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 そんなわけで、シャーミィは魔力操作と接客業で大忙し、マサルはシャーミィからの信頼を勝ち取ろうと材料を探したり美味しいものを作るので大忙しとなった。




 互いに忙しい日々を送っている。



 とはいえ、互いに忙しくしていても会話が出来ないほどすれ違っているわけでもない。確かに忙しさは感じているものの、夜には二人で沢山の話をしている。


 会話を交わすことは、信頼関係を築くことに大きな貢献をするとマサルが思っているからである。




 主に料理の話ばかりしているのは、シャーミィが食べることが大好きで、マサルは作ることが大好きだからであろう。



 その中でマサルはシャーミィの過去を知りたいと思い、自分の昔の話をすることにしていた。そうすることでシャーミィも過去の話をマサルにしてくれるのではないかと期待して。






「俺の家は小料理店をやっていたんだ。母さんと父さんで経営している小さな小料理店だけど、笑顔が溢れていた。それで母さんと父さんの料理は、美味しくて、俺にとっての大事な味になった」

「そうなんね。そうやっておいしか料理に昔から触れてきたけん、マサルの料理は特においしかとかな」



 マサルが料理を作ること、食べること、その二つを好きな起源は両親のやっていた小料理店にあると言えるだろう。

 マサルは目を瞑れば、いつでもあの大事だった場所の事を思い出すことが出来る。優しい味、笑顔があふれる場所。思えばその小料理店で働いていた女子大生がマサルの初恋だった……などという懐かしい思い出も思い出してしまった。







「俺が中学生の頃に父親が亡くなって、小料理店は閉まってしまったけれど、いつかああいう場所を作ることを俺は目標にしていたんだ」





 父親がなくなり、結果的に小料理店はしめられることになってしまった。その後、父親の残したお金や保険金、そして母親がレストランで働いてくれて、母子家庭になったもののマサルは何不自由なく育った。




 そして家では美味しい料理を母親がいつも作ってくれた。




 それが美味しくて、何時だって人を笑顔にする料理をいつか作っていきたいと思った。

 だからこそ、マサルは料理人を目指した。そしてその夢を叶えて、料理人になった。



 結果として異世界に来ることになってしまったが、異世界に来ても美味しい料理を作って、人を笑顔にしたいとマサルは望んでならない。




「この異世界でも美味しい料理を作って、美味しいものでもっと人を笑顔に出来たらと俺は思うんだ」

「すごく素敵な夢やね。私の夢はおいしかもんを沢山食べることやね。今までたべれんかったけん、その分食べんといけんもん」




 ……明確的な過去を、シャーミィは口にすることはない。それでも所々で漏らされるシャーミィの言葉。そこからマサルはシャーミイの事を推測出来ないだろうかと思考する。


 今まで食べられなかったとシャーミィは口にしていたが、それにしては出会った頃のシャーミィは肉付きが良かった。それまで食事を全くとれなかったというのならば、もっとがりがりで空腹で倒れていてもおかしくない。

 ご飯を食べれていなかったわけではなく、美味しいものを食べられなかったということだろうか。


 でもそれだとよく分からない。



 本当に今まで深くは考えていなかったが、シャーミィという少女は何処までも不思議で、変だ。

 異世界なのだから、マサルの知らない力が何かしらあるのだろうとは思っていたが――、そもそもシャーミィはどうしてそんなに見た目に似つかわしくない力を持ち合わせているのか。

 そのあたりも分からなくて、マサルはシャーミィの事をマジマジと見つめてしまう。





「どがんしたん、マサル?」

「……いや、何でもない」




 だけど、聞いたところでシャーミィがマサルに本当のことを話してくれるとは思えなかった。




(……そういえば初めてあった時も冗談で自分が魔物なんて言っていたっけ。どこからどう見ても人でしかないのに。自分を魔物と口にしていたなんて……それだけでも自分の過去を人に知られたくないってことだろうし)




 マサルは異世界に来たとはいえ、その常識は地球の常識にとらわれている。だからこそ、本当に目の前の少女が魔物であるとはどうしても思えない。





 此処が異世界だと知っているのに、それでもマサルはやっぱりまだ異世界のことを知らないのだ。幾らにているところがあっても、此処は紛うことなき、異世界なのに。それでもまだ常識を捨てられない。

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