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「だから、私は数百年生きとるっていいよるやろ? 私は人間の姿に擬態しているだけで人間じゃなか」
「えっと……どこからどう見ても人間にしか見えないけど」
「だから魔力を使って人の姿になっとるっていいよっとに。何で信じてくれんと? 折角言葉通じる人間に出会えたとに、信じてくれないとか、本当に悲しかよ!」
「……うーん。訛りが強いな。言っている事は大体分かるけど。でもさ、シャーミィ。仮にそうだったとしてもそれじゃあ周りの人達に説明出来ないだろ? 本当の事を教えて欲しいのだが」
「ああ、もう全然信じてなかね! 本当の事しかいいよらんとにさ」
マサルは早速騎士団の詰め所を訪れ、シャーミィと話していた。
今日こそ、本当の事を話してほしいと思ったのだが、シャーミィは同じ事しか語らない。
マサルには正直、目の前の少女は人間にしか見えない。それも見た目からしてみても何処からどう見ても日本人の少女としか映らない。
だからこそ、自分と同じように異世界に転移した転移者であろうとしか思えない。しかし、目の前の少女は違う事を言っている。数百年生きていて、人間ではない。そんな説明、マサルはとてもじゃないけど信じられなかった。
そしてそんな説明をしても周りの人間達が信じるとも思えなかった。そのため、何か喚いている少女の意見はほぼ無視して、もっともらしいシャーミィがたった一人でいた理由を騎士の者達に告げる。
「俺達の故郷はずっと遠くにあります。この通り、この世界では珍しい黒髪黒目ですから、シャーミィは攫われてきたのではないかと思います。ただ、本人はそれらのショックからか記憶が曖昧なようで……。今も無理に聞き出そうとしてしまい、ショックだったようです」
一先ず、そのような理由づけをして、その事をシャーミィに言う。シャーミィは不満そうだが、「まぁ、私が人間でないと知られたら面倒やけんよかか」と呟いていた。
人間でない、とあくまでシャーミィは言い張っていた。
「……シャーミィ、とりあえずその冗談は置いといて、君はこれからどうする気なんだ?」
「これから? 私は人間に久しぶりに会えただけでも満足。でももっと会話したかけん、言葉を教えて欲しか。現状言葉が分かるのマサルだけやけんさ。それでおいしいものいっぱい食べたかと!」
「……ご飯を食べたいのか? 何か作ってやろうか?」
「作ってくれっと!? マサルは料理が出来るのか。なら、是非作って欲しか。日本食とかつくれっと? やったら、私、めっちゃ食べたか」
「期待させといて悪いが、米はまだ見つけて居ない。俺はこの世界に来たばかりだからな。でも、地球でも料理を生業にしていたからこちらの食材でもそれなりのものは作れると思う」
マサルは実は地球では料理人をしていた。
マサルは異世界に転移してまもない転移者だ。これから異世界に降り立って、美味しい料理を作るためにも日本にあった食材を探したりしようと思っていたのだ。
マサルはこの異世界でチート能力を使って最強を目指す、といったことは望んでいない。彼が望んでいるのは、地球と同じように美味しい料理を作る事なのだ。
マサルが料理を生業にしていたと聞くと、シャーミィは期待を膨らませたのだろう。その口からは涎があふれている。
「作ってやるから、少し待ってろ」
「うん。待ってる!」
シャーミィは子供のように元気に返事をすると、椅子に座ってご機嫌な様子だった。
「ごっはん~♪ おいしいごっはん~♪」
と今作ったのか知らないが、変な歌を歌っているぐらいにはご機嫌である。
そんなシャーミィの様子に言葉は分からないものの、周りの騎士達は口元を緩めている。マサルは台所を借りて、料理をする事にした。
マサルは台所に向かうと、その場にある食材を借りる。冷蔵庫のような魔法具があるものの、地球にある冷蔵庫よりは機能が低いようだ。中の食材は地球程は持たないのだと、マサルは説明を受けていた。
中に入っていたお肉と芋、人参、玉葱のようなものを手に取る。地球のものとは少し違うが、見た目は一緒で、人かじりしてみても同じような味なので問題はないだろうとあたりをつけて、マサルは鍋を取り出す。
そして騎士団の詰め所に置かれている調味料を確認する。その中で地球で使っていたものと比較的似ているようなものを選ぶ。地球で作っていたのと同じような味にはならないだろうが、それなりに似たものにはなるだろうという事で味見をしながらマサルは選んだ。
それが終われば、野菜やお肉を切っていく。
切れ味の良い包丁で、手際よく食材を切る。そのあとは、魔法具で火を起こして油を入れて熱する。温まってきたら芋、人参、玉葱のようなものを入れて、水を加えて煮る。そこにお肉も加えて、更に煮る。超見えようを入れて、更に煮れば、肉じゃがもどきの完成だ。
もどきと言っているのは、地球のものとは違うものを使っているからだ。ただ味見をした限り、地球の肉じゃがと同じとは言えないがそれなりに美味しいものになっていた。
「うん」
マサルは満足気に頷くとそれをお皿に盛り付けしてシャーミィのもとへと向かう。ごはんはないので、主食はパンである。パンは流石に手作りではなく、台所に常備されていたものを準備した。
肉じゃがを手に、シャーミィに近づいていくと、その皿に盛り付けられているのが何か分かったのだろう。シャーミィが目を輝かせていた。
「肉じゃが!? 私、肉じゃが好きなんよ。やったー!」
「……異世界の材料作っているから味は少し違うけどな」
「いや、でも感謝しかなか。とりあえず食べる」
シャーミィはそういったかと思うと、嬉しそうな顔で肉じゃがにフォークを立てる。この場にお箸はないので、フォークを使っての食事をしているのだった。
そして、口に含んで、シャーミィはその顔を破顔させた。幸せそうな表情を浮かべて、にこにこしている。
「うん。美味しい。マサル、ありがとう!」
自分の作ったもので嬉しそうな顔をして、お礼を言う。その様子を見てマサルが嬉しくないはずもなかった。
思わずシャーミィの頭に手を伸ばして、ぽんぽんと頭を軽くたたく。
「おう、もっと食べろ」
そんな言葉を言えば、またシャーミィは笑うのだった。
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