10
三週間ほど経過した時、マサルは言った。
「俺はそろそろ街を出ようと思います」
マサルは元々、この街で一生を終えるつもりなどないのだ。その発言にシャーミィは驚いた声をあげる。
「街を出るん!? え、何で」
「何でって、俺の目標はそもそも同じ場所に留まっておくことじゃないから」
シャーミィは椅子からガタリと立ち上がる。
その衝撃に机の上の食器が揺れた。
マサルと話している時は日本語しか出ないシャーミィだが、この三週間でそれなりに周りの言葉が理解出来るようになっていた。
それは根気強くマサルが一つ一つ翻訳してくれたためである。その事もあり、シャーミィはマサルに対して感謝していた。
それはマサルが一つ一つ翻訳して説明してくれたからであり、その事も含めてシャーミィはマサルに感謝していた。
そしてシャーミィはマサルはずっとここにいるものだと思っていた。
そもそもの話、長い時を生きてきたシャーミィにとって、三週間というのはあっと言う間の時間だった。
この三週間の間にマサルは、目的であった商人ギルドへの入会を済ませていた。商人ギルドに入会することで、お店を出店する事が出来るようになるのだ。
幸い、この街ではシャーミィに言葉を教えたり、料理を与えるという事で騎士団の方から少なからずの金銭を受け取っていたものの、他の街では金銭を得るために他の手段を用いなければならない。マサルの目的のためにも商人ギルドへの入会は必須であった
この三週間で次の街にいく目途がすっかり立ったのである。
「マサルの目的ってなんなん?」
「美味しいものを食べる事。そして美味しいものを作る事だ」
「なんそれ、よかね! 私もついていきたか! マサルの作るうまか料理を食べたかもん!」
「は? いやいや、シャーミィはまだ子供だし、勝手にそんなこと言ってもダメだろう」
「私は子供じゃなか! マサルより、年上なんよ?」
「……そうだとしても、ここの騎士団で保護されているわけだろ? 勝手についてくるのはダメだろう。そもそも危険も多いんだろう。街の外は」
「じゃあ、許可もらってきたらよか?」
「あー……まぁ、それなら」
マサルはついていきたい! と声をあげるシャーミィに対して呆れた様子だ。相変わらず、人間にしか見えないシャーミィが人ではない事をマサルは信じていなかった。マサルにとってシャーミィはなぜか妄言を言っている日本人でしかなかった。
(騎士団の人達がシャーミィを街の外に出すのを許可するとも思えないし、大丈夫だろう)
元からマサルは騎士団の者達が、シャーミィが旅に出る事を許可するとは思っていなかった。騎士団の人間達はシャーミィという親の居ない子供の事をとても可愛がっていた。その成長をすくすくと見守って行きたいといった思いが透けて見えるぐらいである。
なのでシャーミィが許可をもらおうとしてももらえるはずがないとマサルは思い込んでいた。……思い込んでいたのだが。
「……私、マサル、と行く」
「どうして……。まさか、マサルに惚れたとか?」
「違う」
「外は危険なんだよ?」
「大丈夫。行く。行くの。止めても行く」
マサルがシャーミィを追いかけていくと、そのような会話がなされていた。
なんとか、ここの世界の言葉で少しずつ話しているシャーミィの目には、強い意志が感じられた。何が何でも、マサルと共に行くのだと。そんな意志がそこにあった。
止めても行くのだと、そう言い放つシャーミィは本当に有言実行しそうな目力があった。
だから、なのだろうか。
騎士団の騎士達も、
「無理やり行かれるのは困る」
「せめて送り出す……」
「マサル、シャーミィに何かあったら許さない」
と、マサルの予想外にシャーミィが旅に出る事に対して肯定したのだった。正直、マサルはえ、マジかと思ってならなかった。が、もう騎士団の関所の雰囲気はシャーミィを送り出す気満々だった。
「えへへ。これで行ってよかやろ?」
「……おう。でも、本当に大丈夫なのか?」
許可をもらえばついてきて良い、と言った手前、マサルは駄目とは言えずに渋々頷くのであった。
「大丈夫たい。私の力を信じときー。私は強かけんね!」
「……そうか」
自分は強い、などと主張するシャーミィをマサルはマジマジと見る
シャーミィの背は低い。子供なのではないかと思うぐらいの低さ。黒髪を持つ、か弱そうな少女。手首だって細い。それでいて強いと主張されても難しいのは当然であった。
しかし、シャーミィ本人はマサルのそんな思考は知らないとばかりににこにこしていた。よっぽど旅についていける事が嬉しいらしい。
(美味しいもの食べにいく旅についていけるとか、なんて素晴らしか! 私は美味しい物をもっと食べたかし、マサルと一緒に居ればもっともっとおいしかもの食べにいけるもんね。よかねよかね)
シャーミィはマサルの思いなど露知らずに内心、ハイテンションだった。
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