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「シャーミィ、醤油づくりだが、まずは種麹を作らなければならない」

「種麹って、なん?」

「醤油などの発酵食品作る時に必要なものだよ。この世界ではまずそこから始める必要があることに俺は思い至った。……そして種麹を作るためには米がいる」

「えー、そうなん? しらんかった。じゃあ、米出来るまで醤油つくれんとね」

「そうだな。だからまずは米を探そうと思う。幸い大豆はシャーミィのおかげで手に入った。ここで手に居られるだけ大豆を入手して、次は米を探しに行かないといけない。米があれば他の可能性もどんどん広がるしな」




 マサルがそう言う話をしたのは、豆料理を皆で食べてからしばらく経ってからである。


 マサルは醤油を作るために大豆――とばかり考えていたが、麹造りからしなければならないことを考えると種麹が必要だと気づいたのである。そしてそのためには日本人の魂であるお米がいるということに至る。



 シャーミィはそれを聞いてよく分からなかった。人間だった頃の記憶も遥か昔であり、種麹などと言われても何のことだか分かっていない。

 シャーミィは良く分かっていないが、マサルが言うならそうなのだろうと思いながらその話を聞いていた。





「醤油って、日本だとすぐに買えたけど、そがん大変なんね」

「そうだな。発酵食品は総じて大変だと思うぞ」




 シャーミィはマサルからそんな話を聞いて、現代日本は恵まれていたのだなと思う。確かに虐待や貧困の差というのはなくならなかったが、誰でも大変な作業を得て作られる発酵食品などを手に入れることが出来たのだ。



 異世界に転生してしまい、土の中で過ごし続け、美味しいものなど食べることが長らく出来なかったシャーミィからしてみればなんて恵まれているのだと思って仕方がなかった。



(やっぱりおいしかものを食べるには、そういう難しいことをどうにかせんといかんとね)



 シャーミィはそんなことを考えながら、マサルに話しかける。




「じゃあ米探しにいかんとね。米ってどこあっとやろ?」

「それも分からないんだよな。米さえあれば丼ものが色々作れるんだが。オムライスとか食べたい」

「オムライス、おいしかよね! 私、混ぜご飯やカレーもすきなんよ。きのこご飯とかそういうのもおいしかし、いっぱいたべたかよ」




 シャーミィがにこにこと笑って告げる言葉に、マサルも笑みを浮かべるのであった。







 さて、シャーミィとマサルはこの街で米が見つからないかと心を一つにして探したわけだが、その街で米は見つかる事はなかった。

 そんなわけで次は米を探しに、街を移動することになった。






「ボス、いってしまうのか!」

「ボスとマサルさんがいなくなるなんて寂しい!」



 シャーミィの事をボスと呼んでいる子供たちは、そんな風に寂しいと声をあげ、



「シャーミィちゃんたちもう行くんだね」



 と大人たちも悲しそうな表情を浮かべていた。



 しかし、シャーミィもマサルも美味しい食事を食べるために探したいものが幾らでもあった。

 そのような表情をされても、定住する気は今の所なかったのである。




「生きていればまたあえるよ」




 少なくともシャーミィは魔物なので、長い時を生きる。その間にもう一度彼らが生きているうちにこの街に顔を出すことは出来るだろうとシャーミィはそう言って笑った。




 シャーミィの言葉に子供たちは、




「そうだな、ボス。またな!」

「それまでに豆料理のすばらしさを広めておく!」




 とそんな風に声をあげるのであった。ちなみにこの子供たち、マサルの作った豆料理を食べてすっかり、豆料理の虜になっていた。最近では豆料理のすばらしさを広めることに熱中しているらしいのであった。

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