりも力が強い。出身が九州らしく、日本語をしゃべっている時は方言が出る。人より体力が多い。食べるのが何よりも好きで、何かを食べている時は幸せそうな顔をする。いつも元気で、無邪気。
――そういう表面的なことしか、マサルはシャーミィの事を知らない。表面上の、見たまんまの情報しかマサルは知らないのだ。
そんなシャーミィが冒険者の元で何をしているかを語ってくれるのには、シャーミィからの信頼をもっと勝ち取らなければならないだろう。話したくないと思っていることを無理やり聞き出そうとは思っていない。
(過去を話しても大丈夫だと思われるぐらいの信頼は勝ち取りたい)
マサルはそう願い、シャーミィの信頼を勝ち取ろうとまず行動したのは美味しい料理を作ることだった。
そういうわけで、シャーミィが帰宅する頃にはすっかり美味しそうな料理が並んでいた。
「わぁ、マサル、これどがんしたと? 今日、なんか気合入っとる?」
マサルはキッチンを借りてシャーミィを喜ばせるために、気合を入れて料理を作った。今日はこの地域の特産物として売られているタレを使ったに煮物である。白いご飯がないのだけは残念だが、それでも味が染みている煮物というのは美味しいものである。
シャーミィはマサルの用意した料理に目を輝かせている。
マサルはシャーミィが喜んでいる様子を見て、ほっとする。
(シャーミィは好き嫌いがなさそうだな。好き嫌いやアレルギーがあったらそのあたりも気にしなければならないけれど……)
シャーミィはどんな料理を出しても、嫌な顔一つしない。
シャーミィはいままで土しか食べてこなかったので、正直どんな料理でも、”調理されたもの”であるのならば喜んでなんでも食べるだろう。そんな事情はもちろん、マサルは知らない。
「色々作ってみようと思ったからな。これからしばらく色んなものを作るから是非食べてくれ」
「もちろん、食べるよ。マサルの料理美味しいけん、めっちゃ楽しみ」
シャーミィはマサルを心から信頼していると言わんばかりの満面の笑みを浮かべている。でもこんな笑みを浮かべるくせに、シャーミィはマサルに自分の事を語ることはない。
その笑みは、信頼を感じさせる。それでも語らないということは、信頼されていないのだろうかと、マサルは少し落ち込んでいた。
(もっと、シャーミィからの信頼を勝ち取らないと。そのために頑張ろう)
マサルはそう考えて、気合を入れる。
にこにこと微笑みながらご飯を食べるシャーミィは、そんなマサルの意気込みを知ることもなかった。
「米もこっちで探しておくから」
「本当? ありがとう、マサル。楽しみにしとるよ」
「だからシャーミィは何か頑張ることがあるなら、頑張れよ」
「うん! ありがとう、マサル」
シャーミィはマサルに応援され、嬉しそうに笑うのだった。
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