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さて、シャーミィが名前を得た次の日、チート能力を授かって異世界に転移した男――マサルは宿から騎士団の詰め所に向かっていた。
その間、先日出会った少女の事を考えていた。
少女――シャーミィと名付けられた黒髪の少女は日本人らしい顔立ちをしていた。背は低く、同顔で何処からどう見ても中学生ぐらいの年にしか見えない、長い黒髪を腰まで伸ばした少女。
言語チートをもらわずに、転移か、転生をしたと思える少女。
マサルは自分が神に出会ってチート能力を持った身なので、言語という最も必要なチートをもらわずに異世界にやってきた少女がいた事に驚いたものである。
明らかに日本人の姿でしかないと思えるので、転移したというのが濃厚だろうか……などとマサルは思考する。
(数百年ぶり? というのは冗談か。人間だった頃の名は覚えてないとかも……今日、そのあたりも聞けるだろうか)
正直その見た目が原因で、マサルはシャーミィの数百年生きている発言は冗談だと思っていた。言っている言葉の意味が分からないことは多々あり、シャーミィという少女のことがマサルにはよく分からない。
(折角出会えた同じ日本出身なんだから仲よくしたいな)
そんな風に考えてながらマサルは騎士団の詰め所まで歩いている。
この世界に来て初めて降り立った街がこのイガンの街だった。
街の近くに転移させてもらえるとは神が言っていたとおりに街のすぐ近くに降り立てた事実にマサルはほっとしたものである。
中は現代日本の街とは異なった街にマサルは思わず興奮したものである。砂漠のすぐ傍にあるその街は、石と土で出来た家が多い。こういう家で寝泊まりをしたことがなかったので、それだけでも目を輝かせて街を見てしまった。
この街から異世界での生活が始まるのだと――心を高ぶらせたものである。
ただその街は何処か緊迫した雰囲気が漂っていた。その理由は宿のおかみからしっかり聞いていた。
(全てを食らう災厄にして最悪の魔物。天災とも言える巨大ミミズ。《デスタイラント》。それがこの街の近くに出現したかもしれないか。災厄の魔物と聞いてミミズだなんて思い浮かべられなかったけれど、まぁ、確かに巨大で全てを食らいつくすなんて言われている存在なんて災厄でしかないか。転移者である俺なら……倒せるか? いや、でも出来たら戦いたくない)
転移者であるマサルは、能力を授かっている。その能力があればもしかしたらその魔物を倒せるかもしれないと、頭を掠めたもののマサルは首を振った。
(俺は戦うための能力を手にしたわけではない。別の目的のために能力を選んだ。出来れば命の危険を感じるような戦いには身を置きたくはない)
異世界転移。チート能力。
そう聞けば、戦いのための能力を思い浮かべるものが多くいるだろう。しかし、マサルは異世界転移するにあたって望んだ能力は戦うために求めた能力ではなかった。その能力は戦いの中で使えるかもしれないが、それでも第一の目標としていたのは戦闘のためではない。
必要であれば必要最低限戦いの中に身を置くこともこの異世界では仕方がないと考えてはいるものの、出来れば命のかかるような戦いはしたくないというのが本音であった。
(まぁ、ひとまずその《デスタイラント》については出たかもしれないというだけで、調査した限り見当たらないと言う事だし、土の中に帰って行ったことを祈っておこう。それよりも、俺がまず考えなければならないのはあの日本人らしい女の子だよな)
そんなことを考えているマサルは、まさか、その日本の知識を持ち合わせた少女こそが《デスタイラント》本人だとは考えても居なかった。
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