「シャーミィさん、すっかり眠っておられますね」

「はい。そうですね。ずっと徒歩で移動していたのでシャーミィも疲れていたのかと思います」


 馬車がガタンゴトンと揺れている。

 椅子に腰かけているシャーミィは瞳を閉じていた。



 シャーミィが魔物なことも、気を使って眠っているふりをしていることも把握していないラドとマサルは瞳を閉じたシャーミィを見てそんなことを話していた。



 マサルはシャーミィが馬車の中で眠るのを見て、少しだけほっとしていた。というのもシャーミィは見た目は子供のようなのに、マサルよりもしっかりしていて、年相応さが見られなかったからだ。言葉や口調は大人っぽいとは言えないが、その言動はマサルよりも寧ろ大人っぽく、しっかりしていた。言葉さえも通じない場所で不安さえも見せずに、堂々としていることも含めてシャーミィはちぐはぐだった。

 シャーミィがまだ小さいのに無理をしている――という風にマサルの目では見えていたのだ。最もそれはシャーミィ本人にしてみれば「なんばいいよっと?」といわれる勘違いだろうが。



 なので、ようやく年相応な様子を見てマサルは自覚はしていなかったが、少しだけほっとしていたのだ。




「こうしてみるとシャーミィさんは本当にかわいらしい子ですね。これだけ愛らしい子供でしたら、もしシャーミィさんが街で暮らしていくことを望むのならばすぐに叶うことでしょう」

「そうですね。……シャーミィはまだ子供ですから、ちゃんとした所で子供らしく生きた方がシャーミィのためになるかもしれません」



 マサルはそう答えながらも、眠っているシャーミィの事を思う。



(シャーミィは自分の事を人間ではないとか、訳の分からないことを沢山言っていた。俺についてくると言った。だからついてくることを結局許可した。シャーミィは俺よりも強い。だけど……、こうして眠っているシャーミィを見ると旅なんてせずに安全な場所でゆっくりと和やかに生きる方が良いのではないかとそう思う。――だから、次の街に辿り着いたらシャーミィを説得してみようか)



 マサルはラドの言葉を聞いて、そんな風に決意をするのであった。


 そしてそれから何時間か経過し、シャーミィがパチリと目を開ける。シャーミィは目を瞑っている間マサルとラドの会話を聞いていた。

 その会話を聞いてムッとした気持ちになりながらも、後でマサルと二人の時に自分がどうしたいか話そうと決意するのだった。





 ―—それからしばらくが経過して、食事の時間になった。馬車を止め、外で料理がされ、それを皆で食べる。



(マサルはまだ私に出来れば、大人しくしてほしいと思っとる。私の事を子供で、私が魔物だというのも信じない。信じさせるべきか? ……でも魔物の時の姿を見せるのは最終手段。それまでに何とか説得しよう。なるべく納得してついて行きたかし。折角、日本人に会えたし、美味しいもの食べたかし。というか、本当にマサルの料理美味しか)



 シャーミィは悶々とした気持ちを感じながらもマサルの料理を頬張っていた。それは馬車でマサルとラドの会話を聞いていたからである。




 ラドたちがいるため、《時空魔法》を使うことは出来ないものの、十分に美味しい料理をマサルは作ってくれた。



 その美味しさにシャーミィの頬は思わず緩む。



 ずっと土の中で生きていたシャーミィにはどんなものでも美味しく感じる。それでもマサルの作った料理は、故郷の日本を思い起こされて余計に嬉しさがにじむのだ。



 土の上に座り込んで、バクバクと勢いよく食す。



 その様子を見ながらラドたちもマサルの作った料理を食べる。それはそのあたりに生えていた食べられる植物やラドが持っていた食材を使ったものだ。だけど、ラドもマサルが作った料理が新鮮に感じられたらしい。



「美味しいです。マサルさん。このような美味しい料理が作れるのでしたら、何処でも働けるでしょう。居を構える気はございますか? 私の所で雇うという事も出来るのですが――」

「いえ、俺には目標がありますから」

「マサルはいかんよ! 私と旅するんやもん」



 ラドの勧誘にマサルは断り、シャーミィは立ちあがってラドの事を睨みつける。シャーミィの言葉はラドに通じないものの、その殺気を本能で感じ取ることが出来たのだろう。ハッとなったようにラドは背筋を伸ばし、「じょ、冗談ですよ」と口にするのだった。



 マサルは何故急にラドがそのように顔色を悪くしたのか感じ取れなかったようで、不思議そうな表情を浮かべていた。




 それ以降、恐ろしくなったのかラドはマサルを勧誘することはなかった。

 そしてそれからしばらく馬車に揺られ、次の街へとたどり着いた。


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