第五話 災厄の魔物と転移者と街の危機
1
「次の街はどがんとこやろね」
「そうだな。どんなところだろうな、楽しみだ」
シャーミィとマサルは大豆を見つけた街を後にして、また旅路についている。
時には馬車を乗り継ぎ、時には街道を歩き――そうして一歩一歩進んできた。
まもなく、新しい街にたどり着く。その新しい街の事を考えて、二人は楽しそうに言葉を交わしている。
まだ醤油を作り出すという目標も、米を見つけるという目標もまだかなっていない。
美味しいものを食べたいシャーミィと、美味しい料理を作りたいマサル。その二人の理念は一致している。二人は食のためにも妥協するつもりはなかった。ある意味美味しいものが好きだという共通した二人だからこそ気が合うのかもしれない。
そしてようやく馬車を乗り継いで、二人がたどり着いたのはシェッドという名の街だ。この街は、織物が発達している街らしい。しかしそういうものより食が重要なシャーミィとマサルは、特産物である山菜の料理に夢中である。
「うまかね! このとろりとしたドレッシングがやばか」
「そうだな。滅茶苦茶上手いな」
織物が発達しているこの街で、衣服店に向かう観光客は多い。というのに、二人して衣服店ではなく、レストランに直行して食事を取って、幸せそうな顔を浮かべる。
シャーミィもマサルも、三大欲求のうち、食に大変関心を持っていることがよく
うかがえるだろう。
(本当においしかわー。これだけおいしかと嬉しか気分になんね)
シャーミィは、ドレッシングのかかったサラダを食べながら、心の底から嬉しそうにしていた。
昼ご飯を食べた後は、二人で宿探しに向かった。
この街では今度、織物市が行われるという話である。その織物市のために多くの観光客が街を訪れていた。
そのため、宿を探すのも一苦労だったが、なんとか小さいが料理がおいしい宿を見つける事が出来た。
「今回の織物市では――」
「そうですなぁ」
宿の部屋へと向かう中で、楽しそうに織物市の話をするものが多い事、多い事。
この街には、商人も多くいるらしく、商人たちは商談を繰り広げていた。あとは外からやってきた女性陣たちは、美しい織物の衣服の話をして楽しそうな声をあげている。
シャーミィはおしゃれにそこまで興味を抱いていないので、よくそこまで夢中になれるなぁなどと考えていた。
しかし、シャーミィは次の言葉に足を止める。
「そういえば聞きましたか。《デスタイラント》が地上に現れた痕跡が見つかったと」
それは、シャーミィのことだった。
《デスタイラント》――そう呼ばれる恐ろしいミミズの魔物は、他でもないシャーミィであると、本人は分かっている。
「はい。もちろんです。なんと恐ろしいことか」
「あの恐ろしい魔物が地上に現れれば織物市どころではありませんからね」
「しかし、《デスタイラント》が暴れたという噂もありませんし、ただの勘違いでは?」
「そうだといいのですが」
恐ろしい魔物である《デスタイラント》の噂はこんな街にまで響いているらしい。
この場所は、最初にシャーミィが訪れた街から遠く離れている。それでも、《デスタイラント》はそれだけ影響力の強い魔物であるのだ。
「シャーミィ、どうした?」
「……なんでもなか」
――自分がその恐ろしい魔物だと、マサルが知ったらマサルはどんな態度をするだろうか。
また芽生えたその疑問を振り払うようにシャーミィはそう答えるのだった。
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